転生したいので、現世で立派な人間になります

たげん

人生なんてクソ喰らえ

俺の名前は高田隼悟(たかだ しゅんご)。ピッチピチの20歳。これからの人生有望な若者である。ただ、ムッチムチのデブニートという事実を除いての話だがね。……いや、ここは笑うところだから! ピッチピチとムッチムチかけてるから! って俺は一人で何言ってんだろ。 

 あー、死にたい。もう何も考えたくない、死んだら将来とか、進路とか就職とか、何も考えなくて良い。でも、今も、死ねていないのは死んだ後のことを考えてしまうからだ。残された家族は、友達は……。死ぬ場所だって同じだ。今日こそ電車に飛び込んだらと何度思ったことか。が、実際に飛び込んだら、残された家族に莫大な借金が残ると考えてしまう。

 グズニートで、散々迷惑かけてきたのにさらに借金まではと、流石のクズの俺でも踏みとどまる。おかしな話だろう。死んだら何も考えなくていいのに、その死んだ後のことを色々考えてしまうのだから。

 もういっそ地球滅びないかな。いや、地球が滅びるのはもう少し待ってくれ。なんてったって今日は4年休載したハンハンの再連載日だし! これを読むまでは死ねん! そうだ! ハンハンが完結したら地球が滅びるようにしてくれ。待てよ、そもそもハンハンは終わるのか?   

そんなバカなことを考えながらコンビニへ向かっていた。コンビニへ向かう途中には大きな公園がある。いつも子供達が遊んでいて賑やかなところだ。

 今日もキャッチボールをしている子供がいた。俺にもあんな時期があったもんだ。世界は自分中心に回っていて、やりたいことはなんでもできると思ってた。将来はなりたいものになれるものだと、そう思っていた。

「あ!」

子供の大きな声が聞こえた。横を向くとキャチボールをしていた男の子がボールを掴み損ねたようだ。その男の子はボールを追いかけて道路に飛び出してきた。危ないな。そう思った時には遅かった。トラックが走ってきていた。子供がトラックに引かれてしまう。

まぁ、今から動いたとしてもどうせ間に合わないか。それに少年には悪いが俺には関係ない。そう諦めて面倒ごとに巻き込まれないよう早歩きしようとした時、トラックは急に方向を変えた。トラックは子供に気づいて急ハンドルしたようだ。しかし、その結果俺の方へ突っ込んできた。

死にたいと日頃考えていた。だからか、普通に歩いてて、事故で死ねる事が嬉しかった。何より自分の意思ではなく、他の要因によって死ねたことがとても嬉しかった。俺は不幸にも事故で死んだ可哀想な奴で、被害者としてこの世を去る。親には悪いと思う。散々迷惑をかけた。   

しかも親より早く死ぬなんて、親不孝にもほどがある。でも後悔はない。いや、待てよ。大事なことを忘れてるじゃないか。ハンハン見れなかった……。ま、そんなの今更考えてもしょうがないか。来世に期待しよう。転生したら最強系主人公に生まれ変わって美少女ハーレム作くって、そしてハンハンを布教しよう。


✳︎✳︎✳︎


「おい!起きろ!」

ん? どこだここ?もしや死後の世界? でも、周りは真っ白の空間に物1つない。狭いのか広いのかもわからない。しかし、目の前に1人の男が立っているということだけはわかる。目鼻立ちが整っていて、かなりのイケメンだ。体つきは細すぎず、程よくついた筋肉。そして透き通るように美しいプラチナブロンドの髪が腰まで伸びている。これを神と言わずして何が神だと言わんばかりのオーラを放っている。

ただ1つだけ、1つだけ残念なのは、大事なところを葉っぱ1枚で隠しているという事だ。百歩譲ってまだ緑の青々とした葉なら許せる。でも、ちっさい枯葉はダメでしょ! 威厳ゼロになるよ! お願いだからもうちょっとマシな物で隠して! と叫びそうになるが、すんでのところで我慢した。そして意を決して言葉を発する。

「こ、ここは死後の世界ですか? もしかして転生させてもらえる的な??」

この質問が気に召さなかったのか神は顔が鬼のように歪んだ。

「甘えんな、デブが!だるい、だるい、だるい! この神の私がなんでこんなゴミみたいなやつに時間取らなきゃいけないんだ!」

おっと、おっと? 1つだけ残念な所があるとか言ったけど早くも二つ目かな? 口が悪くない? とてつもなく悪くない?

「異世界転生とか、生まれ変わりとか、自分の頭と身なり、わかっていってんのか?だいたい、お前みたいな生きる価値のないゴミクズが夢見るんじゃねぇぞ! この恵まれた現代日本でもまともに生きらんねぇ社会のゴミが、転生してまともに生きていけると思ってんのか?」

めっちゃボロカス言われるじゃん。いや、泣いちゃうよ? 現実で相当言われてきたから慣れたと思ってたけど、相当くるよ? 死んだけど死にたくなるよ? リスポーン中にリスキルされたみたいな気持ちだよ?俺の心の叫びは届くことはなく、神は話しを続ける。

「生まれ変わっても結局やるのは自分、来世や、転生に期待してる時点で他人任せの運頼み、そんなんじゃ何度生まれ変わってもクズ底辺なんだよ! それに」

え、これ、まだ続くの? オーバーキルだわ! 私のライフはもうゼロよ!

「こっちも転生させるのに一苦労なんだよ!この日本だけで1日に3000人死ぬんだぞ!こんなクズを転生させるなんて労力に見合わなねぇだろ!だからお前みたいなクズには転生も来世も無ぇ。無の世界で一生彷徨ってろ!」

そ、そんな……。でも、そうだよな…。俺はどうせゴミ人間。そんなのは言われ慣れてる。クラスのやつにも親にも親戚にも、今も昔もずっと言われてきた。今までの人生振り返ると少し腹が立ってきた。あの神にも自分にも。

「死んでまで、なんで死んでまでそんなこと言われなきゃいけないんだ!俺だって好きでこんな人生送ってたんじゃないんだ!」

俺の突然の大声に一瞬動きが止まる神。しかし、さらに怒らせたみたいだ。

「好きで?違うだろ!何もしてこなかったのはおまえだろ? 今まで変わりたいと本気で行動した事があるか?現状を受け入れて、先に進もうとしない、進む努力もしない奴が戯言吐くんじゃねぇよ!」

たしかに俺は今まで変わろうとしてこなかったかもしれない。俺は被害者で、このままでいい、しょうがないんだと受け入れてきた。

「でも、それじゃ、どうやって人生やり直せば良いんだよ……。変わりたくてもこのまま無の世界で彷徨うなら何も出来ないじゃないかよ」

「ひとつだけ、ひとつだけ方法がある。が、お前みたいなクズには到底出来ない話だ。大事な事だからもう一度言うぞ。お前みたいなクズには到底出来ないだろうが、もしも本気で転生したいのなら方法を教えてやろう」

こいつ! 毎回ボロクソ言ってくるじゃねぇか! 一言余計なんだよ! 重要なことだけ簡潔に話せよ! まぁ、いい、転生できるなら多めに見てやる。

「俺はこんなクズから変わりたい!転生したい! 転生してハーレム作って、7代先まで遊んで暮らせるくらい金持ちになりたい!」

勢いで邪な考えが口から出てしまった。いいや、それくらい良いじゃないか! 理想は高く!

「高望みしすぎでキモいし、正直引くが、まあいいだろう。その方法教えよう。その方法とは、お前が周りから尊敬される優秀な人間になる事だ!」

「へ?」

尊敬される人間? どう言う事? と疑問に思っていると、それを察したのか神は話を続ける。

「具体的にはまず痩せろ!デブは堕落した生活を象徴している! お前は精神と、ともに肉体も鍛えろ! そして次に、尊敬される人間になれ! 弁護士とか医師、オリンピック選手、総理大臣とか誰もが尊敬するものなら何でもいい! とにかく尊敬される人間になったら転生させてやる!そしてお前にはこれから現世に戻って人生をやり直してもらう。それも赤ちゃんからやり直すのでは無い! 今の20歳グズニートに戻ってやり直すんだ!」

は????????????? こいつ、さては俺を転生させる気無いだろ! 痩せるまでは許す、流石に自分でも思ってはいた。けどその後のはないだろ! 弁護士とか医師とか知ってんのか?なれるわけねぇだろ! しかも赤ちゃんからならまだしも、今の俺にもどってからなんて尚更無理じゃねぇか。

「お前、適当なこと言って転生させる職務をサボりたいだけだろ!」

「うっ」

今『うっ』って言った! 言ったよな! 神は誤魔化すためか咳払いをして話を戻す。

「ゴホン!そう思うのは勝手だが、転生したいならまずは優秀になってからだ! まずは今変われ! 現実で変われ! それから死ね! こんなクズじゃ一生転生できないと思え! これは一度きりのチャンスだ! 次死んだ時にお前が周りから尊敬されるような人間になってなかったらお前は無の世界で一生彷徨う事になる。今からお前を現実へ戻す。今お前は病院のベッドの上だ! この会話は目覚めても覚えてるはずだ!本気で転生したいんなら、せいぜい頑張るんだなクズが! どうせ出来ないだろうがな! はっはっはははははははははは」

「ちょ、まだ話はっ」


✳︎✳︎✳︎


どこからか声が聞こえる

「今は感染症で病床が足りて無いってのに、なんでこんなデブニートにベッドを割かなきゃいけないんだ」

「やめてくだい先生、患者さんに聞こえますよ!」

そうだ、俺はグズニート。現実では何も変わってない。でも、俺は変わってやる!変わって転生してハーレムを掴み取る!そして、その前にあのクソ神にギャフンと言わせてやる!

俺はその日のうちに退院し、計画を開始した。まず毎日10キロ走った。帰ってきたら腕立て、腹筋、背筋、全て終わったらすかさずプロテイン!

ああ、なんか脳筋になりそう! でもなんか気持ち良い! 勉強も小学校から全部やり直し、通信制の高校にも通い始めた。挫けそうになった時はあのクソ神を思い出して、絶対見返してやる! と口に出す!


✳︎✳︎✳︎


そして3年が経ったある日、

「よし!今日は試験だ!とりあえず国立に受かって弁護士になるぞ! そしてあのクソ神を見返してやる!」

試験会場に向かう為、またあの公園の前を通った。そこに青信号で横断歩道を歩いている少年を見かけた。あの時の少年だ。っとその時だった。孟スピードで走ってくる車が見えた。運転手がハンドルに突っ伏している。気絶しているのかもしれない。今からじゃ間に合わない、しかも今日は大事な試験だ。こんな面倒事に関わってる場合じゃない。そうと分かっているのに!時がとても遅く感じる。そうか、あの時助けるのを諦めた俺への戒めか、はたまた神の悪戯か。あの時のことがフラッシュバックする。俺はあそこで子供を助ける判断ができなかった……。

でも今は違う。尊敬される人間になると誓ったんだ。子供一人助けられないで何が尊敬される人間か! そこからはあっという間だった。横断歩道を渡っている男の子に体当たりし、体を歩道へ飛ばした。そこから自分も体勢を立て直してっ……。

何かに躓いた。まずい。顔面から盛大に転んだ。こんなところで死ぬわけにはいかない。まだ、全てここからなのに。大学入って弁護士になって、親孝行して。まだ、尊敬されるような人間になれてない。こんなところで死にたくない。

そうだ少年は無事か? 歩道の方をチラリと見ると少年は膝を抱えてこちらを見ていた。

とりあえず少年は助かりそうだ。

よかった。

グシャッという音とともに俺の意識は闇へと消えた。






























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