㉔【通報……】

「話を戻すが……その時、一番最初に作り出したオリジナルが、今セイラが持っているキョウジの魔導書じゃよ」

「ん? それおかしいぞ。その魔導書は俺が転生して来た時に、ギルドの古参メンバーから受け継いだんだぜ?」

「その古参メンバーってのは、まあ、言ってしまえば偽物じゃ。そやつはワシの孫じゃよ」

「はあ? なんだよそれ」

 ……つまり俺は、転生してきたその時からカドミに誘導されていたのか。カドミを探すとか息巻いていたのに、すでにカドミの手の内にいたと。


「なんかムカついてきた。カドミ、とりあえず一発殴らせろ」

 握りこぶしをプルプルさせながら半分、いや八割以上本気で言ってみたのだが……。


「断る。お前は“幼児”を殴るのか!」

「うわ、汚ねぇ!」


「確かに卑怯ですわ」

「ズルいっスね」

「でもさキョウちゃん。一年位待てば殴り放題なくらいに成長するはずだから」

「ああ、そう言えば。それはそれは……楽しみが出来たな!」


 さすがに不利だと感じたのだろう。カドミは矛先を変える為に、あろうことか自分のひ孫を盾に使い始めた。

「そうは言うけどな、キョウジ。セイラがお前と接触するためにやった事を、知っておるのか?」

 もっとも、先にカドミを売ったのはセイラなのだから自業自得とも言えるだろう。

「ちょっと、何で今言うのよ」

 珍しく動揺しているセイラ。これは何かある……!


「おいセイラ、お前何したんだよ」

「大した事してないって」

 セイラは俺をじっと見つめると、栗色の髪をさっとかき上げる。吹き抜けるそよ風を受けながら、軽く爽やかに微笑みかけて来た。


「……それで誤魔化せると思ってんのか」

「……」


 開き直ったのだろうか? ……いや、これは開き直っている。俺に背を向けながら腰に左手をあて、『ふぅ……』とため息ひとつ挟みながら悪びれずに一言。


「不審者通報して投獄させたくらいよ」

「十分悪いわ!」


 マジか。いきなり意味もなく職質受けて投獄されたのって、セイラが仕掛けてたのかよ。


「……それでまあ、なんだ、肝心な話なんじゃが。キョウジお前がここに来た一番の目的じゃ」


「誤魔化しましたわね」

「誤魔化したっスね」



「ゴホン……。この世界の神に逢う方法、そして呪いを解く方法。この八十年の間で調べた全ての事を話そう」


 ……呪いを解く方法。まさにそれこそが、ここに来た最大の目的だ。 


「出来るのか、そんな事」

「方法と言うか“条件”じゃな」

「それを“カドミさんがたらしこんだ創造主さん”から聞いたと言う事ですの?」

「そういう事じゃ。情報聞き出すまで大変だったんじゃぞ。あと、たらしこんだ言うな~」


 実際問題として、たらし込もうが襲おうがそんな事はどうでもいい。カドミの性癖に興味はない。必要なのは情報なのだから。


「それで、その条件とは?」

「“故意の殺人でない事を証明する”のじゃ」

「んなもんどうやって……。いや、その言い方ひっかかるな」

「何かおかしいんスか?」


 レオンもパティも首をかしげている。転生する事になった要因の一つに関わる疑問だから、この二人にはわからなくても当然なのだろう。


「そうだな……カドミ、今の文言は“創造主”から言われた事そのままなのか?」

「うむ、もちろんじゃ。実はワシも違和感を覚えての。じゃからそのまま伝えてみたんじゃが」


「そうか……殺意を持って殺人を犯した者はデーモンに転生させられる。そして不可抗力でも人殺しを犯した者はこの世界に転生させられる」

「そこまではすでにわかっている事よね?」

「そう、ここまではセイラの言う通りすでにわかっている部分だ。だけど今のカドミの言い方から、もう一つの仮説が成り立つ」


 これはカドミもたどり着ていない部分だ。推測の域を出ない話だが、創造主の裏に別の意思が隠れている可能性が出て来た。


「そもそも、故意ではない証明って、誰に対してするんだ?」

「なんや? そんなん“創造主”に……いや、それもおかしな話やな」

「だろ? “創造主”はたまたま無作為に選んだ少女の意見を聞いて、流刑星であるこの世界に俺達を転生させた。つまり“創造主”は自ら率先して罰を与えようとしていた訳ではない。それは、この罰というものに対して“創造主”はって事にならないか?」


 “創造主”がいわゆるラスボスかと思っていたけど、厄介な話になりそうだな。


「なんか難しい話になってきたっス……」

「まあ、実際問題として、誰に向けて身の潔白を証明すればよいのか? って事だ。しかしここまでの話になると、“創造主”に会わない限り分からないよな?」

「そうしますと、そのカドミさんが手籠てごめにした“創造主”さんに逢うのが、当面の目標という事ですわね」

「うむ。創造主に逢う方法はある。じゃが、必要なものがいくつかあってな……。あと、手籠てごめ言うな~」


 必要な物、か。いくらカドミがこんなアホみたいな状態とは言え、八十年経ってもそれらが揃えられていないってのは、よほど見つけにくい物なのか。ここまでの話からすると、魔道具アーティファクトの可能性がめちゃ高いよな……。


「俺にそれらを探してこいと?」

「おう、察しがよいのう」

「察しも何も、カドミ、お前さ……。最初からそのつもりで俺をここに誘導しやがったな?」


 ……セイラもその為に無理矢理転移させられたってところか。




次回! 第六章【be Still Alive】 -生きるための未来- ㉕火薬庫?

是非ご覧ください。


第一章第一話の伏線“キョウジ投獄の理由わけ”回収しました( *´艸`)

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