第17話〇夏祭りとチャイニーズカナディアン
2016年の初夏。
その頃にはリミ、サル、ジュリアン、コウさんと、多くの親しくしていた人たちがシェアハウスを去っていった。
さすがに入居時のようにダイニングで話をする人がまったくない状況に後戻りすることはなかったが、それでも気軽に話かけられる人、話しかけてくる人がいなくなり、寂しい想いをするようになった。
そんな中、シェアハウスの管理人の提案によって、近所の神社への夏祭りへくり出そうという提案がなされた。
私は故郷でもかなり寂しく過ごしていたので、同年配の友人たちと夏祭りにくり出すというシチュエーションには大いに憧れを抱いていた。なので今回のイベントは願ったり叶ったりというもので、迷わず参加を決めた。
夏祭りが行われていたのは大阪市平野区の杭全神社(くまたじんじゃ)というところだった。近所という話は何のことやら、シェアハウスのある喜連瓜破から歩いてたっぷりと小一時間かかる場所にある。中環状線の歩道を男女混合、外国人が半数以上の30名ほどの一団が連なってぞろぞろと歩くさまは、はた目にはきっと圧巻だっただろう。
一応、顔見知りはそれなりにいたし、時折誰かと会話をしながら私もその一団に混じっていたが、基本的にはひとりトボトボと歩いていた。その間、もしここにシェアハウスを去った人たちがいてくれたら……と思いをはせたりする。胸の奥底の柔らかい部分が、ジグジグと痛んだ気がした。これが、寂しいという感情なのだと自覚させられた。
そんな折に、不意に私に声をかけてきた人がいた。
??? "Can I ask you any question , OK ?"
浅黒い肌をした、背の低い女性だった。黒髪で眼鏡をかけており、体形はやや太めの印象。初めて彼女を見たときは、東南アジアの出身かと感じた。英語のイントネーションはややアジア系っぽい訛りはあるが、聞き取りやすいキレイな発音だった。
Kaba "Of course. why not ?"
私は彼女の質問に応じることにした。しかし、初対面の女性に何を聞かれるというのか……皆目見当がつかなかった。
Ying " Thank you. My name is Ying. I lived in Vancouver , Canada ."
Kaba " Vancouver ! There is a nice place. "
Kaba " I thought I wanna visit that city at once in my life! "
Ying " Thanks ... why did you think so ? "
Kaba " My favarite novelist visited there ."
Kaba " And he showed some picture what took at Vancouver Island ."
Kaba " I know there is a fantastic place about fishing and hunting. "
Ying " Interesting ! You know my town better than me ."
Ying " But I lived in Vancouver city . not the Island ."
私はたどたどしい英会話を駆使して、彼女との親睦を深めようとしていた。彼女の名前はイン。カナダのバンクーバーから来たらしい。
Ying " But my nationality is different. I'm Chinese-Canadian."
Ying " I'm from Guandong China. I moved to Canada when I was young."
インは生粋のカナダ人というわけではなく、出身は中国の広東省らしい。バンクーバーにはアジア系が多いと聞いたが、2世とかではなく中国からの移民だったか。
あとから知ったことだが、当時インは23歳だったと思う。その時、私は20代後半だったので、『若い頃』と言われたことに対してちょっとドキッとしてしまった……キミは今でも十分に若いやんけ。
Kaba " So . What do you want to ask to me ?"
Ying " Oh, sorry. Well ... Actually , I want to ask some help. "
Ying " Help ? ...What Can I help you about?"
Ying " Could you teach me Japanese Language ?"
Kaba " Japanese Language .... 日本語を教えてほしいってこと?"
Ying " Ah-ha... Tell me once again ?"
Kaba "Oh, sorry ."
なんとインは、私に日本を教えてほしいと頼んできたのだった。
Ying " I arrived here ... shareing house , 2 weeks ago."
Ying " I can speak English and also Chinese."
Ying " But I don't speak Japanese."
Ying " In Japan. English and Chinese Language. Also not usefull."
Ying " I should learn Japanese Language , right ?"
Kaba " Yay, I think so ."
インは2週間前に日本に来たばかりだという。
持ち前の英語と中国語では生活に支障をきたすので、日本語を学ぶ必要を自覚したとのこと。
なので日本語の講師として私に白羽の矢を立てたとのことだった。
Kaba " But ... why me ?"
Ying " I don't know , but ... I thought you could teach me ."
なぜ私を日本語講師に選んだのか理由を尋ねると、「あなたなら教えてくれそうな気がしたから」って……なんじゃそら。
だが、この外国人女性に日本語を教えることによって、気だるげな日常に何らかしらの変化が起きてくれるような気がした。
私は彼女の申し出を快く引き受けることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます