送りだしたものとして(改稿第五版・最終稿)
龍淳 燐
第1話
あの作戦から、すでに1年が過ぎようとしていた。
地球落下コースにある巨大な岩塊を、大量の核ミサイルを使って軌道を変更させる作戦。
作戦実行時までに1、000人以上の死傷者をだし、作戦実行時では第4次攻撃隊16名を含む30余名が死亡した。
表向きは、宇宙開発事業における事故死ということで処理され、補償も行われている。
事故死……。
内心、ふざけるなと怒りの感情が湧き上がってくる。
あの作戦は、地球人類の存亡がかかっていた。
にも拘らず、地上の核保有国は、この作戦で供出させられて減るであろう核弾頭数を少しでも減らそうと妨害工作ともいえる行動をとった。
核弾頭を多く残しておけば、その分他の核保有国に対して強く出られるからだ。
その結果としての死傷者数だ。
今、私はこの作戦の責任者として亡くなった部下たちの家族に、お詫びの手紙をしたためている。
遺族は決して私を許しはしないだろう。
だからこそ責任者として辞任が決まっている。
今は事後処理が多いので、辞任するのはまだまだ先だが、私を引きずりおろす準備は着々と進んでいるようだ。
コンコンコン
扉をたたく音に手紙を書いていた筆を止め、顔を上げる。
「入り給え」
「失礼します」
入ってきたのは、残務処理を手伝ってくれている秘書だった。
「どうかしたのか?」
「はい、実は……」
質問をすると、秘書は少し困った顔で答えた。
「ここか……」
「はい……」
私と秘書の二人は、地球に降りてきていた。
とある女性に会うためである。
覚悟を決め、呼び鈴を押した。
第4次攻撃隊16名は、基本的にランダムで選ばれたと言われているが、実際は違う。
全員両親が高齢か、すでにいない。
もしくは、他に家族がいないなどの条件で選ばれていた。
ただ、ここで例外が生まれた。
第4次攻撃隊8号機のパイロットに交際していた幼馴染の女性がいたという事実だ。
しかも、どうやら彼の子供を出産しているらしかった。
第4次攻撃隊の荷物を片付けている最中に、遺書が見つかり慌てて調べた結果、わかったことだった。
遺書は、8号機パイロットを除いた第4次攻撃隊全員の総意として自分たちの財産を8号機パイロットの幼馴染の女性に送るというもの。
8号機パイロットからは、通信端末のデータの返却と同じく残った財産の譲渡が記されてあった。
どうやら、8号機のパイロットは、隊長をはじめ他の隊員たちに可愛がられていたようだ。
残される者が、せめて生活に困らないようにとの配慮だったのだろう。
だが、16人分となると総額が凄いことになる。
そのため、直接会って手続きをしなければならない。
それは、彼が亡くなったことを直接伝えることに他ならない。
どうやら、彼らは私に部下を死地に送りだしたものとしての責任を果たさせるつもりらしい。
「は~い」
家の玄関の内側から、若い女性の声が聞こえてきた。
私は深呼吸をして、姿勢を正す。
玄関の扉が開いた。
「どちらさまですか?」
「こちらは、橘 朱莉さんのお宅で間違いないでしょうか?
私は、国連宇宙開発機構、木星開発事業部の責任者をしております……」
いいだろう、せめて送りだしたものの責任として、しっかりと果たそうじゃないか。
君たちが気にかけていた女性が何の憂いもなく生きていけるように責任を持ってサポートさせてもらうよ。
それが、私が彼らや、この女性と子供にとれる唯一の責任の果たし方なのだから……。
送りだしたものとして(改稿第五版・最終稿) 龍淳 燐 @rinnryuujyunn
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