㉒【後始末】

 どのくらい経っただろうか。Gデーモンの甲殻は溶けだす鉛の様な灼熱色になり、それ自体が数千度の熱を発する様になっていた。


「流石に……限界だな」

 ここまでやれば共進化細胞も死滅しただろう。イフリートを帰還させ、魔装を解くと同時に一気に力が抜けてしまった。


「まあ、あれ以上燃やしても意味あらへんしな」

「ああ、いや……“俺が”なんだ。ちょっと血を流しすぎた……」


 その場にドカッと座り込み、巨大な灼熱色の塊をボーッと眺める。とにかく楽な態勢になりたかった。血を流しすぎたとは言っても、死に至るようなレベルじゃない。神経ごと黒武器を引き抜かれたのが、結果として良かったのだと思う。出血がそこまでひどくないのは、血管自体は傷ついていないって事なのだから。

 しかし、左腕が痛え。そよ風が当たっただけでもチクチクと痛みを感じてしまう……。治るかな、これ。

 


「それでも、まだしばらくは監視しておかないとか……」

 もし仮に細胞が生き残っていたらどこかを修復し始めるだろうから。どんな些細な変化も見逃すわけにはいかない。


「監視するですって?」

「ありえませんわね……」


「ん?」


「キョウちゃん!!!」

「お兄さま!!!」


「は、はい……なんでしょう?」

 なんか女性陣怒ってる様な。なんかミスしたのか……?


「なんでしょう、じゃないわよ。色々言わず左腕出して!」

「文句言わせませんわ。さっさと治療させてくださいませ!」


「あ、いや、自分でやるから。って、オイ、なにをぉぉ…………ぶほっ!!」

 セイラの虫の居所が悪かったのか、それとも逆らった俺が悪かったのか。まあ、多分後者だが、セイラはいきなり怪我人の俺に腹パンを入れてきやがった。


「うえっ……おま、怪我人になに……を…す」

 あれ、睡眠魔法マインド・レスト? パティの呪文か……


 襲い来る睡魔の中、ボロボロの左腕と腹の痛みだけがいつまでも響いていた。この時、セイラとパティで悪だくみをしていたらしい。もちろんふざけていただけなのだろうけれど、後でタクマからコッソリ聞いた時には、変な汗が吹き出てしまった。


「ナイス腹パンですわ。お姉さま」

「こうでもしないと、無意識に抵抗レジストするからね、キョウちゃんは」


「レオン、あなたも治療するからこっちに」

「いや、自分はいいっス……よ……」

?」

「いえ、大人しくしまス」

 後日、レオンはこの時を振り返り『蛇に睨まれた蛙という言葉を産まれて初めて実感したっス』と呟いていた。


「パティ、あなたも手を出して」

「いえ、私の怪我なんてみんなに比べたら……」

「いいから。女の子がこんな傷を残したら駄目。キチンと治さないと」


 この場において、“自分がまとめ役をやらなければ”という使命感があったのかはわからない。セイラはパティの手の平に止血剤を塗りながら、いまだ神経と魔力を酷使している仲間に声をかけた。


「ルキフェル、ディーン、そっちは大丈夫?」

「大丈夫……じゃないですよ、姉さん~」

「これ相当キツイっすね、カドミさん」


「当たり前じゃ。黙って集中せんか!!」


 僅か五十メートル先に一万度近い物体が鎮座している。それでもこの場で普通にしていられるのは、絶えず絶対真空の壁アブソリュート・スペースを三人で維持しているからであった。


止血こっち終わったら手伝うから、それまで気合入れときな!」

「ういっす~」

「了解っす~」



「ちなみに“アレ”はどうしまスか?」

 レオンが向けた視線の先には、俺の左腕から引き抜かれた黒武器が石床に突き刺さっていた。ヒビが入りボロボロではあるが、まるで“アーサー王伝説”の如く、引き抜ける勇者を待っている様な風格。


「うかつに触るとヤバいで~」

「でも、お兄さまの言っていた“特別な光”を感じなければ、手の中に入ったりしないのですわよね?」

「そやな……うむ、レオン坊、ちょいと抜いてみぃ」

「いやいやいや、今ヤバいって言ったじゃないっスか。お師匠酷いっス!」

「あら、でももし体の中に入っても、キョウちゃんみたいにゴーレムにしちゃえば取れるんでしょ?」

「いやいやいやいや、やりませんって、普通。セイラ姉さん怖いっス!」


 相変わらずセイラの言動は、本気なのか冗談なのかわからない事ばかりだ。最近はパティも影響を受けているのか、二人で“怖い冗談”を口にすることが多くなった。


「……ところでさ、パティ」

「やっぱりお姉さまも“そう”思います?」


「なんや? 二人して悪い顏やないか」


黒武器あれをキョウちゃんの手に戻したら……傷治ったりしないかな~って」

「ですわね!」

むごいっス! 女性陣が鬼っス!!」


 まあ、冗談だからこを口に出来るのであって、本気ならば多くは語らないはず……。多分だが……。


「ところで、お兄さまは“直感”って言っていましたけど、黒武器をゴーレムにするなんて普通考えつきませんわ」

「あ、それ自分も思ったっス。普段は色々とアレだけど、やる時はスゲーっス!」


「ああ、それについては……キョウジが起きたら話すとしよう。アホじゃから自分でもわかってないだろ。それに、ここに来た目的の“一番肝心な話”がまだじゃからな」




次回! 第六章【be Still Alive】 -生きるための未来-㉓血筋

是非ご覧ください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る