第40話 最終決戦―3
「お前の強さを見せて貰おう」
鬼神の瞳の赤い点が宝石のように輝き出した。2本の刀が鬼神と同じ背丈ほどの一本の大きな刀に変わっていった。
そして黒い妖気に包まれ、まるで黒く燃える刀のようだった。
ブン!
鬼神が満開の桜の木々に向けて一振りすると、妖気が飛び散った。鬼神の妖気に触れた桜は大木ごと黒い妖気に包まれ消えた。
鬼神はサクヤに剣先を向けて近づいた。
「あなたには絶対に、負けない!」
サクヤは刀印を結んだ。
「封!」
サクヤは印を結んだ。
薙刀がの石突の錫の遊環(ゆかん)が鳴り出し、薙刀が金色に輝きだした。
青白い光が無数に走り出した。
「神の光か?」
鬼神が光に触れようとした。だが、鬼神が触れようとした瞬間、手が光に弾かれた。
「なるほど、確かに私に命を駆けて挑んでいる!」
鬼神を閉じ込めるように光の壁が現れた。鬼神は自分の腕に妖気をみなぎらせた。
そして光の壁を切り裂いた。
「10歩でお前の喉元だ」
鬼神がそう言いながらサクヤに近づく。
ダッ!
サクヤは逆に間合いと詰めて薙刀で鬼神の足下を狙った。鬼神は刀で薙刀を抑えようとした。
だが、サクヤの薙刀は足を狙ったと見せかけて、鬼神の顔を狙った。
「良い攻撃だ。恐れることの無く、見事に薙刀を振るう」
左手で薙刀を抑えられた。
鬼神がサクヤの顔を掴もうとした。
シュッ!
後ろから鬼神に向かって手裏剣が飛んできた。
鬼神は手裏剣を掴んだ。
「良い眼をしている・・・お前の強さが見える。今日まで守り続けてきたお前の強さが・・・」
「サクヤ様に・・・手を出すな!」
鬼神の黒い妖気と見開かれた赤い瞳が某を睨み付ける。
決して消えることはない奴の恐怖。
それでも震える足を動かさねば!
神斬を構えると鬼神に突進した。
ガキィィィィン!
音を響かせながら打ち合いが続いた。鬼神の黒い妖気が飛び散り、某の神斬から黄金の光が飛び散った。
サクヤ様のおかげで痛みは小さくなり体力も回復し、それ以上に力がみなぎってきた。
ダッ・・・・ガッ!!!
奴が下段から某の手首を狙った。
紙一重で躱し奴の心臓を狙ってついたが、奴は防いだ。
「やはり貴様には生かすだけの価値がある!」
奴はその大きな刀を両手で構えた。
ガァン!!!
奴の一撃を、受け止めた。
背中の裏側まで衝撃が走り、奴の漆黒の妖気が襲い熱くて身体が焼けそうだったが、必死に耐えた。
「痛いね・・・お前と戦うのは・・・某は今まで弱かったから守れなかったよ・・・父上、母上・・・赤児も!」
怒りで身体が震え出す。
「赤児の命か・・・」
鬼神が距離を取った。
「お前はあの時、政子を味方に付けた。政子は赤児が殺されたことを知ると、脇差しを持って大姫の心を癒やした恩人を殺すのであれば自分も死ぬと頼朝に言った。お前は見事にサクヤの命を守った」
「何が言いたい・・・」
「一つ教えてやろう。貴様の命は私が守っていた」
「どういう意味だ!?」
シュッ!
鬼神が自分の腕を切った。
鬼神の腕から血が流れ落ちる。
「この血だ・・・私の血を身体に宿している者を頼朝は恐れた。私に貴様を殺してくれと頼んでいた。だが、貴様を殺してはいけない。見たかったのだよ・・・私の血を飲んで、貴様がどのような生き方をするのかを!」
「こういう生き方をしているよ。今お前と戦っている!」
「もっと見せろ!その高潔な魂が私を斬れるか試してみろ!」
ガァキィィィィィィ!
奴は振り上げた刀を瞬時に袈裟切りに切り落としてきた。
その袈裟切りを受け止めた。
腕が震え、押しつぶされそうになる。
太刀を握る力が強くなっていく。
地面から鬼神の妖気が足を伝って某を飲み込もうとする。周りの風景が黒く染まっていく。
サクヤ様の桜が消えていく。
「明!」
サクヤ様が唱えた。
光明が見えた。
暗闇の中に小さな光明が現れた。
「光さま、わたしが鬼神を封じ込めます!一撃を・・・一撃で良いのです。鬼神の妖力を弱めて下さい!そうすれば・・・」
サクヤ様も戦っている。
某だけではない。
皆の力で鬼神と戦っている。
神斬も奴の攻撃に折れることなく戦い続けている。これほど多くの力に支えられて、某は戦っている。
鬼神が右の拳を某に見せた。
「ぼぅ!」
その一言と共に奴が拳を開くと、某の身体が燃えだした。
「喝!」
幻術を気合いで消し去った。
「お前ほどならば、この程度の幻術など大したことはない・・・だがな、弱き者はこんな子供だましでも死ぬんだよ」
そう言って鬼神はまた拳を握るとまた開き、炎を作りまた消した。
「お前は弱くはない・・・故に挑め!」
鬼神が持っていた巨大な刀を消した。
そして両手を広げた。
「挑んでみろ!かつての者達のように自らを犠牲にして!」
絶対の自信を持って、奴が来る。
「・・・・・・すぅ」
全ての思考を止めた。もう十分だろう、今までずっと考え、悩んだのだから。
最後に師匠の言葉を思い出した。
たゆまぬ修練を積み、多くの者たちの力を得たならば、後はその太刀を振れ!
太刀を正眼に構えると五感を全て鬼神に向けた。
そのとき、黒く濁っていた神斬が透明に戻り呪禁の文字が輝きだした。
「これで決めよう・・・某がこの先を生きれるか、お前に殺されるか!」
「生きる気か!?」
素手の鬼神が突進してきた。
某の心臓に拳を打ち込もうとした。
!!!斬!!!
切り上げた一撃が奴の胸を斬った。
奴の胸から黒い血が流れ出した。
「・・・・・・」
奴から笑いが消えた。
「これで終わりだぁ!!!」
鬼神の胸に神斬を刺した。
ザスッ!
後ろからサクヤ様が薙刀を投げた。
薙刀も鬼神の胸に刺さった。
「サクヤさまぁー、今です!呪文を!!」
「はい!」
サクヤさまが刀印を結んだ。
鬼神の周りにまるで鬼神を閉じ込めるように九字の線が上空に現れた。
薙刀の遊環と共鳴するように神斬の全身が金色に光り、地面に五芒星が現れ、鬼神を飲み込み始めた。
「光さま、はやく離れて下さい!」
サクヤ様が待っている。
某が自分の側まで戻ってくることを。
神斬から手を離し、鬼神から離れようとした。
「!?」
鬼神が某の胸を掴んだ。
「死ぬのだろう・・・愛する者を守るために!」
「いや、某は生きる!生きてサクヤ様を守る!」
「忘れたか?人の運は私が決めることを!」
赤い目を大きく見開き、笑顔を見せながら鬼神が某を引き離さなかった。
!!!斬!!!
「言っただろ、お前を死なせねぇ!」
ホロが鬼神の腕を切り落とした。そして某の襟を掴み、結界から避難させようとした。
ガシッ!!!
鬼神の腕が再生され、再び某の肩を掴んだ。
その鬼神の手を引き離そうとするが、鬼神の力はこの状態でも何一つ弱まってはいない。
「この、なんて野郎だ!」
ホロも必死に引き離そうと太刀でもう一度、鬼神を切りつけようとした。
だが、ホロの太刀は鬼神のもう一方の手で止められた。
「いい加減諦めろ!」
ホロは鬼神の手を引き離そうとするが、鬼神の手は離れなかった。
鬼神は某とホロもまとめて引き込もうとした。
シュパッ!
一本の矢が鬼神に刺さった。
ククリが鬼神に矢を放った。
そしてサクヤの側にククリが駆け寄ってきた。
「わらわも力を貸す!」
ククリは刀印を作っていたサクヤの手に重ねるように自らも刀印を作った。
大きな光が現れた。
「鬼神、今度こそお別れだ!!」
某はあの日からずっと持っていた父の形見の脇差しを鬼神に刺した。
鬼神の手が離れると某はホロに引きずられて結界から脱出した。
「「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」」
サクヤとククリが九字を唱えた。
薙刀の遊環が大きく鳴り響くと共に、上空の九字が鬼神へと降りていき、鬼神を五芒星の中へと押し込めていった。
某は勝ったのか?
いや、奴は笑っている。結界に封印されながら奴は人間を嘲笑している。
光に包まれながら奴の笑い顔をしかと見届けた。
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