第14話:感想戦

 前回までのあらすじ!

 ついに新作をかき上げた俺!そのクオリティは自他ともに認めるもので早瀬からも絶賛であった!しかし、そこに介入する苦い顔をした女、春日部灯。書店の一人娘が語る真実とは…


 以上、以下本文!


「まずいって…どういう意味だよ、灯。」

「まずいも何も…早瀬さん、気づかないの?」


 早瀬さん、と突き放したような言い方をする彼女。はぁと短くため息をつき、灯は致命的な事実を告げる。


「これ…まんまじゃない?」

「「っ!」」


 その言葉を聞くや否や、彼女は鞄からごそごそと一冊の本を取り出し、一心不乱に読みだす。いくばくかの時間がたった後、彼女はそっと本を閉じた。


「私としたことが…何で気づかなかったのかしら…」

「お、おい!二人して何の話だよ、確かに俺は早瀬の勧めでモノ恋は読んだが、別にパクったつもりは毛頭ないぞ!」

「そんな怒らないでよ、今からちゃんと説明するから。」

 あくまでも穏やかなトーンで俺を窘める灯。


「そもそも、ラノベ作家日向仁の世間の評価って知ってる?」

「いや、とくには知らないけど…。」

 元々俺はそこまでネットに明るくないし、当時はまだ幼いという事もあり、エゴサなどは避けるという取り決めを担当さんと行っていた。そのため俺は自分の作品の重版や、本屋へのサイン寄贈などの情報こそ知ってはいるが、世間の意見など全く知らなかった。


って言われてるのよ。」


「……すまん、解説求む。」

 そこで灯とバトンタッチをして、早瀬が話し始める。


「最近のラノベや小説界隈って、あまりにも世の中に出回ってる数が多すぎるし、アニメ化なんかをされる有名咲くなんてものも山ほどある。だから新人作家の作品って、しばしばその作品の源流、つまりどの作品をリスペクトしたものなのかっていうのが取りざたされることが結構多いのよ。でも、あんたの場合はかなり特殊。」


「特殊?」

「アンタの作品はリスペクトの元となっている作品があまりにも多すぎるの。日常パートの書き方も、戦闘パートの書き方も、全部違うリスペクトのされ方がされている。よく言えば良いとこ取りだけど、悪く言えば…」

「源流不明の作家、ってことか・・」

「そういう事。」


 なるほど、俺の二つ奈的なのについては分かった、しかし…


「それと今回の作品に、何の関係があるんだよ。」

 俺がこの質問をしたところ、早瀬と灯は二人して「ぽかん」とした表情をする。俺が何故わからないのかがわからない、テストを教える側と教わる側の知識に差がありすぎる時に起こるだ。


「じゃあ聞くけど、あんた今までに読んだラブコメのうち、とくに感銘を受けた作品って何?」

 そんなの愚問だろう。

「まあ、モノ恋だわな。」

「そこよ。あんたはラブコメを書くときベースとなっているのがモノ恋しかないのよ。だからラブコメを書いても源流がモノ恋一本だけになっちゃってるのよ。」


 早瀬のセリフは落ち着いており、非常に説得力があるようにも思えた。


「確かに、銀狼のジェイクもフミもどっかで見たことあるって何度も突っ返されたな…」


「ジェイク様はジェイク様よ!パクリなんかじゃ許されないわよ!!」

 急に鼻息荒くなる早瀬、鎮まりなさい夢女子よ、一般人(灯)が引いておるぞ…荒ぶる彼女をどうにか落ち着かせて、話を続ける。


「じゃあ、どうやればいいんだよ。正直これが今の全力に近いものがあるぞ。」

 俺も早瀬も思案顔になる…、正直難題だ。


「まあ、銀狼もリスペクトについて多々言われてきてたわね…。でも今回は正直灯さんに言われるまで全く気付かなかったくらいだし…。というか、今回の作品は、リスペクトが抗妙に隠されてたわね…正直アンタがどれくら意図してやったことなのかは知らないけど。」

 申し訳ないが微塵も意図していない。全部無意識だ。と、ここで第三者からの声掛けが入る。


「自分の体験じゃないの?」

「「へ?」」

 ひょうきんな声でハモる二人、俺たちの事はお構いなしに灯は続ける。


「だってヒメちゃん言ってたじゃん?やっぱりデート取材をした甲斐があった、って。要はジンジンの脳内にモノ恋以外のラブコメが曇るほどの強烈な印象が刷り込まれたから、それがモノ恋のリスペクトをうまい事誤魔化したんじゃないの?」


 ちなみに早瀬は彼女は10年の疑問が解けたかのような表情(誇張無し)をしていた。

「そうか!デート体験が仁自身の新たな源流になっているってことね!という事はつまり…」

「つまり…?」

「取材を重ねて、ジンがラノベじゃ満足できないほどの濃い体験をさせてあげるわ!名付けて、ラブコメオリジナル源流大作戦よ!!」

 なんちゅうダサいネーミングセンス…まあいいか、思う存分糧とさせてもらおう。


「じゃ、じゃあ、ジン早速次のデートの予定を立てたいんだけど…?」

「お、おう、そうだな…ええと次は…」

 手帳を出しぺらぺらとめくる俺。来週の土曜は確か編集の前原さんと会う予定で…?













「あ、じゃあ次のデート、私がジンジンを連れて行ってもいいかな?」



 空間を凍り付かせる高熱の爆弾が、スケジュールを確認する俺達の距離を引き離すかのごとく投下された。

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