⑮【パーティ戦闘のセオリー】


 ……ひと晩経ったらメンバーが一人増えていました。この“ごっつい人”、セイラ曰く『元ラフィンストーンの下っ端』だそうで。


「って、それ以上の説明はないんかい!!」


 とは言っても、ここでセイラが役に立たないメンバーを入れるはずもなく、そう言った意味では信頼している。


 このごっつい人を更にごっつく見せているのは、漆黒の重鎧と巨大なカイトシールドのせいもあった。ローカルズである彼は魔法耐性を持っていない。その為『抗魔法アンチマジック呪文スペル』を付与した防具を装備する必要があった。 


 魔力付与防具は総じて“ほんのり光る”特性があるのだが、その上から黒く塗って光が見えない様に細工している。通常のフィールドでモンスターと闘うのならこんな必要はないが、これはあくまで対人戦トーナメント。光る鎧なんて着ていたら『ローカルズですよ~』と自ら言っているようなものだ。  

 まあ、落ち着いてじっくり観察すれば、鎧から魔力を感じる事に気付かれてしまうだろうけど。

 武器は両手持ちのバスタードソードを片手で振り回している。彼の体格には丁度良い“片手剣”だ。こちらにも同様の魔力を付与してある。ちなみにどちらもイギリス政府持ちで購入しているらしい。……金持ちだな、イギリスって。


 これで五人になったので攻守バランスがとりやすくなるな。と思ったのだが、そこにパティから衝撃の一言。


「総司の姿が、今朝から見えないのですわ」


 昨晩木刀を素振りしている所は見ているが、朝になったら愛用の刀とともに姿が見えなくなったと。試合開始一時間前になっても姿が見えない。何かトラブルに遭ったのかと考えもしたが……例え、闇討ちにあっても遅れをとるような人ではない。

 しかしセイラだけは難しい顔をしたまま、俺達にイギリス諜報部からの文書を見せてきた。機密文書じゃないのか? とも思ったが、それ以上に情報共有が必要だと判断したのだろう。


「つまりお姉さまは、総司がデーモンに襲われたかもしれないというのです?」

「可能性として、ってだけだよ。何ひとつ証拠はないからね。ただ、文書にある三人が、通り魔的な殺され方をしたのか、それとも狙われたのかで話は変わってくるでしょ? キョウちゃんはどう見る?」


 ……確かにその通りだ。三人が狙われたとしたのなら、このチームに関わるメンバーにも危険が及ぶ可能性は十分すぎるほどある。最終的な狙いはイギリス政府か、もしくは所有する何か……そう、魔道具アーティファクトの可能性もあるな。狙いがどこにあるとしても……


「今後は全員固まって行動しよう」


 沖田さんが欠けるのは痛手だが、とりあえず今日の相手の対策を考えないとだ。





 二回戦の相手はメンタル的にやりにくかったが、三回戦の相手はフィジカル的にかなりやりにくい。何でこんな相手ばかりなんだ?


 チーム:チャリオッツ

 戦車の名が付いたこのチームは、歩兵五人のうち三人が重鎧でガチガチに固めており、堅牢な事この上ない。後の二人は弓使いと、もう一人は不明。バランス的には多分魔法メインなのだろう。重鎧兵三人で壁を作り、弓と魔法で相手の後衛を直接狙う。 

 

 パーティ戦闘のセオリーと言えばセオリーのひとつではあるが。


「こっちもそれやればええんやないの?」

「タクマ、その回答はギリ赤点」


 普通のパーティ戦闘では有効な戦術だが、ゴーレム戦においてはまた意味が違ってくる。

 魔法陣はゴーレムを呼び出す時に“陣そのものから”魔力を放出する。具現化している間もそれは変わらない。その魔力放出がバリアとなり、普通の飛び道具や小さな魔法では攻撃が通らない。

 そのため、遠目から矢で射られたくらいの威力なら問題なくガード出来る。セイラのナイフでも一本一本に付与されている精霊の力は小さいものなので、相手の召喚者を直接狙ってもダメージは皆無だろう。


 それは相手も解っているはずなのだが、ならば何故弓を使うのか? 大きな魔法を付与して打つ可能性もあるが、それなら直接魔法を打ち込んだほうが早いだろう。 

 むしろ重鎧の歩兵が体当たりしてくる方が厄介だ。その質量の体当たりならまず間違いなく壁は破られる。それでも弓矢を選択している理由。この辺りに勝敗のヒントがあるのかもしれない。


 俺達のチームにとって強敵というのは、重鎧に対して“セイラのナイフは、ほぼダメージが通らない”という事だ。後衛を直接狙うにしても、重鎧をかいくぐる必要がある。


 ――そんな訳で、頼るはパティという事になる。


 十五歳の少女に頼らなければならないとは情けない大人達だ。……まあ、俺も含めてだが。パティの精霊魔法を“相手の動きを妨害する”事だけに集中して使ってもらい、セイラに後の弓兵と術士を狙ってもらう。そこから崩していくのがベターか。


「なんや? シルやん加入早々、鎧三人相手させるんか?」

「流石にそれは厳しいだろうな……ってなんだよその呼び名は」


 “ゴーレムはゴーレム以外に攻撃を仕掛けてはならない”これは大会ルールだ。しかし攻撃ではなく“妨害”なら許容範囲とされている。よって、セイラが相手の後衛を倒すまでの間、サベッジ・ペガサスも重鎧兵の妨害に努める。ならば今回は、炎精霊ではなく土か風の精霊を召喚してみるのも手かもしれない。



次回! 第三章【Existence Vessel】-魂の器- ⑯見落とし

是非ご覧ください!

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