第39話 最終決戦―2

 鬼神の背中が大きく動いている。


 ホロの一撃が効いているのか?


(今ならば!)


 ホロが与えてくれた絶好の好機だ。駆け出すと、鬼神の背中めがけて神斬を振り下ろした。


 カンッ!


 鬼神は右の刀で受け流し、振り向くと左の刀を某の左脇に向けた。


(刺される!)


 ガッ!


 鬼神の蹴りを食らった。


「確かに貴様らは弱くはない・・・だが」


 鬼神はまったく弱っていない。

 ホロが確実に一撃を入れたのに。

 ホロが刺した傷はもう完治していた。


「貴様の父は私の腕は切った。古の狼は私に痛みを与えた。だがそれが限界・・・」


 鬼神が指さした。

 ホロが痛みに立てずにいた。


「お前はどうだ?父やあの狼以上の事が出来るのか・・・所詮はただの人間で終わるのか?」


「なめるな!」


 力が全身にみなぎってくる。


「ガァアアアア!」


 その力を奴にぶつけた。だが鬼神はそれを躱すと某の顔をつかみ、地面に叩きつけた。

 鬼神はずっと余裕だ。


 一呼吸すると、神斬を握り直して、立ち上がった。

 鬼神が紙を一枚取り出した。

 そして紙を飛ばすと紙は魍魎となり、某に突進した。


 ガ!!!


「お前は消えろ・・・」


 右手で魍魎を掴むと頭を地面に打ち付けた。

 魍魎は紙切れに戻った。

 それを見て鬼神は大口を開けて笑った。


「うぉおおおおおお!」


 神斬が黒く濁り呪禁の文字が見えなくなり、ついに太刀全体が黒く覆われた。


 ガァァァン!


「ぐっ!?」


 鬼神の一撃に吹き飛ばされた。

 だが、すぐに立ち上がった。


「気付いているか?」


「何がだ!?」


「貴様は今、人間ではなくなっている」


「!?」


 光の眼は今、真っ赤に染まっていた。

 光は身体中を見た。

 破れた直垂から見える身体が漆黒の模様に覆われていた。


「私への憎しみから、怨霊になったか?」


 自分が変わっていく。

 怨霊へと変わっていく。


「この!」


 ガァアアアアン!


 鬼神は光の一撃を双刀で抑えたが、その刃が振るえるほどの衝撃だった。

 鬼神は光の太刀を弾くと光の鳩尾に回し蹴りを食らわした。


「耐え難き苦しみを耐えてここまで強くなれた!さぁ、どうする?私を倒すために、貴様は何になる!?」


「・・・1つ教える」


「何だ?」


「サクヤ様はお主の所には現れない。某が師匠にサクヤ様を守るようにお願いした。今頃はどこかに消えているよ・・・」


 光は笑みをこぼした。

 鬼神は、漆黒の大空を見た。


「・・・安心しろ。女はちゃんと来る」


 突然、景色が変わった。

 漆黒の世界が一面の桜の世界へと変わった。


「光さまぁ!」


 突然、サクヤ様の声がした。

 周りから風と金色の光が発生した。鬼神に対抗するように周りに放たれた鬼神の漆黒の妖気を吹き飛ばした。


「正義の味方か・・・くっくっく・・・」


 鬼神が空を見上げた。


 サクヤ様が飛んでいる。翼を生やして白拍子姿で髪を桜色に染めて空を飛んでいた。

 石突の所に遊環が付いている薙刀を持っていた。


 バサァァァァァァ。


 鬼神が漆黒の翼を広げて飛んだ。

 飛んでいるサクヤを切り裂こうとした。


 ゴォオオオ!


 突如、風の壁が出現した。

 鬼神は距離をとった。


 サクヤ様が地面に降りた。


 ガシッ!


「サクヤ・・・様」


 某を抱きしめた。

 暖かみを感じた。

 身体から漆黒の模様が消えていく。

 今まで苦しんだ奴の力から別の力に変わっていくのを感じた。


「あなたを死なせません・・・わたしが絶対に・・・」


「サクヤ様、ありがとうございます」


 タッ・・・。


 鬼神が地面に降りた。サクヤが手にしている薙刀を見ながら鬼神は次のことを教えた。


「神の子よ、まだ義経は救える」


「まだ生きておられるのですか!?」


「私が異界に隠した。場所を教えよう。救いたければ、わたしがこの者と戦っている間にそこに行け」


 サクヤはしばし、沈黙した。

 自分はまだあの人を助けることが出来る。

 だが、もう一つ分かっていることがある。


 サクヤは、はっきりと答えた。


「サクヤは、光さまを助けます!」


 サクヤのその言葉に鬼神は口を開けて笑った。


「助けるがいい!」


 サッ!


 鬼神が薙刀の間合いに入った時、サクヤの下段からの鋭い一撃が鬼神をかすめた。


「面白い・・・平和の中でずっと戦いを避けてきた貴様がこれほどの強さを見せるとは!」


 笑う鬼神にサクヤがハッキリと言った。


「人間は平和の中だけで生きてはいけません。だから、あなたと戦います!」


「証明してみろ。その覚悟!」


 ガッン!


 鬼神に更なる一撃を入れた。それに合わせるように鬼神も刀を振った。

 その衝撃で身体がよろけた。


 鬼神がサクヤの首を切り裂こうとした。


 ダァァァッン!


 光が鬼神めがけて飛んできた。

 竜の姿をした光だった。


 バシィイ!


 それは一本の矢だった。

 鬼神は矢を掴んだ。


「龍の子も来たか・・・」


 ククリが立っていた。

 青い甲冑を身につけ、水色の髪をなびかせながら鬼神を睨み付けた。


「ホロを殺させはせん!」


 ククリが次の矢をつがえ叫んだ。


「立つのじゃ、ホロ!その程度で参ったのか!?」


「あ~、わかってるよ~、あ~いてぇ、腹立つぜ」


 ククリの声を聞いてホロは立ち上がった。

 ククリが側に駆け寄った。


「ククリ、傷ついてるじゃねえか!?」


 ククリが側に駆け寄ると、ホロはククリが傷ついてるのに気がついた。


「おめえを傷つけたのはどこのどいつだ!?俺がかみ殺してやる!」


「安心せい。すでに母上がかみ殺しておる。それを言うならそなたも傷ついておろう?」


 ククリがホロの胸の傷に触れた。

 胸の傷は少しは治っているが、痛々しい姿だった。


「あいつ相手に傷つかねぇ奴はいねぇよ・・・」


「じゃから皆で戦うのであろう?」


 光、サクヤ、ホロ、ククリの4人で鬼神を取り囲んだ。


「4人か・・・・」


 鬼神は光の仲間達を見回した。


「光、お前は4人か?」


 鬼神がそう言うと、地面から7つの穴が開きだした。


「わたしはいくらでもいる」


 中から7体の鬼が現れた。

 数においても逆転してしまった。

 1体の鬼が先端が鋭く尖り、側面はするどいとげがついた矛を飛ばした。


 パシッ!


 ホロはそれを掴むと、投げ返した。

 矛は鬼の腹に刺さった。

 鬼は動じることなく、腹から矛を抜いた。


「このやろう・・・良いぜ、俺がまとめて相手してやる!」


 ホロが蕨手刀を構え7体の鬼の前に立った。

 鬼共らは金棒、鉞(まさかり)、巨大な金槌を構えた。


「ホロ、独りで戦うでない」


 ククリが一緒に鬼の前に立った。

 側にいてくれるククリにホロは笑みをこぼした。


「今度は俺がついている。安心しろあの鬼共らはお前を傷つけることは出来ない」


「何を言うとるのじゃ?お主こそわらわがついておる。そなたを守る!」


「おう!」


 ホロは左手を出した。

 ククリは右手でホロの左手を掴んだ。

 そして手を離すと、ホロとククリは7体の鬼に突撃した。

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