最終章【epilogue】 -明日への布石-

①【一番近い、大きい街】

「買い出し、ねぇ」

「あらキョウちゃん、何が不満なの?」

「だってよ、ここって……」


 そう、ここは廃墟の城から一番近い大きな街。大陸北部における貿易の中心だ。主にインドやイギリス、台湾からの貿易品が多い。そして……エヴァンジェル領の国都でもある。


「つい三日前にはこの国と戦ってたんだぞ?」

「わかるっス。その国でのんびり買い物とか、なんかモヤモヤ~ってしまスよね」


 この街から北東に位置する廃墟の城で、俺達はエヴァンジェル家とイギリスの連合軍と戦った。相手は総勢四百人。普通ならどう足掻いても勝てない戦いだったが、なんとか全員生き残る事ができたのは、無限に吹き出る魔力と皆の連携のたまものだ。


「まあ、俺の無双があればこそだったな」

「無双って、キョウちゃん瀕死の重傷だったじゃない」

「……誰かさんの腹パンが一番ダメージでかかったぞ」

「はいはい」


 一番モヤるのは、首謀者と思しき山南兄が、俺たちを煽るだけ煽って勝手に死に、その弟はいつの間にか姿を消していた事だ。弟の方もデーモンに取り込まれものと勝手に思い込んでいたのだが……


「ん、なんや? ワイの顔に何かついとるんか?」

「……いや、なんでもない」

「それにしても流石王都やな。綺麗な姉ちゃんばかりや。テンション上がるで~!」


 残念ながらムカつく事に、山南弟が現場から逃げるのをタクマは感知していた。その話を聞かされた時、『何で言わなかったんだよ?』と言いかけたけど、あの戦いの最中さなかに言われても対処は出来なかっただろうし、むしろ目の前の敵から注意がそれる事を考えたら、タクマの選択は正しかったと言える。



「とりあえずカドミに頼まれた物はこれで全部かな?」

「そうね……あと“キョウちゃんには内緒で買ってきて欲しい物”くらいかな」

「俺に内緒って、言っていいのかよ」

「いいよ、別に。血縁だなんて思いたくないし」

「ひどい言われ様だな……。ちょっとだけカドミに同情するぜ」


 カドミの買い物リストには、正直何に使うのかよくわからない物も含まれいてた。だがこれは、他でもないシルベスタの治療に必要な物だ。数年かけて治療する必要がある以上、定期的に買わなければならない消耗品も含まれている。だからその店の店主とは良好な関係にしておきたいという思惑があり、その為俺とセイラが交渉を兼ねて買いに来たという訳だ。もっとも、セイラが担当するのは店主が男の店。つまり……


「まあ、色仕掛け要員で使いに出されたら怒りたくもなるよな」

「でしょぉ? 身内のやることじゃないって、それ」

「で、カドミの内緒の買い物ってなんだ?」

「これがリストなんだけど、何に使うのかさっぱり……」


 と言ってセイラは“カドミの極秘買い物リスト”を、俺とレオンに見せて来た。


「なんスか、これ。サツマイモ、麦って?」

「ああ、これは……」


 リストにあった物、それは、サツマイモや麦みたいな穀物の種。それと、厚手の鍋、蓋の出来る瓶数十本。この世界にサツマイモや麦があるかはわからないけど、米が存在している位だ、似たようなものはあるだろう。そして厚手の鍋。

 カドミのヤツ……コッソリ焼酎でも作る気だな。なるほど、俺に秘密にしようとするわけだ。知識と研究心があれば、蒸留酒は意外と簡単に作れる。その辺りカドミは得意分野だからな。


「まあ、あいつも寂しいんだろ。買って行ってやろうぜ」

「自分、鍋を持ってくるように言われたんスけど?」

「なあ、レオン。お前……トレーニングの為とか言われただろ」

「どうしてわかったんスか!? キョウジ兄さん流石っス!」


 流石も何も、数十本分の焼酎を作ろうっていうんだ。蒸留器を作る厚手の鍋なんて相当大きいし重い。レオンは城の護衛に残してくるつもりだったのに、カドミが『訳に立つから連れていけ』と力説していた理由が今わかった。

 


「騒がしいですわね……遠くからでもすぐにわかりましたのよ」

「お、パティ。どうだった?」


 俺達がこの街にきた最大の理由。それは今回の騒動における責任と賠償を、国王に付きつける為だ。とは言え無名の冒険者が一国の王に会うなんてことはまず不可能。だから俺は強行突破するつもりでいたのだが……


「上手くいきましたわ」

「マジか。パティ何やったん?」

「それは企業秘密ですわ」

「うむ、秘密じゃぞ、有象!」

「お主がだらしないだけじゃ、無像!」


 いらずらっぽく笑うパティ。横を見るとレオンが鼻の下を伸ばしてぼーっとしているが、まあ、これはいつもの事だな。

 俺が城に入り込もうとした時『ここはわたくしにまかせて、先に買い物をしてきてくださいな』と、反論を許さない迫力でパティが制止してきた。ここまで言うのなら“何か策があるのだろう”とまかせておいたんだけど、本当に渡りをつけるとは思わなかった。


「ところで、その恰好はなんだ?」


 パティとミニセイラズは、フード付きの灰色のローブを着て、目元には地味目のオペラマスクの様なものをつけていた。まあ、何か意味があるのだろうとは思うけど。ちなみにミニセイラズはパティ護衛の為に連れて来た。山南弟の行動が読めないから、一応の護衛としてだ。流石にあれだけの怪我では襲ってくる事はないとは思うが、あの場から自力で逃げる事が出来るくらいだ、念には念を入れておいた方が良いというタクマの提案だった。


「これは、ちょっとした保険ですの」


 そういってパティは、フードを深くかぶり『さあ、行きましょう』と、皆を王城に促した。



 それにしても王家に交渉出来るとか、本当の所、パティって何者なんだ?




最終章MAP(※第五章と変わらず)

https://kakuyomu.jp/users/BulletCats/news/16817139555335404537


次回! 最終章【epilogue】 -明日への布石- ②謁見


是非ご覧ください。

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