第2話 迫りくる後輩

「やっぱ、いいな~!!」


 俺と館山は無事にカフェテラスに潜入。お互い大した所持金も無いので、気配を極限まで消してモブ客で乗り切ることに。


 そして俺はというと、お気に入り女子かつ目を付けている女子のネームプレートのイニシャルを見て想像を膨らましている。


 真の名前は学校の情報屋から得るとして、今はそんな女子の可愛さを目に焼き付ける事だけに集中。


「……そうすることで女子の平穏は守られ、俺たちは静かなモブ客として大人しく帰るだけなのである」

「のである――じゃねーよ!! なに自己完結してんだよお前は」

「……ん?」

「総司。お前、ここでバイトしてる女子が本命か? あまり言いたかないけど、一目惚れってだけで会いに来るのはマジで無駄すぎねえ?」


 何という正論。こういう冷静な分析をしてくる辺りが悪友のいいところだが。


 それはそれとして、


「目に飛び込んできやすいだろ? 可愛い子は」

「見た目だけはそうかもしれねえけど、中身は話して見ねえと何とも言えねえな」

「まぁ、確かにな。会話してみないとそいつが分からないのは実感済みだ」

「……だろ?」


 館山は俺の言葉に深く頷いている。


 だが俺の考えは間違っていない。なぜなら目の前に青い海があったとして、砂浜を歩く素敵すぎる光景(例えば素敵なお姉さんがえぐい水着姿で颯爽と歩く姿)があったら、どうしても目が行くのは本能だと信じているからだ。


 そんな光景が飛び込んできたら、頼まれなくても自然と目で追っちゃうという心が働く。これも仕方の無いことだ。


「そんなことより、総司。お前、あんな可愛い下級生の知り合いがいたのか?」


 トイレに行くと言いながらすぐに戻ってきて、ちゃっかりと目撃してたのか?


「下級生? あ~その先は禁句だ! アレは得体のしれない女子だ。どういうわけか、いや、お前のせいで俺は一年生に名前を知られているからな。お前のせいだぞ弘! どうしてくれる!」


 何となく感情的になってしまった。よりによって下級生女子にってのが問題だからだ。

 

「何のことか知らんけど、タメ年と先輩女子だけじゃなくて、後輩女子に狙いを定めてみるのも悪くないんじゃねえの?」

「却下だ!」


 いつも馬鹿でかい声で話す館山が冷静に、それでいて生意気にも諭すようなことを言い出すとは、隕石でも降ってくるんじゃないだろうな?


「お前の中で何が正解か知らん。だが、おれだっていつまでもお前に付き合いきれんのは分かるだろ?」

「もちろんだ」

「……で、あの下級生女子の名前は?」


 ぬぅ……そこに話を戻すのか。後輩に気を取られてこいつの気配を感じなかったのは痛いな。


 たかだか後輩ということに違いないし、隠すことでも無いから白状しとこう。


「年下の女子。1年F組だ」

「ほ~。遠目で見てたけど、結構可愛かったんじゃないか? 総司にはもったいなさすぎる可愛さがあったし。偏屈なお前と会話が成立してたっぽいし、もう後輩ちゃんでよくね?」

「論外だ」


 何故に安易に済ませようとする?


「可愛くないが、可愛かったのは事実だ」

「どっちだよ! で、可愛かった後輩から話しかけたのか? それともお前から?」

「声をかけたのは俺だが、奴には二度と話しかけてはならないと判明した。何かを落としたっぽくて困ってたから声をかけたのに、奴は廊下を塞ぎ俺を見下していたからな!」

「で、脈はあったのか?」


 だから何で変なことを言うんだ。

 声をかけたからって何で脈ありとかを?

 その理屈でいったら、困ってる人に声をかけたら好意を持ってることになるぞ。


「そんなんじゃねーよ」

「で、名前は?」

「……しつこいなお前も。確か、リナ……とかほざいてたけどな」


 後輩女子の名前を言った直後、館山は名前をポチポチと打ち込んでサーチをし始めた。


 俺が知らないだけで実は有名人とか?


「総司……その後輩女子は当たりだ! 総司。チャンスを掴め!」

 

 館山の言ってることが意味不明なんだが。


「何だよ? 芸能人なのか?」

「そういうのじゃないが……そういうのかもしれない」

「お前も俺と似たようなことを言うなよ!」


 まさか検索でヒットするような女子か? 


 俺はあまりタレントだとかアイドルとかに興味が湧かないからな。こいつの言うことにはスルーしとこう。


 そんなこんなでこの話が特に発展することが無いまま、館山とは別れた。


 奴と別れた後、いつものとおり面倒なスクランブル交差点に着くと、何やら向こう側で手を振ってる奴がいることに気付く。


 信号が変わると、強制的にそいつがいる場所にたどり着くとはいえ、まるきり見覚えのない奴から手を振られても全く嬉しくならない。


 ――のだが、


「ソージく~ん! わ・た・し・ですよぉ! お~い気付いてますぅ?」


 俺のことを年下扱い……向こう側にいる奴は例の後輩女子だ。館山以上に声がでかいし響いているので、周りの通行人からの視線が俺に注がれていて痛い。


 他人だが、正直言って他人のフリをしたい。


 しかし悲しいことに、交差点ということもあって信号が変わると同時に注目はすぐに解除。俺をめがけて奴がまっすぐに向かって来るので、仕方ないがそれに応えるしかなさそう。


 横断歩道を渡る必要は無く、後輩が俺の前にたどり着くのを待つだけなのでそこで待っていると近距離状態になった後、奴はかなりの位置にまで接近してきた。


「きみ、ずっと気付いてましたよね?」

「手を振ってても対象が俺とは限らない。たとえ気付いていたとしてもだ! つまりどうにも出来なかったということになる」

「ご自宅が交差点付近にあるんですか~?」

「極秘情報につき……」


 俺が華麗にスルースキルを発揮してやっているというのに、こいつはさらにその上をいくというのか?


「残念ながらわたし、知ってましたよ!」

「それはそれは……すごいことだな」

「えへっ、それほどでもないですよぉ」


 ヤバい奴はそう言うんだよな。だからこのままスルーをキープだ。


「きみに伝えたいことがあったんですけど、偶然遭遇したので声をかけたわけなんです」


 偶然の遭遇か。怪しいがどうでもいいな。


「で?」

「好きな人って、Y・Sさんですか?」


 な、なん……だと!?


「答える義理は無いが好きな人間ならいる。それだけだ」

「その子、彼氏いますよ! それでもアタックするんですか?」


 こいつの情報を鵜呑みにするほど豆腐メンタルじゃない。


「さぁ……」

「きみみたいな男の子にはもっとお似合いの子がいると思うんです。なので、よろしくお願いします!」


 俺の話をガン無視したうえ、よく分からないお願いをされて思わず寒気が走った。

 俺の方はよろしくするつもりも無いので家路を急ぐことにした。


「俺以外の男の子によろしくしとけばいいんじゃないか?」

「……ソージ先輩、よろしくお願いしますね!」

「――ん? 人の話を聞いていたか?」


 空気なんて読めないとは思っていたが、通用しない相手か。


「何がですか? 今のは先輩に挨拶しただけですよ?」

「あ、あぁ……そういうことか。じゃあ、よろしく後輩」

「えへっ、よろしくで~す!!」

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気になる後輩が俺の恋を邪魔しにきてる件 遥 かずら @hkz7

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