⑬【Savage Hawk】


 沖田さんは、俺に迷いがなくなったのを確認すると一気呵成に畳みかける。侍と老兵では、そもそもフィジカル面で圧倒的にレベルが違った。持ち前の瞬発力で相手の後ろに周り込むと、二人の重鎧兵を置き去りにし、後衛の山さんゴリさんに仕掛けた。

 まばたきをしたら目の前に敵が来ていた。多分じじぃ達からしたらそんな感じだろう。『年寄りは労わるものだ』と俺が言ったのを覚えていたのか、沖田さんは木刀を使わずに“合気”だけで一人吹っ飛ばした。


「……かえってその方がダメージでかくないか?」

 ちょっとだけ心配になってしまう位、派手に吹っ飛び転がるじじい。


「山さん、生きとるか~?」


 攻勢に転じたのはセイラとパティもだった。セイラは五本のナイフを一つの塊となる様に操作し、ガードの為に飛んでいる皿をことごとく破壊し始めた。束にして“一撃の質量”を増やす事で強引に皿を割るというセイラの戦術ちからわざだった。


 パティは沖田さんが後衛に向かったのを見て、ターゲットを重歩兵に切り替えた。セイラのナイフが重歩兵の目の前を旋回する。鎧を着た相手に対してまったくダメージは期待出来ないが、今は一瞬の注意を引くだけで良かった。

 その隙にパティは呪文の詠唱を完了。浅めの“落とし穴ランド・フォール”を重歩兵の足元に発生させた。七~八十センチと言ったところか。股下くらいの深さの穴に落ちる二人。

 人ひとりが入るギリギリの幅で開けられた落とし穴は、普通の状態でも身動きが出来なくなる。さらには鎧の重さも加わり、重鎧兵を完全に封じ込めた。

 

〔勝利チーム、ディバインベール!〕

 アナウンスと共に一気に湧き上がる会場。最後、十数秒の圧倒的な逆転劇に多くの観客がしびれた様だ。まあ、今回も主にセイラとパティに対してだけど……

 

「おい、じじぃ。勝ったぞコラ! そのまま冥途にぶち込んでやろうか?」

「お兄さま、ガラわるいですわ」

「そうよね~。もとはと言えばキョウちゃんの油断が原因なんだし」

「たまによくある事ですな。反省は海より深くするでござるよ」


 残念ながらじじいどもは皆大した怪我もなく、試合が終わるとのんびりとお茶をすすっていた。


「残念じゃのう。あの美尻……。残念じゃのう」

「痛、痛たたた……どうやら試合で腰を痛めたようじゃ。パティ嬢ちゃんや、揉んでくれんかのう?」

「ヤブ、抜け駆けはズルいぞ。お嬢ちゃん、ワシは肩が上がらなくれのう」

「あ、ワシワシ、ワシなんて頭痛と眩暈がするんじゃ。セイラちゃんが添い寝してくれれば治ると思うんじゃが……」


「この……スケベじじいども。今すぐ三途の川を渡してやるわ!」


「おおう? 言うではないか、こわっぱ。ならばワシの奥の手を見せてやろうぞ……」

 いきなり両手を振り上げ、片足立ちになって威嚇をするボス。今時小学生でもやらない荒ぶる鷹のポーズだ。


「なんかキョウジ殿、老輩方に気に入られているみたいですな」

「そうね~。あとはキョウちゃんにまかせて、宿にもどりましょ」

「早くシャワーあびたいですわ」


 三人は俺とタクマを置きざりにしたまま、静かにフィールドを後にしていた……


「ところで、朝飯まだかいのう?」

「おじいちゃんさっき食べ……ってそういうネタやめろって」

「おいおい、若いの。年寄りは敬うものじゃよ」

「ワシは尻スキーで、ゴリさんはおっぱい星人なんじゃ!」

「知るかアホ!」




「……ほんま、元気なじい様方やな~」


 


次回! 第三章【Existence Vessel】-魂の器- ⑭新(?)メンバー

是非ご覧ください!

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