⑭【新(?)メンバー】
「セイラ姐さん、諜報部から極秘文書預かってきましたぜ……」
――カレル三回戦を明日に控え、今日一日は
『アメリカ領近くの街道で三人の惨殺死体が発見された。現場には明らかに人外生物の足跡があり、その形状からデーモン族と推測される。被害者はイギリス政府に登録している転生者で、いずれも五年以上の冒険者経験があるベテランである。
検死によると、浅い傷から始まり段々と深く切裂き、生きたまま何度も何度も切り刻まれたという話だ。そこには三人いたが誰一人逃げる事もなく、悲鳴を上げる事もなく、闘った形跡もない。これはデーモン族特有のFearつまり、相手に恐怖を与え、動きを制限する特性によるものと推測される。
本件が
「多分この三人って、私が諜報部に頼んでおいたメンバーって事よね……」
「そういう事らしいですぜ、姐さん」
「……たまたま通り魔的に被害に遭ったのか、それとも狙って殺されたのか、それによって全然意味が変わってくるわね」
あまり、こういう推理は得意じゃないんだよねぇ。出来るだけキョウちゃんに丸投げしたいのだけれども。それにしても、異世界に来てまでMI-6とか名乗るのはやめてくれないかな。こっちが恥ずかしくなってくるわ。
「ところでさ……君、なんでここにいるの?」
目の前には、筋骨隆々、二メートルを超える大男が立っていた。初めて会った時は簡素なレザーアーマーを着ていたが、今は普通の旅人の様相である。
「なんでって、姐さんにその手紙を持ってきたんですぜ!」
「いや、そういう意味じゃなくてねぇ……」
――私がこの大男“ブロックヘッド”と闘った時に、間違いなく両足のアキレス腱を切断していた。僅か一週間前の話だ。にも関わらず、この男は事もなくそこに立っている。通常アキレス腱を断絶したら歩くだけでも二~三か月はかかるはずだけど……回復魔法が存在しないこの世界では、明らかに異常な話であった。
ラフィンストーン壊滅後、私はイギリス政府に二つ提言をした。
一つは
『ラフィンストーン壊滅及び領主逮捕に尽力してもらった冒険者キョウジの待遇』
そしてもう一つは
『ブロックヘッドの治療と減刑、イギリス政府所属の諜報員としての採用』
ブロックヘッドはその後街の病院に収容され治療を受けていた。
「……なんで動けるの?」
「何か、薬飲んだら次の日には治っていましたぜ。流石姐さんの国の薬ですわ」
……ありえないわ。いや、もしかしたら魔法を使った画期的な治療法が見つかったとか? これは後で上の方に聞いておかなきゃ。
「あともう一つ。あっしはこのままセイラ姐さんの下に付くようにと言われてきました」
「まあ、手紙を届けるだけだったら君をよこさないだろうね」
これは暗に『死んだ三人の代わりにメンバーにしろ』という諜報部からの意思だろう。
「それにしてもブロックヘッドって名前は呼びにくいわ」
「あ、それはラフィンストーンでつけられた名前で、あっしの本名は……」
「今日からあんたはシルヴィね。決定。満場一致!」
「姐さん、それは女性の名前では……」
「図体の割には細かいわね~」
「姐さんが大雑把なんです」
……意外と繊細なのね、この大男。
「じゃ、シルベスタ。強そうっしょ」
「あ、それなら一個師団くらい壊滅出来そうな名前ですぜ!」
「ほら、さっさと行くよ! シルヴィ、ついておいで!」
「結局略称でそうなるのですか……もちろんお供致しますが、どちらへ?」
「何を言っているの……?」
「追加メンバーの申請にきまってるじゃない」
次回! 第三章【Existence Vessel】-魂の器- ⑮パーティ戦闘のセオリー
二回戦の相手は? 是非ご覧ください!
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