進路相談

四方鷹彦

今は亡き叔母へ

 私にはあなたがいました。メガネをかけていて、優しくて、小説家で、私の大好きなあなたが。本の売れ行きは悪かったけれど、私が眠るベッドの横で椅子に根を張り、小さなブルーライトを睨み付けているあなたの背中を今でも覚えています。


 私が小学生になった年、小学館の漢字辞典と『星の王子さま』を贈ってくれましたね、あなたはいつもどこか焦ってイライラしているようでしたが、私が喜びのあまりに抱き付くと、少し困った顔をしたけど、すぐに優しく抱きしめてくれました。長期休みに母の実家で会えるあなたが私の全てでした。

 

 私が中学生になった年、あなたはペンを折りました。出した5冊の本はどれも売れず、私の本棚でしか見たことはありませんでした。それからあなたはスーパーで働き始め、人付き合いをするようになり、笑顔が増え、メガネをコンタクトレンズにし、化粧をし、一人暮らしを始め、交際し、結婚して、つい先日、子供を産みました。


 僕は本当に小説家になりたいのでしょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

進路相談 四方鷹彦 @hedva_david_1970

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る