フラワーガーデン(ショートショート集)

夢叶 える

神々の理想郷

 私が神になってから最初にしたことは、悪人を排除することだった。

 排除といっても、突然悪人を地上から消すのは難しい作業になる。人をひとり消すためには、その人物の周りの記憶を改ざんする必要があるからだ。ためしに近い未来に大量殺人を起こす人物を消したことがある。その人物を消すために、親族や友人、そして職場の人間などの記憶を改ざんすることになりとても苦労した。これではあまりにも効率が悪すぎる。

 そこで私は作戦を変えることにした。私の意思を反映した細菌を作り、地上にバラまく。細菌は私の持っている悪人リストと連動しており、リストに記載のない人物には無害だが、悪人リストに記載されている人物の体に入るとじわじわ体を蝕み、半年ほどかけて衰弱させ死に追いやることができる。

 数年もしないうちに世界中に細菌が広まり、やがて悪人のいない私の理想の世界ができあがった。

 

 まだ私が神ではなかったとき、世界の理不尽さに嘆いていた。残虐な事件や過失による事故で罪もない人たちが毎日たくさん死んでいくことに憤りを感じ、「神様はどうしてこんな酷い世界を作ったのか、私が神様だったらこんな世界にはしない」と考えていたこともある。

 そして奇跡が起こって私は神になることができた。


 ♢   ♢   ♢


 私はこの世界にはびこる理不尽の根源をことごとく対処し、自分の理想に近づけていった。

 やがて神としての任期が満了に近づいたある日のこと。

 次の神になる者が私のところにあいさつにきた。

 当たり障りのない会話だけをして、引き継ぎを完了させる。

 ここまで理想の世界を作り上げたのに、ここで誰かに渡すというのは正直寂しい。だが、もう大丈夫だろう。きっとこの先誰が神になろうとこの世界は安泰なはずだ。

 そう思っていた。

 

 私は次に神になる者が、付き人にこんなことを話しているのを聞いてしまった。

「こんな平和な世界を作った今の神は許せない。毎日が退屈で生きていることにありがたみを感じない自堕落な人間ばかりだ。私が神様だったらこんな世界にはしない。そうだな、まずは悪いやつを作ろう。そいつらが事件を起こすことで、きっと命の大切さを学んでいくだろう」

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