第15話:トラブルデート

 前回までのあらすじ!

 俺の他の作品をリスペクトしてしまう性質(オブラート)の解消には圧倒的な経験が必要だと判明した!そこでデート取材を続けていこうとするわけだが…次の相手は、まさか灯!?

 以上、以下本文!


 ~~

「灯が…取材相手?」

「うん、取材もおんなじ人がしてたら通り一辺倒になっちゃうでしょ?いろんな人とデート経験を積んだ方が絶対小説にはいいんじゃないかと思うんだけど。」


 確かに…様々な経験から情報や印象を得た方がもっといい作品が生み出せるとは思うが…。俺は、なんとなく早瀬の方を向く。すると担当編集者はやせひめか…はというと…


「へ、へぇ…そ、それはなかなか面白い考えですわね?」

 非常に複雑な顔をしていた。なんというか…認めざるを得ない気持ちと認めたくない気持ちが共存しているみたいな表情。どういうわけか分からんけど口調もブレッブレだった。


「でしょー?私もなかなか名案だと思うんだよねー?私もあの日向仁先生の新作に貢献できると聞いちゃあ居ても立っても居られないよね。」

「そ、そういうことなら別に許可してあげても…」

 しかし、そんな早瀬を放置してこちらにすり寄ってくる灯、

「一回くらいお出かけしてみたかったんだよねー。」

「っん!?!?」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!そんなの許されないわよ!」

「ええ~なんでよ~」

「あなたみたいな不純な動機の人を取材になんか参加させません!そうよ、そもそもこれは私が頼まれたことだし…」

「ふーん、ジンジン取られたくないんだぁ。」

「ちょっと!いい加減なこと言わないで!私はあくまでも一担当として彼に向き合ってるんだから、ファンサービスとは違うの。」


「でも…不純な動機の方が取材はうまく出来るんじゃない?」

「どういう事よ…」

「だってそうじゃない?仲のいい男子と一緒に出掛ける女子、と今まで疎遠だったオタク嫌いの幼馴染。作品にすると考えた時、作者がイメージしたいのはどっち?」


「……」


 ついに黙りこけてしまう早瀬。灯は慌ててフォローをする。

「あ、ごめん!そういうつもりじゃなかったの!ただ必死に否定するヒメちゃんが可愛くてつい…」

「……(むぅ)」

「か、可愛い…!」

 灯に遊ばれていたと知り頬を膨らます早瀬。いや、確かにこれは中々可愛いな…

「なに!?悪い!?」

「俺が視線を向けていることに気づいたのかこちらをジロッと見てくる。」

「いや、なんつーか、昔のおまえを思い出しただけだ。」

「そう、昔ね…」


 昔という言葉に反応して二人してなんだかノスタルジックな雰囲気になる。


「ふっかけたのは私とはいえ、なんか負けた気分…」


 なんとなく恨みがましげな雰囲気の友利に気づき、視線を逸らす俺達二人。なんとなく気まずい雰囲気が流れるが、その空気を灯が打ち砕く。

「で、ジンジンは週末空いてるよね?」

「何でそんなに断定的な口調なんだよ。」

「え?予定…あるの…?」

「心底意外そうな顔をするな!無いけど!」

 流石の俺でもそんなリアクションされたら傷つくよ…?

「んー、じゃあ善は急げってことで、来週の日曜にしようか。」

「え?さっきのは冗談じゃなかったのか?」

 まさか本気で取材に付き合ってくれるとは思わず聞き返す。

「え?いや、デート取材するのもヒメちゃんをからかうのを楽しんでたのも本気だよ?」

「後者はできれば遠慮したいんだけど……」

 ぶつくさ文句を言う早瀬を他所に灯は予定を詰めていく。


「じゃあ今回はどこに行こっかなー?無難なとこだと水族館とか、映画館?あーでもまた映画見に行くのも芸が無いもんなぁ。」

 中々真剣に考えてくれている様子の灯、というか


「俺この間映画を見に行ったことお前に言ったっけ?」

 ふと浮かんだ素朴な疑問を投げかけると灯はバッとこちらに向き直る。

「い、いや、私!私もこの間映画見に行ったからさ~。ね?だから別にやましい事なんて何もないよ?」

「お、おう…そうか…。」


 一気にまくしたててくる灯、その勢いに少々気圧されてしまう。

「ま、まあ、ジンジンは私の完璧なデートプランを楽しみにしておけばいいよ!」


 ノリノリな様子の灯に少々驚かされつつも、俺はひとつ気になっていたことがあった。

「というか灯、お前大丈夫なのか?」

「うん?大丈夫って、何が?」

「いや、だってさ……」

「なーにー?私とジンジンの中でしょ?隠し事は似合わないぜ?」

 急かす灯に背中を押されて俺は疑問を口にする。


「……お前、今までにデート経験とかないだろ?」

「……」

 やはり図星だったらしい。灯は完全に俯いてしまった。


「え、そうなの?」

「あ、ああ…こいついっつも『三次元男子への興味は母親の腹の中に捨ててきた!』とか『推しさえいれば私は何も他に望まない!』とか『デートなんぞ軟弱者のやる事、私には似合わん』とか…」


「え?じゃあ人生初めてのデートなのに灯ちゃんあんなに手練れ風かましてたの?あんなに恋愛強者風な感じだったのに?」

 おい待て、流石にそこまで言ったら…


「ああもう!うるさいうるさいうるさい!」

 あーあ、やっぱり地雷踏んだか。


「そうだよ!デート経験なんか一回もないよ!でも見とけよ、私がジンジンに完璧なデートを提供して二度と私以外じゃ満足できない体にしてやるからな!!」

 なんだか非常に誤解を生みそうな表現で切れてくる灯さん。


「じゃあなジンジン!来週日曜!首洗って待ってなよ!」

「あ、ちょっと待て。おい、灯!」

 俺の静止も聞かずバタン、という音が我が家に空虚に響く。これからどうしたもんか…。









 ~~同県内の某ファミレスにて~~




「というわけなんで、完璧なデートの仕方について教えてください!月元さん!」

「そんだけ啖呵切っといて良く私の所に来れたわね…」

「ここは一つ。ドリンクバーおごるんで!」

「私も安く買収されたものね…」


 俺たちの知らないところで、不穏な会議が行われようとしていた…

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オタク嫌いの幼馴染と描くラブコメレシピ 尾乃ミノリ @fuminated-4807

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