「定員オーバーだから」と登録を抹消された初期冒険者は、魔王にダンジョン最深部へ導かれて、報復の機会をうかがう

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

どうも。あなたに登録抹消された「初期冒険者」です

「はあ、はあ。なんだよコイツ!」


 ベテランの剣士が、ボクに語りかける。


 彼はもう、死に体だ。一度も、ボクにダメージを与えられない。

 外見や経験値からして、剣士はかなりの修羅場をくぐり抜けてきたのだろう。

 だけど、それだけだ。

 剣士とニンジャでは、素早さのレベルに差がありすぎるからね。


 彼についている女魔法使いをまっさきに戦闘不能にし、返す刀で僧侶も眠らせた。

 上位職のサムライや女聖騎士はがんばっていたみたいだけれど、クリティカルを連発できるボクの敵ではない。


「つ、強い。さすが、ニンジャ強い」


 シーフに至っては、腰を抜かして戦闘不能だ。

 うわ言のように、なにかをブツブツとつぶやいている。

 

「お、お前何者だ!」


 ベテランの剣士が、ボクに向かって剣の切っ先を向けた。


「もう忘れたのかい?」


 あ、待てよ。頭巾をかぶっているから顔が見えないのか。


「待ってて、今顔を見せてあげるね」


 ボクは、頭巾を取ってあげた。

 剣士くんに、よく顔が見えるように。


「……お前は!?」

「思い出してくれたかな? そうだよ。ボクはキミに登録抹消された元戦士だよ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 すべては、彼の一言から始まった。


 一人の若い剣士がボクの前に現れ、こう告げる。

 

「登録抹消しますね」

 

 一瞬、何を言われたかわからなかった。


 剣士は当たり前のようにボクの冒険者登録を消す。

 

 ボクが冒険者として居座ると、仲間を登録できないからって。


 装備品まで、剥ぎ取っていった。

 これ、ダンジョンの戦利品なんだけど?


 なんだよ。ボクってそういう役割なの?

 やっとソロ狩りから卒業できると思っていたのに、ぬか喜びしちゃった。

 

 仕方ないなあ。


 とはいえ、冒険者ギルド内で乱闘はご法度だ。


 おとなしく、普段着のまま過ごすことに。

 

 ああ、無職になっちゃったな。

 このまま田舎にでも帰るか。

 畑仕事って、全然楽しくないけれど。


 でもせっかくだし、ダンジョンをひと目見てから帰ろう。

 

「……我がもとへ来い」

 

 そのとき、ダンジョンから声がしたんだ。


 なんだろう。怖いな。

 でも、呼んでるから危なくないかもしれない。


 丸腰の状態で、ダンジョンへ。


 モンスターは襲ってきたけど、全員素手で倒せるレベルだ。

 ちっとも怖くない。

 スライムには手こずったけど、拾った武器で殴ったら消滅した。


 今、ボクのレベルっていくつだっけ?

 五〇越えた辺りから、数えてないや。

 そんなハイレベルの戦士でも、冒険者って消しちゃうんだなぁ。


 最下層フロアまで、来てしまったな。

 

 そのうち、強いモンスターは襲ってこなくなった。

 なんでだろう。


「我が、モンスターの思考を制御しておるのだ」


 ダンジョンに深く潜る度に、声は近くなっていく。

 直接脳内に、語りかけてくるなんて。


「あなたは?」


 そこにいたのは、若き女魔術師だった。

 通称「魔王」という。


「我は魔王。このダンジョンを作ったものである」

 

 たしかボクたち冒険者は、魔王を倒して彼が作ったダンジョンを破壊するために招集されたんだった。

 しかし、ダンジョンに配置されたモンスターが貴重品ばかり落とすから、それで生計を立てるのんきな冒険者が増えてしまっている。


 これも、魔王と呼ばれる少女の策略なのだろう。


「そんな魔王が、どうしてボクなんかを呼んだんです?」 

「このダンジョンが、もうすぐ攻略されてしまうからだ」


 冒険者たちは、日に日に強くなっている。

 ダンジョンを踏破されるのも、時間の問題だという。


「そこで、ダンジョン攻略を少しでも引き伸ばすために、お前には門番になってもらいたい」

「ようするに、ボクにモンスターをやれと」

「うむ。ふるまいからしてお主、ダンジョンの踏破に興味がないようだからな」

「アイテム目当てだからね」

 


 食べられるだけの資金が得られたら、それでいい。

 ダンジョンでのその日暮らしは、ボクにとって天職のようなものだ。

 その喜びを「登録者の定員がオーバーしたから」って消されて。

 


「お主も不愉快だろう? 理不尽な理由で登録を抹消されて、ギルドも追い出されて。我も、あの国王には煮え湯を飲まされている。『お前がいるとオレが目立たねえ』と追い出しおって! 我は支配など興味がないというのに!」


 魔王も、この土地の王様を困らせてやりたいと思っていたようだ。


「やつが生きているうちに、攻略などさせるものか。もっと引き伸ばして、やつの金庫をネズミだらけにしてくれる」


 どうやら、魔王はあの国王を破産させてやろうと考えているらしい。

 


「そこで、我が秘伝を授ける。これを」


 魔王はボクに、小さい短刀を握らせた。

 手のひらサイズで、三角錐の刃が光る。

 

「スリケンだ。何も装備しておらぬお主は、これより丸腰ニンジャとして生きよ。ニンジャは、装備品がある方が動きづらいからな」

「これで、どうしろっていうんです?」

「冒険者たちにわからせろ。自分が捨てた人物が、どれだけ貴重だったか思い知らせてやれ」


 今度は自分が、冒険者たちを狩ってこいと。


「お主以外にも、様々なタイプの輩を雇っておる」

「そういえば、ダンジョンを徘徊していたハイレベルの冒険者がいましたね」


 なんでこんなところにソロでいるんだろう、って思っていた。

 

「うむ。ウィザードとプリーストが何人かさまよっておったであろう? 彼らもギルドで登録抹消されてココへ来た配下である」


 マスターシーフの女性もいたっけ。

 彼女もおそらく、魔王に従っているのだろう。


「彼らも同じ理由で、冒険者を狩っておる」

「いわゆる『ざまぁ』ってやつですか?」

「そうだな! いいのう、『ざまぁ』か。よい響きだ。ではゆくがよい。思い上がった冒険者共の首を刈り取ってくるのだ」

「仰せのままに」



 こうして、ボクはスリケンだけを手にした「丸腰ニンジャ」として覚醒する。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


「丸腰のニンジャって、ホントに強いんだってねー。今、すっごく実感しているよ」


 ボクの足元には、あまたの冒険者たちが気絶している。

 剣士たちと同じように、魔王を倒しに来た者たちだ。


 全員返り討ちにしてあげたけど。


 モンスターたちが、彼らをダンジョン入り口まで運んでいく。

 装備品を全部剥ぎ取って。


「キミもあれから、相当な鍛錬を積んだんだろう。けど、ボクはキミに抹消された段階で、今のキミよりも強かったんだよね」 


「装備品は返します! 見逃して!」


 えらい変わりようだ。

 初期の勇ましさや荒々しさはどこへやら。


「いらないよ、そんなもの。返してはもらうけど、ダンジョンに再配備させてもらうね」

「……じゃあ死ねえ!」


 ボクに向かって、剣士は斬りかかった。


「そうこなくっちゃ」

 

 剣士に向かって、ボクはスリケンを投げつける。


 スリケンは大きく弧を描いて、剣士のウナジに突き刺さった。


 白目をむいて、剣士は前のめりに倒れ込む。

 神経毒が効いてきたのである。


「じゃあ運ぶんで。手伝ってください」

 

 モンスターたちに、倒れたパーティをダンジョンの入口へ運ぶように指示を出す。


「コイツら、エナジー・ドレインしていい?」


 サキュバスが問いかけてくる。


「いいですよ。レベル1になるまで、吸っちゃっても」

 

 経験値を失った剣士パーティを、入り口へ捨てた。 

 

「今度登録抹消されるのは、キミたちの方だよ」


 ボクたちのようなバケモノが、最深部にはウジャウジャいるんだ。

 あとは、勝手に逃げ出すだろう。


 初期登録者を抹消した報いだ。

 何も、罪の意識を感じない。


 おっと。

 

「さて、お仕事お仕事」


 ボクにはまだ、大事な仕事が残っていたんだった。


「よしっと」

 

 冒険者ギルドの酒場に座る。


 一人の冒険者が、ボクの方へ語りかけた。


「登録を抹消します」

 

「はいどうぞ」


 また、次の獲物が来たぞ。

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