第47話
「島さん、おせ~っすよ!かったり~っすよ!」
唖然とする私に、
「こんな感じですかね?」と圭ちゃんは笑みを浮かべる。私は一旦ガクッと腰を落としてから、
「おいおいっ!正夢になったんかって一瞬思っちゃったじゃね~か。って言うかそれ須藤だろ!」私は圭ちゃんのジョークに笑い転げた。
「そうそう、それ智ちゃんに話とかないとな~!」
「し‥島さん。それだけは勘弁してください。ビンタもらいますって!」
どこまでホントなのかはわからないにしても、朝っぱらから二人で笑い合った。
V10の勇ましい音が聞こえたのはそんな時だった。私も圭ちゃんもその主が誰なのかすぐにわかって音のする方向に目を向ける。やがて派手に飾られた大型トラックが敷地に入ってきた。夜叉連合の鈴木さんだ。
エアブレーキの音と共に急停車させると足早に大男が近づいてくる。表情は穏やかでも迫力があった。何事かと二人でポカンとしていると、
「島さん!例の件、片が付いたよ」と息を切らすように鈴木さんが言った。
「例の!?」
ピンと来るまでにはしばしの時間を要した。そして、それを待っていたかのように鈴木さんは話を始めた。
「誰かからもう聞いてるかもしれね~けど、うちのグループの頭の娘をいたぶったって野郎をようやく見つけて焼きを入れてやったんだよ」
「焼きって鈴木さんがですか?」
「よせよ島さん。俺はどっちかといや止める方だったんだから。最初は頭も穏やかに話してたんだけどな。途中から切れちゃってさ。もうすげーのなんの。やっぱり元極道ってのは絞め方も半端じゃね~な」
「・・・・生きてるんですか?」圭ちゃんが訊きたくなるのもわかる気がする。
「殺しゃしね~けどな。さすがにしばらく立てなかったな。もう顔なんてボコボコでさ。最後は泣き入れてたけど、誰だかわかんね~ぐれ~になってたから、泣いてるんかもわかんなかったぜ」
鈴木さんはそう言ってこの位だと変顔してみせた。もちろん出るのは苦笑だけだ。
「グループ総出ならもっと速かったんかもしれねーけど、皆仕事もあるしな。北斗の五十嵐なんかも手を貸してくれたんだけどさ。そもそも桜井なんて名前じゃなかったつんだから手間取るわけだよ」
「間違いだったんですか?」
「いや~。偽名ってやつだ。桜井なんて言ってやがったけど、免許持ってたんで見たら全然違う名前なんだよ。それでまた頭が切れて──」二、三発殴る格好をして鈴木さんも苦笑を浮かべた。
「名前が──。まさに結婚詐欺って感じですね。それでなんて名前だったんです?」
話の流れから行けば訊きたくなるのは当然だろう。鈴木さんは待ってましたとこう言った。
「岩崎っつんだよ」
「岩崎!?」
名前を聞いた途端、思わず眉をひそめた。
「なんだ島さん、ひょっとして知り合いじゃね~んだろうな~?」
「いや、どっかで聞いたようなことがあったような・・・・あ、石崎だったか?」
「それで下の名前が岩男だっつんだよ。岩崎岩男だぜ。それ見て頑丈そうな名前だなってまた頭が──。だけど名前じゃしょうがね~よな~」
思い違いだったということには触れず鈴木さんは自分の言いたいことだけを豪快に吐き出した。ただ、そこは長年の付き合いのある圭ちゃんだ。私の雰囲気から思い当る人物がいることを感じ取ったようだ。
「最終的には娘からだまし取った五十万に慰謝料の五十万を加えて百万を払うってことで話が付いたんだけどさ。高けぇ~火遊び代だな。それにしてもあんな親父がな~。ま~それはともかくこれで俺もやっと肩の荷が下りたって感じだな」
鈴木さんはトラックを見つめてしみじみとした声を出した。
「もしかして島さん達も探してくれてるんじゃね~かって心配だったんでさ。真っ先に知らせに来たんだけど、ようやく安心してイベントに行けるってもんだぜ。そうそう、綺麗に磨かなきゃならね~からこれで!」
言い終えるや鈴木さんは慌ただしくトラックに乗り込むとホーンを一発鳴らして去って行った。
「半殺しって感じですね」圭ちゃんは余韻でも噛み締めるかに私に声を掛ける。返事が今一つ曖昧だったのは、半分別のことを考えていたからに違いない。
岩崎・・・・親父・・・・このところ来てない。これらが一人の人物に結びついて仕方がなかったのである。
「そうだ。圭ちゃん。夕方にでもちょっと話があるんだけど」圭ちゃんにも話しておかなければならないと私は一言そう言って仕事に取り掛かった。
今の圭ちゃんならばニュアンスである程度のことは伝わるのだろう。私が声を掛ける前に「島さん、俺のでちょっと出ませんか?」とシャッターを降ろしながら言った。その表情からして内容も察してるに違いないと、私は顎を動かして圭ちゃんの車に乗り込んだ。
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