師走

 

 薄い氷、雪うさぎ

 色とりどりの樅の木

 割れそうな杵

 


 十二月


 白髭おじさん

 甘く溶ける砂糖

 ターキー

 深酒

 

 朝陽がやたら眩しいのは、太陽が差しこむからと思ったが違うかった。


「ねえ、綺麗!!」


 朝一番に例の武器を片手に、彼女が窓を開く。

 窓の向こうに見えるのは、銀色の世界。そして、さむっ!

 何の嫌がらせかと俺は、彼女を寝ぼけた眼で凝視した。毛布にも急いで包まる。


「あはは。寒いね?」


 玉杓子を口にあて、あどけない眼で俺を見る彼女は可愛い。

 顔が綻び笑顔が溢れるが、手には尖る玉杓子。気づいた時には遅かった。


「もう、起きて! 今日はケーキとケンタくんを持って家に帰るんだから」


 例の武器の、洗礼を受けた。


 それは痛いんだ、角が当たると刺さるんだぞ!


 叩かれた部分の頭を、いそいそと指で揉み込んだ。そんな様子を彼女は笑う。

 彼女の笑顔は眩しい。


 俺の部屋には、小さい仏壇が一つある。俺には家族がいない。最後の身内の祖母も他界。

 起きたらすぐ、手を合わす。

 いつもの日課。

 黙って仏壇の鐘を鳴らすと、あることに気が付いた。

 カスミソウが生けてある。祖母と母が好きだった花。

 小ぶりなりに芯がしっかりしてるからと。そんな理由で、二人が好きだった花。

 俺はこういうことに疎く、生けたことがない。

 小さな瓶に、生けられたカスミソウ。仏壇の前で動かない俺に気づき、彼女は話す。


「お婆ちゃんとお母さんの好きな花でしょう?」


 訊ねられ、俺は凍った。

 幼なじみには話したが、彼女には話してない。

 彼女を見て顔を強張らす。

 俺の眉間は鏡がなくても解るぐらい、シワが寄るのを感じている。

 彼女は飄々として、違う話しを続けた。不思議そうに俺の顔を覗く。

 声に出した言葉に、何の違和感も感じていないらしい。俺を見て、首を傾げた。


「? 怖い顔」


 彼女に言われ、顔を元に戻す。


 いやいや、そんなことはあるモノかと頭に言い聞かす。

 彼女は微笑む。

 無邪気に可愛いく。


 気のせい……だよな。


 彼女と買い物に、出掛けた。

 

 街は賑わう。色とりどりのイルミネーションがチカチカと。

 飾られたクリスマスツリー。

 通り過ぎる店からも、当たり前のように流れる曲。

 彼女とおよそ1時間、例に並びお目当ての「ケンタくん」を手に入れた。

 これは彼女の口癖だが、困った。

「ケンタくん」呼び方も一緒だ。


 なぜ、キミはここまで似ている。

 幼なじみが憑依しているのではと錯覚と言うよりは、疑念が生まれ始めた。


 空の遺骨壺、空っぽの記憶

 空箱の火葬、空蝉の皮膚

 位牌の笑顔、隣の笑顔


 悩んでいると、サンタのおじさんにチラシを渡された。彼女が覗きこんで顔が微笑む。菓子屋がケーキの宣伝をしている。

 手を引っ張る彼女。


 ケーキは逃げない。

 

 並ばずに手に入り安堵するが、さすがクリスマス。何処も盛況だ。

 無事、彼女の家に着く。

 初めて迎える彼女の家でのクリスマス。深酔いし過ぎて帰れない。

 ウトウトしていると「朝、頑張るぞ」と父親に話し掛けられた。


「?」

「朝から、杵と臼で餅つきだぞ」


 寝入り掛ける俺に彼女が耳打ちする。マジか、眠いぞ、しかも朝に杵とは……体、大丈夫か? 

 と、体力の限界を感じつつ、コタツで寝むる俺。

 彼女はそんな俺に、優しく毛布を掛けてくれた。


 


 

 

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