神無月

 

 紅く染める空

 小さく震える赤い羽根

 茎をおもむろに晒し、赤い花片を突きつけ

 生きているのだと主張する花

 

 十月

 

 茜色の空

 紅く染める小さな手

 香ばしい匂いの紫色

 黒い空に浮かぶ大きい黄色



 テーブルの真ん中に、白い丸いモノ? 丸かな見た目は。

 俺は手に取り、白く歪なモノを口に運ぶ。うん、団子だ。

 団子が皿に盛られ、ススキが飾られている。


「今日は中秋の名月」


 彼女は楽しそうにテーブルの真ん中を見て、微笑む。

 そう言えばあいつもよく、飾っていたな。飾られる団子はいつも、歪な形……。目の前のも歪だ。

 彼女と自分の部屋。半々を行き交う生活を始め、七ヶ月になるだろうか。まだ、幼なじみ前の彼女と比べる俺。こうも似てると……

 俺に対する呪いなのかと、思ってしまうほどに。

 彼女が居てくれて嬉しい思いと悲しい思い、半々の俺がいた。


「明日、行くんでしょ。お参り」


 彼女はそう言うと、物悲しげに頬笑んだ。

 そう、明日久々に会いに行く。

 と言っても幼なじみあいつは───


 翌日、久々に訪れた。

 馴染みの家に。

 小さい頃よく。いや、ついこの間まで勝手に上がりこんでいた。勝手知ったる我が家同然の……

 他人の家。


 仏壇。


 別に命日でも何でもない。

 ただ気持ちの整理のために。


 訪れると手厚く持てなされ、仏壇前に座る俺。

 手を会わす。

 仏壇前には、やはり団子とススキが飾られていた。

 仏間には、縁側があり小さな庭がある。

 紅い、てふてふがゆらゆらと。

 この縁側でよく座り、小さな庭を眺めていた。そうそう、あいつもよく団子を……?!


「美味しいよ。お団子」


 そう。団子を頬張る彼女のように。

なぜ、いるの……


「彼女、本当に私そっくり」


 位牌写真を眺めてポツリ。

 なぜかついてきた、彼女。

 落ち着きそして縁側で、団子を頬張っている。

 正直な気持ち、


 似ているから止めてくれ。


 だが俺の気持ちは虚しく砕かれる。

 幼なじみの母親も、驚いていた。あいつが帰ってきたと。

 彼女は似すぎている。

 他人の空似以上に似ている。俺も思うから。でも、違うのだ。

 似ているだけだ。


 よく来たね。

 お茶を出された。

 縁側を見る、あいつの母親。

 縁側で団子を頬張る、今の俺カノ。

 「よかった」と胸を撫でおろされた。確かに長年連れ添い、後少しで家族という時に先立たれたから。

 見せてよかったのかは、わからない。だって、彼女を視た瞬間「お帰り」と泣かしてしまった。

 幼なじみの母親。

 見せるのではなかったと、後悔したが、ついて来ていたのだ。

 気が付いたのは玄関先だ。


 間抜けな俺だが、彼女に信頼されてないのかとさえ思ってしまう。

 引き摺る俺も俺だし。

 なぜ玄関まで気が付かない。俺。


 こうして見ると、本当によく似ている。

 縁側で焼き芋を頬張り、赤とんぼを見る彼女。

 おばさん、なぜ焼き芋ですか?


「美味しいね」


 嬉しそうに笑う彼女。

 彼女は喜んでいるが、他人の家で寛ぐキミに驚くよ。

 ああ。やはり泣かしてしまう。

 だが、おばさんが「お帰り」と言ったのにも訳がある。

 葬儀は、遺体のないまま進められた。

 

 飛行機事故。

 機体は散乱、誰が誰かわからず、集団で埋葬されたから。

 葬儀に参列していない俺は、後から聞かされた。

 空の遺骨壺、形だけの葬儀、形だけのアイサツ。

 空しいだけの位牌。


 彼女にも悪いことをした。

 泣きじゃくる母親を納得さすため、背中を曝け出させた。


「ねえ、石の間で赤く咲くのは何?」


 ああ。曼珠沙華、別名彼岸花。

 

 赤い尖った感じの花片は、茎ごと風に揺れる。

 

「綺麗だね」


 帰り路、茜色の夕焼けがある。

 隣で微笑む彼女に、俺も微笑み返した。手にある袋には紫色のほくほくがあり、横で頬ばる彼女。

 彼女の笑顔が、夕日で赤く染まる。

 頬に赤みが差した分、笑顔はさらに嬉しそうに。

 横で笑う彼女に、俺は救われている。

 手を握り、俺の部屋に着いた頃。

 空には、大きな満月が浮いていた。


 

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