第7話

「ありとあらゆる強引な入部勧誘を、今日に限り許可する!! 凡愚どもを狩り尽くせ!! 最も多く狩った部活は"部予算の増額の権利"をくれてやる!!」


 金剛寺の言葉に、部員達は雄叫びをあげる。

 一年生達は混沌と絶望に飲み込まれていく。


(嫌な予感当たっちゃったよ……)


 美咲は困ったように前髪を触る。


「ミーちゃん!」


「なに?!」


 晴香に呼ばれ、美咲は反応する。

 晴香は周りをキョロキョロと見渡したあと、再び口を開いた。


「どの部活入る?」


「嘘でしょ!?」


 状況を分かっていないのか、突拍子もないことを聞いてきた。


「ハルちゃん聞いてなかったの? アタシ達に部活を選ばせるつもりなんてないんだよ! この人たち!」


「えぇ?!」


「それと、アタシはどこの部活にも入る気ないから!」


「じゃあ私も入らないにする!」


 美咲としては、晴香がどんな部活に入りたくても、気にするつもりはなかった。むしろ高い運動神経を生かせる運動部にでも入った方が晴香ためになるかもしれないと思っていた。


「……無理に合わせなくてもいいんだよ? 」


「無理なら無理って、ミーちゃんにはちゃんと言います!」


「……なら、訳の分からない部活に入部させられる前に、一緒にここから脱出しないと──」


「きゃぁぁあああ!! 離してください!!」


 五組の後ろに並んでいた一年十組の方から悲鳴が上がる。

 見ると、女子バスケ部であろう人が、一年生の大人しそうな女生徒の腕を掴んでいた。


「やだよぉ。離したら逃げるでしょ?」


「離してください!」


 二人の押し問答。そこにTJD(タタカブ・ジャッジ・ドローン)が飛んでくる。


『主張の対立を確認しました。TKJP法に則り、タタカブを行いますか?』


「やるわけないでしょ!」


 女生徒の絶叫のような拒絶に、ドローンは沈黙する。


「バスケはいいよぉ。レイアップとか出来るようになりたくない?」


「興味無いです! 私は茶道部に入りたいんです!」


『主張の対立を確認しました。TKJP法に則り、タタカブを──』


「だからやらないって言ってるでしょ!」


「タタカブはいいよぉ。本当にやらないの?」


「やらねぇって言ってんだろうが! この玉入れ野郎!」


 大人しそうだった女生徒の言葉に、ドローンが警報を鳴らし、赤いランプを点滅させる。


『深刻な主張の対立を検知! TKJP法に則り、強制的にタタカブを行ってもらいます!』


 小さなドローン達が、長机バトルフィールドをどこからともなく運び込み、対立する二人を区切る。

 タタカブは断ることが出来る。しかし三度同じ人と対立すると、強制的にタタカブを行わされるのだ。


「俺は柔道部になんか入らな──」

『深刻な主張の対立を検知!』

「吹奏楽部ぅ? 平均練習十時間? 殺す気ですか?」

『深刻な主張の対立を検知!』

「え? アルティメットテーザーボール部? なにそれ」

『深刻な主張の対立を──』


 次々と運び込まれる長机。燃え広がるように戦いが起きる体育館。

 錯綜する状況と混沌に美咲の意識はかき乱させれる。

 そんな彼女にある言葉がかけられた


「サッカー部のマネージャーに……興味無い?」


「……げっ!」


 その一言が、混乱する美咲の意識を、イッキに現実に引き戻す。眼前にサッカーユニフォームがあり、顔を上げると、にこやかな笑顔を貼り付けた男がいた。


(まずいよこれは!)


 一年五組は右端に並べられていて、先輩達の包囲にとても近い。真っ先に狙われるのは必至。

 晴香の方を見ると、同じように野球部から声をかけられていた。


「野球どう? マネージャー足りなくてさ」


「……」


(ハルちゃん凄い否定したそうに下唇を震わせてる!)


 美咲も晴香も絶対絶命。

 しかし先輩の向こうには、体育館の外へ通じる引き戸が開きっぱなしになっていた。


(先輩達が入ってきた引き戸! ……あそこからなら逃げられる!)


 だが目の前にいる爽やかサッカー部員がそれを阻む。

 かくなる上は……。

 美咲は意を決し、口を開く。


「サッカー部のマネージャーですか……凄く……いいと思います」


「ミーちゃんサッカー好きなの!?」


 晴香が、こちらを向いて目を丸くする。

 全くそんなことはない。運動部のマネージャーなど死んでもやりたくはなかった。

 サッカー部員は、嬉しそうに頷く。


「おぉ! じゃあ早速入部届けにサインを── 」


「でも!」


 美咲はサッカー部員の言葉を遮ると、晴香の前にいる野球部員に目を向ける。


「野球部もイイなぁって思うんです」


「ミーちゃんちゃん野球も好きだったの!?」


(頼むから静かにしててくれぇ!)


 晴香が目をパチクリさせながら驚愕している。

 野球部は、照れくさそうに鼻の下を指でこする。


「へへっ! 君、分かってるじゃん」


「それでアタシ思ったんですよ」


 一呼吸置いてから、美咲は続けた。


「野球部とサッカー部……どっちがイイのかなって」


「そんなの、サッカー部に決まってるよ」

「そりゃ、野球部一択だな!」


 言葉が重なった。

 二人の視線が静かにぶつかる。


「何、お前? サッカーとかいうゴミスポーツが、野球より上なわけないだろ。足ばっか使ってないで頭も使えな、低脳」


「君たちのような、無駄にケツのデカいハゲ猿がやるスポーツが、サッカーより良いわけないよね。棒振って遊ぶのは小学生までにしときな」


 しばらくの静寂の後、彼らは叫ぶ。


「「やってやろうじゃねぇか、この野郎!!」」


『主張の対立を確認しました。TKJP法に則り──』


 サッカー部員と野球部員のタタカブにより、美咲と晴香の前に隙が生まれた。


「今だよ! ハルちゃん!」


「うん!」


 タタカブの間を抜い、二人は外へ向かって駆け出すのだった。

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