第41話 告白
ピタリ・・・・。
何かが自分の頬に触れた。
温かみを感じた時、飛び起きた。
「お、おはようございます!」
「あ・・・・おはようございます」
某とサクヤ様は社の中にいた。
気がつけばそこで朝を迎えた。
「い、今のは何を?」
「もっ申し訳ありません!もしかして死んではいないだろうかと心配になってしまい・・・」
サクヤ様は生きていたのが嬉しかったのか、目にうれし涙をにじませていた。
「・・・この辺りを一緒に歩きませんか?」
「あっは、はい!」
ホロとククリ殿がいない。
平泉がどうなったか分からない。
兄者は救えなかった。
鬼神はあれで封印されたのか?
色々と不安があるがまずは外に出ねばと、社の扉を開けた。扉を開けると太陽が某とサクヤ様を照らした
「良いお天気です」
「そうですね」
森の中にある社だった。遠くに田園風景が広がり、農民が畑を耕し、数人の子供達が遊んでいた。
「光ー!」
「ん?・・・あっ!」
パカッ、パカッ、パカッ・・・・ザッ!
馬が2頭現れた。
ホロとククリ殿だ。
狼が馬に乗ってやって来た。
「天狗がお前らの居場所を教えてくれて、この馬をくれた。良い馬じゃねぇか!」
「そんなことよりホロ、ここがどこか分かるか?」
「ここは大塩だ」
「大塩か!?」
ここは信濃国(しなののくに)の大塩だった。某達は奥州からだいぶ離れた所にいるようだ。
「サクヤはククリと共に朝飯作れー!」
ホロが馬にくくりつけていた。天狗からもらった鍋と食材と、自分が仕留めた獲物をおろした。
「光、ククリの馬に乗れ!」
「あっあぁ・・・・」
某はククリが乗っていた馬に乗った。ホロは馬の腹を蹴り森の奥へと駆けて行き、某も続いた。
「さぁサクヤ殿、殿方の朝飯を作るといたそう・・・」
「はい・・・」
境内にサクヤとククリが残った。
* * *
「どこまで行くんだ?」
静まりかえった森の中をホロと2人で入っていく。この静けさの中に奴がいるのでは無いかと心が静まらない。
「よし、ここら辺で良いだろう・・・奴、出てこねぇだろうな?」
ホロも同じなのか辺りをキョロキョロ見回して安全を確かめた。
「身体見せてみろ」
某は直垂を脱いだ。
奴の模様は消えていた。
「消えたのか?奴の血が?」
「身体はどんな感じだ?」
「違和感がある・・・」
正直、これで奴から解放されたとは思えなかった。
「おめぇ自分を犠牲にしてサクヤを義経と一緒に日本から海を越えさせて逃がすつもりだったのか?」
「海を渡ってどこか遠い奴に出会わなくてすむ場所で・・・兄者とサクヤ様が幸せになれば・・・と思った。」
「これからはお前がサクヤを守るんだよ。俺の言葉が分かるか?」
「・・・まさか!?」
「まさかじゃねぇ!奴はどうなったか知らねぇ。義経はいない。だが、サクヤはいる!お前がサクヤの夫になるんだ!」
「しかし・・・某はサクヤ様を幸せにできるのか?」
ドス!
「ぐぇ!」
ホロの強烈な一撃を腹にくらった。奴との戦いで傷を負った後の一撃は、なおのこときつい
「お主は自信はあったのか?」
お返しのつもりで逆に聞き返した。
「あるわけねぇだろ!」
さすがホロ。強引に結婚を勧めてきて、自信ないとはっきりと言った。
「結婚てのも人生の一部だからな、先が見えねえから希望やら失望やら色々あるかも知れねぇけどよ・・・人生決断だろ!」
* * *
「ククリさま、わたくし罪を感じております・・・」
「どんな罪じゃ?」
光とホロが話をしているとき、サクヤとククリも2人で話をしていた。
「わたくしは義経さまの妾になる時、静御前として、義経さまを生涯支えようと決意しました・・・ですが義経さまを見捨てました」
「恥じておるのか?夫を見捨てたことを?」
「・・・はい」
パカ、パカ、パカ・・・・。
光とホロが帰ってきた。
ククリは光を見ながらサクヤに言った。
「静御前が誰を好きだったのかは知らん。だが、そなたが好きな男は知っておる」
「ククリ!飯は出来たか?」
「出来ておる!」
4人は社の階で朝飯を食べた。
「なぁ光、俺らが海を越えて異国の地を見てみねぇか?」
「我らが?ちと怖いな・・・」
「どうせどこ行ったって奴が来るんなら、広い世の中で奴に出会ったら良いじゃねぇか!なぁ、ククリ?」
「今はゆっくり休みたいわ。サクヤ殿はどうする?」
「わっわたしは・・・どうしましょう?」
この世界の話をしながら3人は食べた。
そして食事が終わるとホロはククリに目配せすると2人は立ち上がり、光とサクヤから離れた。
「ククリ・・・俺の妻でいるのはしんどくないか?」
「突然、何じゃ?」
光とサクヤから離れると、ホロがいつにもなく弱気になった。
「いや・・・俺はお前が幸せであって欲しい。だからもし、他にいい男が現れて、そいつが間違いなくお前を幸せに出来るのであれば俺なんかとっとと捨てろってずっと思ってた・・・」
「・・・・・・他の女ではそなたの妻は務まらぬ。そなたの妻はわらわしかおらぬ!」
ギュウゥゥゥゥゥゥ・・・・。
「ありがとう!!!」
ホロは愛情いっぱい、ククリを強く抱きしめた。
「苦しいぃ、殺す気か!?」
* * *
某は、いよいよサクヤ様に自分の心を告げねばならぬと思っているのだが、その言葉は喉の奥に引っかかっていた。
サクヤ様は地面を見ていた。その手には巾着と紙に包まれたあの赤児のへその緒を持っていた。
「光さま、ここに穴を掘っていただけないでしょか?」
「穴?・・・はい」
脇差しを抜き、サクヤ様が指さした所を掘り始めた。
「このくらいでよろしいですか?」
手と脇差しを泥まみれにしながら適当な大きさの穴を掘った。
「ありがとうございます」
サクヤ様は掘った穴にまずは赤児のへその緒を入れた。その上に次に以前某が取ってきてくれた桜の種を取り出した。
「サクヤ様、桜は遅すぎるかと?」
「大丈夫です」
サクヤ様は満面の笑みでそう言った。
フゥ・・・・・・。
サクヤ様は桜の種を両手の中に入れて息を吹きかけた。そして穴の中に入れ、土をかぶせた。
「静御前はここで亡くなりました」
けりをつけたのか?
サクヤ様の横顔には寂しさを感じさせない強さが見えた。
「母が言っておりました。世の中を救えなくても、あなたが大切にしたい1人だけは、助けてあげなさい・・・と」
サクヤさまが緊張したように自分と向き合った。
胸が高鳴りだした。恥ずかしそうにうつむきながらもこちらを見つめるその表情に動揺を隠すことが出来ない。
兄者がいなくなった今、この人を守れるのは自分しかいない。いや、初めからサクヤさまを守っていたのは兄者では無く、自分だった。
サクヤ様が顔を赤らめながら返事を待っている。
覚悟を決め深く息を吸い、口を開いた。
「某の妻になってください」
「・・・はい」
人生最高の瞬間だ。
今某は心の中で大声を叫んでいる。
「ところで・・・」
「あっはい、何か!?」
サクヤ様が顔をのぞき込むように不思議そうに見てきた。
「光と言う名前は真の名ですか?」
「いえ、其れがしの真の名は・・・・」
某はサクヤ様に自分の本当の名前を教えた。
* * *
静御前は源義経が奥州で自害した後、自分も自害したと伝えられている。
泰衡の人生は35年で終わり、奥州藤原氏の歴史も終わった。
義経には杉目太郎行信という影武者がいたと言われる。
義経の首は腰越の浜で首実検を行い間違いないと判断された。
鬼神は誰に幸運を与え誰を不幸にするのか。それは鬼神の気まぐれ。
桜は春のわずかな間に花を咲かせすぐに散る。それを何度も何度も繰り返す。
人々はそんな桜をずっと大昔から何度も見てきた。
静御前が植えた桜はその後も咲き続け、今でも季節が来ると花を咲かせている。
人間は絶対勝てない最強の存在 ~奴の力を持っている某は仲間の力も得て奴と戦う~ オオカミ @86994521
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