㉕【国家の威信】
なんか展開が読めて来た。俺らめちゃくちゃ悲惨なルート選択している気がするのだが……
「戦いに勝った直後は、当たり前だけど世界中の誰もが喜んでいたんじゃ」
「暫くは英雄扱いやったな~。しかし数日経つと雲行きが怪しくなってきたんや」
「スイッチを使って世界を牛耳ろうとしている。みたいな陰謀論がネット上で拡散されてじゃな……」
「そこからワイらを危険視する風潮に……」
なるほど。でも多分だけど……陰謀論なんかがネットで拡散されるよりも前、もしかしたら“起爆スイッチ”の存在が明かされた時点で、各国にマークされていた可能性がある。
「……世界中から狙われたとか?」
「うむ。アメリカを始め欧米諸国、特亜、ありとあらゆるところから狙われたんじゃ」
「そのスイッチを手に入れれば、世界を支配出来るって事か……。諸刃の剣だけど。」
「そうや。だから日本政府はワイらを隔離保護した。情報漏洩を避けるために、家族とすら連絡が取れなかったんや」
それは当然の処置だろう。日本のセキュリティなんて甘々だから、家族からの漏洩どころか通信網のレベルで傍受される可能性が高い。
「しかし、本当の理由はそこではなかったんじゃ。後ろから刺されたのじゃよ」
「卑怯やったで~。秘密裏に匿っておきながら、その実、日本政府そのものがワイらを殺してスイッチを手に入れようとしていたんや」
「だから家族と連絡とれない様にしていたのですね……。酷すぎますわ」
「なんかムカついてきたっス」
パティやレオンの怒りももっともだ。むしろ当事者の俺の方が怒らなきゃならないのだろうけど……。
「しかしワシらが殺されかけた時、台湾やシンガポールが動いてな。窮地から救い出してくれたんじゃ」
「日本が俺らを守ってくれないのに、親日国が守ってくれるって……なんかすごい複雑な心境だな」
「ワシら三人とも逃げるのに必死じゃった。様々な場所で色々な国の人が助けてくれ、何とか台湾に逃げ込んだのじゃ」
以前誰かが言っていたな。今は親日国の方が、日本よりも日本人精神を持っているって。
「対外的には台湾と周辺国で保護している事になった。しかし、ワシらは秘密裏に他国に移る手はずになっていたんじゃ」
「……今度はどこにいくんだよ」
「ブータンや」
「聞くだけで疲れる話だな。それで、大丈夫だったのか?」
我ながら馬鹿な質問をしてしまった。大丈夫じゃなかったから今ここにいるんじゃないか……
「台湾からフィリピン、シンガポールを経由してミャンマーから上陸する手はずじゃった」
「なんか暗号みたいっス」
「流石に……わかりませんわね」
それは仕方がない。転生二世である二人には地球の国位置なんてわかる訳がないからな。
「ですが、その国々は攻撃されませんでしたの?」
「それは大丈夫だろう。そんな事をしたらスイッチを破壊してしまう可能性があるからな」
「でもキョウジ兄さん達がスイッチを持っていたら、死ぬまでずっと狙われるんじゃないっスか?」
「まあ、そうなんだけどさ。死んだからここにいるんだよな……」
しかし、これだけの事がありながら、俺の記憶には一切残っていないってのはモヤモヤするな。少しくらい、断片的に残っていてもおかしくないのだが……。
「それでもな、皆同じことを考えていたんや。どうすれば平和的な解決が出来るかって事をや」
「それで出た結論じゃが。というかこれは最初から準備されていたみたいでな……。材質はよくわからん、チタンやらタングステンやらマグネシウムやらを合わせた合金製の箱にスイッチを入れて、マリアナ海溝に沈めてしまおうって計画じゃ」
「確かに、スイッチが誰にも手に入れられない状況になれば争いは回避できるな。海溝は台湾に近いし、計画としては妥当だけど……」
しかし肝心なパーツ、超硬金属を短期間に加工する技術がある国なんてそんなに多くはないはずだが。水圧に耐え、錆びず、内容物に衝撃が加わらない箱。そんなものを作れる国。ましてや近場でなんて……
「でも、そんな箱を用意できる国って」
「日本や」
「何故ですの? 皆さんの命を狙っておきながら……」
「日本政府ゆうてもな、全部が全部腐っていた訳やなかったんや。脱出する際も一部の政府関係者の手助けがあったんやで」
……表には出なくても、人道主義の政治家はまだいたって事か。
「しかし、壁に耳あり障子にメアリー言うてな」
「目あり。な」
「その計画もどこからか漏れていたんや」
「いくら親日国でも国民全員が協力しているわけじゃないだろうから、それは当然と言えば当然だろう」
「じゃからの、襲撃に備えて駆逐艦のまわりをフリゲートが囲み、ミサイル艇や哨戒艇等フル動員でマリアナ海溝に向けて出航したんじゃ」
何かスゲー
「でもそんなに目立つ動きでいいんスか?」
「うむ。じゃからそこにワシらはおらん。艦隊は囮での、そちらに注意を向けさせて、足の速い戦艦一隻で迂回して向かう事にしたんじゃ」
「なるほど、頭イイっスね!」
レオンが感心するのもわかるが。しかし……何とも豪勢な話だけど、ここまでの流れからすると……
「でも、それもバレていたとか?」
「ああ。バレバレじゃ」
「マジっスか!? ……なんかズルイっス!」
「いや、しかしそれは想定内なのじゃよ」
「むしろ情報がバレる様に動いたんや」
何でそんな事を……囮がいるんだから目立っちゃダメだろ。それでも目立つ意味ってなると……
「ああ、そうか。二重の囮……」
「どういう事ですの?」
「つまり、俺達がコッソリ動くように見せかけておきながら、わざと見つかる様にし、囮の艦隊に“スイッチ”を積んでいた。ってことだ」
「囮が実は囮じゃなかったって事っスか!」
「だな。しかし、なんだよその面倒な作戦は……」
「立案したのオマエやで、キョウジ」
……俺かよ。レオンがこっち見てサムズアップしている。まあ、作戦に感心してくれるのはありがたいが……。面倒なヤツだな、俺って。
「しかしそれでも見積もりが甘かったんや……。囮の艦隊も、ワイらが乗った船も、まとめて襲撃を受けてしまったんや」
次回! 第五章【Destiny of the Evil】 -悪の運命- ㉖1940
3人の回想シーンです。
是非ご覧ください!
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