最終話 歳月を経る
「見つかった?」
アナスタシアの問いにリナは首を振る。リナはジャンが七歳になった時、乳母を辞めて、里桜の侍女に戻っていた。
警報音の後、突然息を切らして帰って来た里桜は自分でドレスを脱ぎ捨て、尊者の装束に着替えだした。そして、リナたちが止めるのも聞かずにそのまま走り去ってしまった。
「リオ様ったら、どこに行ってしまったの?」
「申し訳ない。陛下とご一緒だったので、少し間隔をあけて護衛していたから。」
申し訳なさそうにするクリストフとモルガンにアナスタシアもリナも首を振る。
「リオ様は年々私たちを撒くのが上手くなってしまわれて…」
「未だにコルセットは嫌いだと言って、普段コルセットを着けないのもこういった時のためだと勘ぐってしまうほどです。」
そこにララがやって来た。
「温室に行っておりまして、警報音が鳴りましたので急いで帰って来たのですが、王妃様が尊者の装束で裏手に向われるのを見まして、何か大変な事でも起ったのかと…」
そこにいたアナスタシアたちは深いため息を吐いた。
アナスタシアとリナが、半地下にある天馬の厩舎へ向っていると、ルイとジャンが向かいから歩いてきた。
「お二人ともここで何をなさっているのですか?」
「お二人でここへ来たのですか?侍女はどこですか?」
ルイとジャンはニコニコしている。
「
「僕は母上のような大尊者になる。」
アナスタシアは深くため息を吐いた。
アナスタシアやリナはレオナールの執務室にいる。脇に立っているクロヴィスやアルチュールは既に笑っている。
「陛下、今すぐに王妃様を連れ戻して下さい。」
「アナスタシア。母上は民を守りに行ったんだ。悪いことをしているわけではない。」
アナスタシアの隣に立っているルイは少し怒ったようにアナスタシアに言う。
「僕は母上のような大尊者になって、民を治療して魔獣退治をする。」
リナの側にいるジャンは胸を張って言う。レオナールはにこやかにジャンに相づちをすると、
「ドンカーの森の付近にエイスクルプチュルが出現したらしいのだが、生憎ザイデンウィンズの付近にダウスターニスまで出現していて。特伐隊と第一団隊はそちらに手を焼いている。だからリオがドンカーの方へ向ったのだろう。」
その言葉にルイは目を輝かせ、
「はい。シルヴェストル伯父上と一緒にドンカーへ行くと言っていました。」
マルゲリットやエリザベートはもちろん、今年十歳になるルイと八歳になったジャンも共に将来の夢を母親のような大尊者と言っている。五歳になるフィリップもおもちゃの剣を振り回しながら天馬に見立てたクッションに跨がり魔獣討伐を日々行っている。
「私の息子たちに、国王は人気がないな。私も一緒に天馬に乗って魔獣を討伐しに行くとするか。ルイとジャン。国王だって魔獣討伐は出来るのだぞ。」
「陛下。」
リナは苛立ちを隠さないままで言う。
レオナールは‘あまり怒るな’と笑いながら言った。
「仕方がないだろう?私はそう言うリオを愛しているんだ。大丈夫だよ。私の大切な人は怪我一つ負わずに帰って来る。約束したからね。」
レオナールは、ある晩の里桜との会話を思い出す。
何者でもなかった二十三歳の私は、こちらに来て初めて自分に成し遂げる努めができ、沢山の事を経験しました。
その中でも一番奇跡的だったのが陛下にお会いできた事です。
陛下、今一度お約束下さい。
おじいちゃん、おばあちゃんになっても二人で天馬に乗って下さると。
私はそれを想像するだけで楽しい気持ちになれるのです。
私は陛下となら、年を重ねるのも楽しく思えます。
これから先も、二人で楽しく過ごしましょうね。約束ですよ。
______________________________________
長い間、お付き合い下さいましてありがとうございます。
思いがけず、長くなってしまいました。本当にここまで読んで下さったこと感謝申し上げます。
赤井タ子
______________________________________
転生聖職者の楽しい過ごし方 赤井タ子 @akai-tako
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます