第25話▼配達のお仕事の苦労やあれこれ
私は大阪に引っ越してきてまもなく、クロネコヤマトでの配達のアルバイトに従事した。
自転車に荷台を牽かせて、団地エリアをくまなく回るのが主な業務だ。
元々サイクリングが趣味だったし、以前は身体を動かす仕事をしていたし、常にチームワークを強要されず一人で黙々と取り組める……
そんな配達の仕事は私にとっておあつらえ向きの仕事だと実感していた。
だけど天職というわけではない。
どうしても向かない部分や、いつまで経っても慣れないこと、苦労する場面も存在した。
今回はその部分に関して、少し振り返りたいと思う。
【3Dパズルゲームから業務は始まる】
私が担当した団地エリアは、とある一区画に20棟もの団地が林立していた。
1棟ごとが、10階建て程の高さをもつ高層建築となっている。
配達業務で一番時間的な制約をうける要素は、『時間指定サービス』だ。
たしか、午前中、12~14時、14~16時、17~18時、18~21時の区切りが設けられていたと思う。
仕事の一連の流れとしては、時間指定の区分に合わせてエリアを一巡する。
そして自転車の荷台の荷物を配り終えたら、新たな荷物を補充しにいく。
そしてまた建ち並ぶ団地の間を縫うように走って荷物を配るわけだ。
荷物を補充する際にはトラックを使う。
エリア内の邪魔にならない場所にトラックを停めて、そこから少量ずつ荷物を取り出していくわけだ。
この方法が、いちいち営業所に戻る手間を省けるので効率的である。
時間の区切りの前に自転車部隊はトラックの後部に集合させられる。
自転車部隊はだいたい3,4人いて、手分けして仕事を片付けていく。
まずは配達前に、トラックの運ちゃんから続々と荷物を渡される。
それを自分の荷台へと詰め込んでいくのだが、ここで3Dパズルゲームが始まる。
自転車の荷台は縦横奥行きが1m未満の小さな正方形型をしている。
そこに荷物を限界まで詰め込むにはどのように入れていけばよいかに頭を使わせれるのだ。
しかも荷物は全部同じ形をしているわけではない。
小包のようなものもあれば、テトリスの長いブロックのような物まで形は様々だ。
ヘタな積み込み方をすれば余計なスペースが生まれてしまい、荷物を全部積み込めない可能性がでてくる。
そのうえ、渡された荷物を順番に奥から詰めていけば良いとはいえない。
自分がこれから周回する団地の順番に合わせて、手前から奥へと詰めていかなくてはならないのだ。
荷台の取り出し口は箱の上部にしかない。
もし先に配るべき団地の荷物が箱の底へと詰め込んでしまっていたならどうなるか。
手前の荷物をいったん全部外へと出して、目当ての荷物を取り出すという余計な手間が生まれる。
配達は時間との勝負なので、余計なタイムロスは避けたいところ。
もし配達時間までに配り終えられなければクレームが入るし、早く終えられなければ休憩時間すらもなくなってしまうからだ。
さらに、同じ団地に配る荷物は同じカ所に固めておく必要がある。
そうでなくては、団地に到着したら一旦荷台の中の荷物を全部外に出して、その団地で配る荷物だけを仕分けるという余計な作業が発生する。
この作業が2,3度生じると、時間内に配り終えるのは絶望的になってしまうから絶対に避けたい。
また、荷物が配る団地ごとではなくバラバラに詰め込んでいると、後々になって一番初めに配るべき荷物が発見されるということが時々発生する。
そうするとわざわざ引き返さなくてはならないので、時間と体力の大幅なロスに繋がってしまう。
(※もし荷物を振り分けてトラックの運ちゃんが、団地ごとにまとめて荷物を渡してくれるならあまり頭を使う必要もない。
自転車部隊が配っている間、運ちゃんは駐禁を取られないようにトラックから離れられない。
なので運ちゃんは自転車部隊が荷物を配っている最中に、自ら荷台に出張って団地ごとに荷物を振り分けたりしてくれていることもある。
そういった気配りのできる運ちゃんは自転車部隊からの支持率は高い。)
以上のような点を考慮しつつ、自転車部隊は次々と運ちゃんから渡される荷物を、自らの荷台へと詰め込んでいかなくてはならない。
まるでテトリスのように瞬時の判断が必要となってくるので、出発する頃にはすでに少し頭が疲れてしまっている。
ゲーム感覚で楽しめるようになるには少々時間が必要だった。
【どんなエレベーターの作りやねん】
あのエリアの団地だけなのだろうか?
とにかくエレベーターの配置が変わっている。
たとえば団地を正面から見て右端に設置されているエレベーターと左端に設置されているエレベーターとでは、止まる階が違っていたりする。
片方が奇数階、もう一方が偶数階なんて振り分け方がされているのは、まだいい。
片方が「1・4・7階」、別のエレベーターが「2・3・9階」、残るもう一本が「5・8階」なんてものも存在したりする。
ずっとそこに住み続けている住人にとっては良いだろう。
自分が使うのはどのエレベーターか覚えておけばいいし、止まる階を搾ることで一機当たりの利用者の数とエレベーターを待つ時間を減らす効果があるかもしれない。
だけど配達員にとってはとにかく厄介な仕組みだ。
『この団地のエレベーターは何機あって、どのエレベーターが何階に止まるか』を記憶しておかなくてはならない。
もし覚えられなかったら、団地内で迷子になってしまう。
余計なロスタイム=休憩時間がなくなるorクレームなので、団地で迷子は避けたいところ。
記憶するのに一か月弱はかかるから、なかなかの手間だ。
【AmazonとZOZOTOWN は文字通りのお荷物】
前述したとおり、荷台の荷物は手前から配られていくように配置している。
なので本来なら配っている途中に荷台の中の荷物を組み替えるような作業は不要となる。
その作業を強いてくるのが、当時は主にアマゾンとZOZOTOWNだった。
当クロネコヤマトの営業所では、アマゾンとZOZOTOWNの配達も請け負っていた。
両社とも日本有数の規模を誇る通販会社である。
時には荷台の荷物の半分近くが上記二社の荷物で占められることもあった。
ちなみに両社とも、一定の額を支払うと配送料が無料となる。
その場合は時間指定を行わないお客さんも多い。
ゆえにとにかくウンザリさせられるぐらい不在が多くなる。
特に私が勤めていた時間は昼間だったので、アマゾンなどの荷物の場合は運んでも大体半分は持ち帰らなくてはならなかった。
不在となった荷物は時間帯を変更して再配送することとなる。
なので一度その荷物を自転車の荷台に詰め直さなくてはならない。
その場合、荷台の一区画を強引に空けてそこへとぶち込むことになる。
この作業がとにかく手間で時間を消耗する。
自分の休憩時間が削られていく音がゴリゴリと耳元で聞こえてくるほどストレスに感じたこともあった。
アマゾンを利用するのはまだいい。便利だから。
せめて時間指定をしろと毒づきたくなってくることもしばしばだ。
不在者伝票を切るのにも時間がかかる。
チャイムを3回は押して、それでもダメなら伝票を書いてポストへと放り込む。
その一連の流れだけでも2分は必要だ。
仮に一つの団地で5件の不在が発生したら、10分のロスタイムが生まれる。
その時間帯で受け持つ団地の数が5件だったとしたら、50分もの時間が無駄になる。
もちろん休憩はなくなるし、最悪クレームに繋がってしまう。
なので慣れた人はチャイムを一度押して、脈がないと判断したら2度目のチャイムを鳴らしつつ即座に伝票を用意するような人もいた。
そんな創意工夫を凝らし、プレッシャーに耐える私たちをあざ笑うかのようにアマゾンなどの荷物を次々と託される。
ウンザリしていたところ、さらなる追い打ちと言わんばかりに、時間指定通りに持ってきたのに不在という事態が起こると、
「お前、自分で時間指定したんやろ!?」と唾を吐きたくなってくる。
何年か前にサガワの配達員が、不在の荷物を持ち帰る際にその荷物を蹴っていた映像が問題となったことがあった。
正直なところ、その気持ちはよくわかる。
最近、宅配業者が通販サイトからの荷物の取り扱いを見直す動きが起こっている。
そのニュースを目にしたとき、私は密かにガッツポーズしたものである。
今は消費者の立場に回っているが。
みなさんはぜひ、時間指定を忘れないように。
そして指定した時間には必ず家にいるようにしてください。
もしくは宅配ボックスなどの設置をお願いします。
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