第41話 エピローグ

 あの試合はあくまでホワイトウルフズの一軍と二軍の練習試合だったため、いくら桜井くんが出てるとはいえネットで生中継されることはなかったけど、注目選手の桜井くんが打った弾丸ホームランと三振をするシーンが試合終了直後から動画投稿サイトにアップされた。

 その結果、玉井くんの投球が多くの人の目に触れることになり、玉井くんも一躍注目選手の仲間入りを果たしてしまう。

 玉井くんの投球を間近で目撃したホワイトウルフズの監督は、今後もチームのエースとして活躍してほしいとオファーを繰り返し、ときには学校にまで顔を出して懇願するのには玉井くんも困り果てていたけど、その玉井くんを守ったのは、やはりその投球を間近で目撃した藤岡先生だった。

 あれほど、ぼくたちを目の仇にしてきた藤岡先生はあの日を境に、ぼくたちに何も言わなくなった。それどころか春を迎えて桃二を卒業したぼくたちが次に通うことになる公立の中学校には、実は野球部がないことを知っていた藤岡先生はその中学校に出向いて行って野球部の創設を直訴してくれたのだ。その結果はまだどうなるか解らないけど今後もあらゆる手を尽くしてくれると約束してくれた。

 横浜に引っ越してしまった湯田くんは、ぼくたち全員で湯田くんのご両親にお願いをした結果、ぼくたちと同じ中学校へ通うことを許してくれた。

 玉井くんをスカウトしに来たのはホワイトウルフズの監督だけではなかった。ネットに拡散した玉井くんの投球映像を観た甲子園常連校を付属する中学校の野球部の顧問が玉井くんのもとを訪れていた。他にも破格の支度金を用意するといった学校もあったとか、そして誰よりも一番驚いたのは玉井くんのお父さんだったらしい。驚いたときのお父さんの顔を見るのが夢だった高橋くんは喜んでいたけど、このことで実は、玉井くんのお父さんも、センブーや藤岡先生らと同級生だったことが判明する。しかも案外仲がいいとか。ぼくたちが桃三と野球の試合をやっているの知っていたのはきっと玉井くんのお父さんから聞いたに違いない。

 もちろん玉井くんは、ぼくらと違う中学に入るつもりはない。

「高橋が相手じゃないと全力で投げる気がしねえし、バックがイッちゃんたちじゃないと安心できねえから」と言うことらしい。

 野球部ができなかったらどうするのだろう?

 それから実はヨッぴんのところにも幾つかの中学校から入学の打診があったらしい。中には桜井くんから乗り換えてきた学校もあったとか。それでも当然のようにヨッぴんもみんなと違う中学校に行くつもりはない。

「イッちゃんがいねえとモチベーションが湧かねえから」

 藤岡先生は増々、ぼくたちが通うことになる中学校の野球部創設に躍起になった。そこにはセンブーも玉井くんのお父さんも加わった。もし野球部ができなかったとしても、玉井くんのお父さんが監督になって少年野球チームを作ってくれるとまで言い出している。

「なんかその方が玉井チンのお父さんの人脈で色んなチームと試合できそうで面白そうじゃね」とイッちゃんが言った。

 とにかく桃二を卒業したあとのぼくらの野球環境は整いつつあるようだ。

 結局、ぼくらは大人の敷いたレールの上を走ることになるのかも知れないけど、そのレールを敷かせるよう促したのは、間切れもなくイッちゃんを始めとするみんなだ。とぼくは信じている。


「カミちゃん、今日も野球やるだろ」

「うん、待ってよ、イッちゃん」

 ぼくはランドセルを背負って、今日もイッちゃんのあとを追って教室を出た。

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Frienders 鈴木真二 @suzumiya269

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