部屋の中

 アパートの階段を上がり、玄関の鍵を開けて部屋の中に入ると、黒い服を着た男が立っていた。

 予期せぬ事態にパニックになる。

 相手も驚いたようで、「わぁぁっ!」と大声をあげた。

 私はとっさに家の中に入り、後ろ手に玄関の鍵をかける。なぜそのような行動をとったのだろう……。

 普通ならこの場から逃げるのが賢明だ。でもきっと相手の背格好を見て、この男なら取り押さることができると感じたのだと思う。

 ボサボサの髪。伸びた髭。知らない男だった。

 男は慌てながら私から距離をとり、リビングのほうに逃げていく。

 私はキッチンに置いてある包丁スタンドから、包丁を1本取り出して、恐る恐る男のいるところに進んだ。


「誰?」

 先にその言葉を発したのは私と男のどちらだったのか、もう今となっては覚えていない。


 夜になって部屋でコーヒーを飲んでいた私は、昼間に見た男のことを思い出す。

 盗みに入ろうとずっと目をつけていた部屋に、引きこもりの息子が住んでいたなんて、考えてもいなかった。

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フラワーガーデン(ショートショート集) 夢叶 える @elle_yumekana

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