⑫【shock therapy】


「ほっほっほ。これは楽勝かのう」

「はよ美尻姉ちゃんを持ち返りたいのう」


 くそっ、言いたい放題言いやがって……勝ち負けは兵家の常とは言うが、流石にこんな負け方は恥以外の何ものでもないぞ。


「キョウちゃん、ちょっとこれ見て」

「なんだよこんな時に……」

 セイラの指さす方を見るとパティがいて……なんだ? スカートが膨れて……って、おおおおお!?


「きゃあ! お姉さま……なにをなさるのです」

 多分、精霊を使ってパティのスカートの中に風を送り込んだのだろう。膨れ上がったスカートはめくれ上がり、禁断の白い三角地帯が露わになる。慌ててスカートを押さえ座り込むパティ。


「おいセイラ、何やってんだよこんな公衆の面前で!」

「あら、公衆の面前じゃなかったらいいって事?」

「そんな事言ってねぇだろ。ちょ、パティも怒れって!」

「だってこれ、キョウちゃんのせいだからね~」


 ……俺が何をしたってんだよ、マジで。セイラの考えが読めねぇ。


「今キョウちゃんの目には何が映ってる?」

「そんなものパティのパン……ツ」


 いや、そうじゃない。やってくれたなセイラ……。ぐちゃぐちゃしていた頭の中が、禁断の白三角で上書きされてスッキリしたのが実感できる。目の前の霧が一瞬にして晴れた様な感じだ。


「どう? 目の前の敵がちゃんと見えるようになった?」


「……なった」

 というか、パティの下着でショック療法shock therapyとか罪悪感ハンパないのですが。さらにそれで落ち着きを取り戻した俺って……



「ふむ、あの美尻娘、やりおるのう」

「そうじゃな。あれだけガタガタにした若造を一瞬で戻しおった」

「一番注意しなければならなかったのはワシの嫁であったか」

「いつお前の嫁になったんじゃ、ラッキョ。抜け駆けはゆるさんぞ」


「誰が誰の嫁だって? ……やる訳ねぇだろ。じじい、念仏唱えてろ! すぐに送ってやるぜ」


「にいちゃん、口が悪いのう。たった今、女子おなごのぱんてぃ~で正気を取り戻したとは思えない威勢の良さじゃ」

 

 もうその手には乗らねぇぞ。とりあえず、じじいの謀略に耳を貸さない様に注意だ。

 黒ゴーレムが剣を構え突進してくる。さっきと同じような単調な攻撃だ。しかし今度は白ゴーレムが連携して左から回り込んできている。挟み撃ちの様な体制ではあるが……


「あまいぜ、じじい!」

 白は攻撃らしい攻撃をしてこない。防御特化と息巻いているくらいだ、攻撃一辺倒である黒の防御を受け持っているのだろう。だがそこが弱点だ。常に黒の守りを行うのなら、徹底して張り付いている必要がある。つまり、今仕掛けてきている挟み撃ちこそ、奴らの連携を切り崩す一手が使える。

 

 黒が大剣を振り上げ、体重を乗せて振り下ろす。しかしこれは軽くバックステップするだけでかわせる間合いだ。空を切った黒の大剣はそのまま地面をえぐり、小石や土を撒き散らす。


 ――ここにスキが出来た。もしこれが一対一なら一気に攻撃に転じていただろうけど、今回は勝手が違う。このまま黒に攻撃を仕掛けると、後ろから白の突進を受ける事になる。

 動きの止まった黒のゴーレムを放置して、白のゴーレムに向き直る。予想通り、盾を構えてタックルを仕掛けてきていた。


「それ、前方ちゃんとみえてねえだろ」


 サベッジ・ペガサスは正面からカウンターを狙い、スライディング気味に滑って盾の下をすり抜け、白の足を払った。黒の様な俊敏さは無い上、盾の下から攻撃が来るとは予測出来なかったのだろう。

 白はバランスを崩し前のめりになるが、片膝をつき盾を支えにして倒れるのを防いだ。

「ふい~。あぶないのう」

「やるではないか、若造」

「じじぃ。そんな無駄口叩いていていいのか?」

「なんじゃと?」


 当然攻撃の手は緩めない。サベッジペガサスは、すぐに立てない白を横目に見ると、盾を持つ左腕の肘関節に剣振り下ろし破壊した。力なく“だらん”とぶら下がる左腕。そのまま地面に突き立てられた盾を掴み上げ、すぐ目の前にいる黒に向けて|盾の突進攻撃シールドチャージを仕掛けた。


「キョウジ殿、生き返ったようですな」


「……まったく、世話が焼けますわね」



次回! 第三章【Existence Vessel】-魂の器- ⑫Savage Hawk

是非ご覧ください!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る