葉月
熱い季節。
夜に咲く花、
海と浮き輪
八月
照りつける太陽。
笑うヒマワリ。
道路に浮かぶ陽炎。
音が鳴る砂。
子どもたちが、浮き輪を持って歩く海沿いの道を彼女と歩く。俺の片脇にも浮き輪がくぐり通してある。
彼女の白い肌には、汗がにじむ。
日傘を持って歩いても、追いつかない夏の日照り。
「服のまま、海に入って怒られない?」
彼女は何度も尋ねる。
確認するたび浮き輪を口にあて、俺に。そういう仕草もそっくりだ。
悪いと思いつつ重なる
彼女は海に入りたいが、脱げない。泳がない。
理由を知る俺は、助言した。
服のまま、浸かる人はごまんといるさと。彼女は満面の笑みで喜ぶ。
なぜ、脱げないか。
彼女の皮膚には手術痕が残る。
皮膚移植の痕だ。背中と太腿に。
痛々しい身体は見られたものではないと、彼女は嘆いていた。
一度見せてもらったが、俺は綺麗だと思った。
彼女が生きている証しだ。
海を見ると彼女は喜び、足を浸ける。浮き輪を腰に巻き、クルクルと。
うん、かわいい。
俺も顔が綻ぶと同時に、
いや、気のせいだ。
顔が
浮き輪の回し方なんて皆、一緒だ。海で戯れる彼女を、視線で追いかける俺がいる。
頭が疑問符で溢れる。
浮き輪を腰から上へと回し、頭で受け止める。サッカー選手の、ヘディングのように。
幼なじみはサッカーが得意だったことを覚えている。
その癖そのものが目に飛び込む。自問自答する。
こんな癖、
いや、しないよ!
俺は、無我夢中で海に飛び込み。彼女を捕まえ……
二人が濡れた。全身びしょぬれ。
「ええ? 見物では?」
彼女が笑う。
二人は向き合い、髪から海水を垂らす。半身を沈めていた。
大人びた、可愛い笑い声は幼なじみより高い。
ああ、気のせいだ。
たまたま……だよ。
「? あれ? 前にあなたと? ってそんな訳ない。ない」
明るく笑う彼女がいるが、可笑しなことも口走る、彼女もいる。
「フフ、夜は花火にお酒を飲んで。明日の昼は昼寝かな?」
浮き輪を口にあて、振り向き笑う。その仕草はやはり似ている。
固唾を呑む俺は、足が動かない。彼女は気が付き、俺の後ろに回る。
彼女は俺の、背中を押す。
「動かないと置いてくぞ?」
身体を密着させ、肩から覗く瞳の仕草に心臓を打たれる俺がいた。
あいつにされたことのない、ウィンクに背中の密着。
濡れた服は肌を曝す。素の感触が、直に伝わる。
俺は照れた。
彼女も照れたが、離れなかった。
俺からしない限りはない、行動。
彼女はそれを、すんなりやり遂げる。やはり、他人だ。
似すぎてるだけだ。
手を……俺は彼女の手を、強く握り返す。そうだな。早く帰ってビールを飲もう。花火もやろう。
濡れた服は、夏の日照りが渇かしてくれた。
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