第3話


 倒れたレイブンを見てコロッセオは静まり返っていた。やはりアルスが勝った。下馬評通りの展開だオッズは二倍にも届かない。最後のアルスの振り下ろしも速すぎて見えた者もいない。やはり最強の騎士が今年も優勝だと誰もが思った。


「待てよ、まだ終わってないぜ」

 レイブンはアルスの攻撃を受けたにも関わらず立ち上がったのだ。その時、コロッセオがひっくり返る程の歓声が響き渡った。ここにいる全ての人が王剣の凱旋を思い出したのだ。炎の四大貴族レイブンはこの瞬間、国民の精神的柱の一つとなった。彼が王国の騎士になれば国民は喜んで称えるだろう、彼が王剣になれば国民は安心して暮らしていけるだろう。レイブンはアルスにそういう戦いを挑んでいたのである。そうして、ここまで来たのならアルスはレイブンには勝てない。


「俺を倒したかったら、殺すまで戦いな。俺は王国騎士に、王剣にそこまで魅了されているんだ。子どもの時から父のような、祖父のような王剣になりたいと願って、努力してきたんだ。でもアルス、お前は違う。たまたま剣の才能があるから、魔法の才能があるから王剣を目指しているんだ」


 レイブンはアルスの情熱のなさをわかっていた。だから、こいつが俺を殺してまで王国騎士や王剣になるはずがないということもわかっていた。アルスに勝つなら観客を味方につけて、最期まで立ち上がる。それだけで勝てる。そこまでが難しいんだがレイブンはやり切ったのだ。


「レイブン、降参だよ。俺はお前に勝てない」


レイブンはその場に仰向けに倒れて剣先を空に向けた。

その先には一羽の不死鳥が飛んでいるように見えたのだった。


コロッセオは歓声に包まれた。


‐‐‐‐‐


薬品の香りが充満する医務室で、アルスとレイブンは向き合っていた。レイブンはベッドの上に座り、アルスはその横の椅子に座っている。



「お前は情熱がなさすぎる」

レイブンは怒っていた。最強の騎士であるはずなのに容易に勝ちを手放したアルスに対してだ。


「俺はお前が王国騎士に王剣に少しでも情熱を持ってくれたら降参できたんだ。お前に心がないとは思わない。俺に降参しているんだから、俺たちの戦いを見て何かが動いたはずだろう。それに最期、剣の振り下ろしは力を抜いたな」

レイブンの中ではアルスが手加減をしたように思ったらしい。


「殺す気はなかったけど。ただ確実に意識は飛ばす気で振ったんだけどな」

アルスは正直にレイブンに伝える。


「そうしたらアルスは無意識のうちに手加減したんだな」

レイブンは一人で納得したようだった。

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チートなのに勝てない騎士。 @aratanico

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