気になる後輩が俺の恋を邪魔しにきてる件
遥 かずら
第1話 邪魔の始まり
「先輩が悪いんですよ? 責任は取ってもらいますからね?」
どうしてこんなことになったんだ……。
思い出しても始まらないが、きっとあの時のふとした優しさと声かけから始まったのだと自覚する。
あの遭遇から、俺にとって難易度の高すぎる告白が始まったのだと。
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気になってしまった女子をリサーチする、そして仲良くなって告白する。
それが俺の日課であり、目標である。
それに毎回付き合わされているせいか、悪友である
「……ったく、
馬鹿でかい声で話す館山は俺のくだらない用事に付き合ってくれる数少ない悪友。こいつの言うことはもっともなことだが、結局俺に付き合ってくれるわけだから同罪と言っても過言じゃない。
声がでかすぎるのが難点だが、それによって助けられている場合もあるのであまり強く言えない。
「分かりやすい店先に美少女がいたら声をかけて好きになってしまうのは自然現象だろーが! とにかく行くぞ! 頼むぜマジで」
気合いを入れて昇降口に向かおうとすると、前方に下級生らしき女子の姿が視界に飛び込んでくる。
構わず進もうとするが、
「っと、悪ぃ……おれトイレ。総司は先に外に行っててくれ。何ならおれの代わりに教室で暇してる優也を連れて行っても――」
「優也~? あいつは女に困って無いだろ。それに今さら教室に戻りたくないぞ」
何のタイミングなのか、館山は股間を押さえながら今にも漏れそうな表情でこの場からいなくなろうとしている。様子を見るに嘘をついているでも無さそうなので、素直に行かせることに。
慌ててトイレに向かった奴を見送り俺だけ先に廊下を突き進むはずが、進行を阻むかのようなタイミングで突然俺の目の前でしゃがみ込む女子の姿があった。
視界上に見えた女子なんだろうが、何でこのタイミングでしゃがむ?
耳を澄まさなくても聞こえてくるその声から。
「うっそ、最悪~……」
……などと、愚痴のようなものをぶつくさ言いながら、廊下の床のあちこちに手を伸ばしている。
何かを落としたか?
助けるつもりは毛頭ないが、思わず足下を気にすると床面に色んな小物が散らばっていることに気づく。
「何で無いの? どこ~?」
必死になって何かを探しているのは、おそらく一年の女子。
二年生である俺たちの教室は上の階にあり、外へと向かうには必ず一年生の教室がある廊下を通り抜ける必要がある。
どう足掻いても一年女子と遭遇するのは避けられないわけだが、基本的にここを通るのは放課後や外に出る時のみ。それだけに、たとえ見知らぬ後輩が困っていてもあまり関わらないのが暗黙の了解となっている。
――とはいえ、だ。
さすがに廊下の大部分を通れなくして邪魔しているし、どうみても困っているのに見てみぬふりをするほど鬼畜ではない。
正直に言えば構っている暇と余裕は無いのだが、あいつがまだトイレから出て来ない以上、暇つぶしと人助けを兼ねて先輩としての顔を売っておくいい機会。時間的にも余裕があるし、決して普段は気にも留まらず声もかけないが今だけは優しく声をかけてやることにした。
「なぁ、そこの……何か困ってるのか?」
親切な俺の問いかけに対し、
「困っていないように見えているならきみの目は節穴です。どう見ても困っているに決まっているじゃないですか! だけど助ける気があって声をかけてきたんなら、許します!」
何だこいつ。
どう見ても後輩な女子に『きみ』呼ばわりされる覚えは無いし、何で逆に許しを請わねばならんのか。
態度だけで判断すれば可愛くない。
だが、
――!
む……むむぅ。
ふと顔を上げ、俺を見上げる女子の顔は予想外に可愛いかった。好みとは違うがアイドル並に顔が小さくて、かけているメガネが異様にでかく見える。
腰まで届きそうな髪、たっぷり日差しを浴びて焼けた健康的な褐色の肌、細い首筋と細い足首。この学校にこれほど魅力的な後輩がいたのかってくらいの雰囲気を醸し出している。
きちんと出るところは出てるし……。
しかし、残念ながら後輩には変わりないのが悔やまれるところだ。
「め、目の前で困ってる女子がいたら助けるりきまってりゅ……」
おおぅ、噛んでしまったぞ。
「はい? 何て?」
「困ってる子がいると気になってしまう性格だから助けるに決まってるだろ! って言った」
主に好きな同い年か可愛い先輩限定だが。
「気になる? わたしのことがそんなに気になるんですか?」
「明らか困ってるし気になるだろ。で、何を探してたんだ? 大事な物……それともお金とかお守りとかを落としたのか?」
俺の問いかけに対し、後輩女子は何故か俺に構わず黙々と散らばった小物をかき集め始めた。
手伝おうとする俺が近づこうとすると、
「あ、大丈夫です。見つけましたから!」
――などと言い放った。
もしかしなくても俺が声をかけなくてもすでに見つけていたパターンか?
そうだとしたら俺の勇気ある行動は間抜けそのものだな。
「何か探してたんじゃなかったのか? ――って、待て!」
俺が話を続けようとすると、どういうわけかそそくさと逃げようとしている。
これは……陰キャ要素のある後輩女子に声をかけてしまったか?
だが何かを探していたのは間違いなかっただろうし、俺の判断は正しかったはず。
「いいえ、逃げるなんてそんなことしないです。きみは先輩で合ってますよね?」
「え? あぁ、そりゃあ……」
だから、俺に向かってきみは無いだろきみは!
「わたし、目の前に見える1年F組の前の席に座っているリナです。きみは確か、掃除が大好きなソウジさんですよね?」
そういや、にぎやかな声が聞こえてくると思っていたが1年の教室の前だったな。
……というか今教えられたのって下の名前だったよな?
「掃除? 俺は総司だ、総司!! 掃除は好みじゃない」
「掃除は好きじゃないけど、ソージ先輩……と」
何でそこでメモを取るんだこいつは。しかし俺も間抜けだったな。まんまとひっかかってしまうとは。
「何で名前を知ってるんだ? って顔してますね」
「なん――」
「だって聞こえてきてますもん。少なくともソージという下の名前だけは一年のみんな、F組はみんな知ってますよ。あはっ!」
「な、何!?」
俺が後輩の人気者だと?
そんなサービスしたことないぞ。
「多分先輩のお友達だと思うんですけど、とてもおっきな声で呼ばれてますよね? いつも」
俺の落胆ぶりを気にせず、目の前の後輩はドヤ顔を見せている。だがさすがに気安く下の名前で呼ばれる
「初対面の先輩に対して名前呼びもだが、きみ呼びは失礼と思わないのか?」
「そうですか? じゃあソージ?」
だからって呼び捨てはねーわ。
「……ってか、呼び捨てするな!」
「だってきみのお友達がばらしちゃってますし~」
またしてもあの野郎のせいか。しかしさっきから何なんだこいつは。
「きみって呼ぶのが癖なのか? ちょっとどうかと思うぞ」
実際にメモを取るフリをしただけだったようだが、今度は手の平に指でメモる仕草を見せる。
「……んー、うんうん。分かりました!」
「あ?」
「急用を思い出したのでお先に失礼します! ソージくん、ファイトですよ!」
などと言いながら、失礼な後輩女子は俺に向かって拳を突き上げてみせた。
何を納得したのかも不明でしかも謎の応援。
何なんだよ、本当に……。
「総司! 悪ぃー! 待たせちまった!!」
「声でかいな、全く。弘! お前のせいなんだぞ!」
「ん? 何が?」
館山にはまるでその自覚が無いんだな。
「何怒ってんだ? 総司」
意味不明な後輩に絡まれてしまったが、それは気にしないでおくとして今は一刻も早くカフェに行かなければ。
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