㉖【1940】
「まさか“アメリカが中国やロシアと連携して攻撃してくる”とは思わなくてな。台湾軍はとんでもない物量の攻撃を受けたのじゃ。海上で合流する予定だったフィリピンやインドネシアの軍も他国に襲撃され、かなりの戦死者が出てしまったんじゃよ」
「……マジか。あいつ等、その気になれば協力出来るんじゃねぇかよ」
そうなると……当然台湾どころか協力国からも作戦を非難する声が上がったのだろう。そしてそれは、俺達を保護した政府への不信感から民衆の暴動へとつながる。
「結局ワイらのせいで、台湾政府は外からも中からも攻撃を受ける事になってしまったんや。それでも彼らは筋を通そうとしてくれたのやが……」
「でも俺らの性格だとさ、自ら国外退去したんじゃね?」
「マジっすか。匿ってくれるって言ってるのに」
「お兄さまは、その頃から厄介な性格でしたのね」
面倒な性格は自覚してるとは言え……パティの追い打ちが痛いわ。
「選択肢は二つ……いや三つってとこか。どこか違う国の保護下に入るか、独立するか……死ぬか」
「ゆうて、最初から答えは一つしかないやろ」
「だよな。またどこかの国に迷惑をかけるつもりはないし、当然死んでやる気もない」
「じゃからワシらは自己防衛のために、SNSを使ったんじゃ」
――ネットでの情報拡散。確かにそれなら全世界に一斉配信が出来るけど。しかし正当な主張をしても、最早信じてもらえる状況ではないだろう。となると多分、俺達がとった手段はおそらく……
「脅し……か?」
「ああ、そうじゃ。『俺達に手を出したらスイッチを押すぞ』という趣旨の動画を投稿してな」
「わかりやすいハッタリだな、それ」
「しかし効果はあったのじゃよ。三人のうち誰が持っているかわからないから、スイッチを手に入れようとしている連中は手を出せなくなったんじゃ」
三分の二の確率で世界が終わるとなると、それは手を出せなくなるよな。それでも手を出してくるヤツは、三割三分の賭けにでたか、もしくはミサイルでも打ち込んで俺達ごとスイッチを壊して諦めるかのどちらかという事になる。しかし前者後者いずれにしても、スイッチを手に入れたい国が止めに入るだろう。
「仕方がないとはいえ、全世界敵に回すとか……。アホすぎんだろ」
「ワイもそう思うで。企画立案したキョウジ君」
……それも俺かよ。
「それで、そのあとどうなった?」
「ここからが冴えない話なのじゃが……」
「もう十分冴えてねぇよ」
「ワイらが持っていたスイッチな、偽物だったんや」
「ちょっ、なんだよそれ……」
俺達、偽物を必死に守っていたって事なのか? たしかに冴えねぇわ。
「どこですり替えられたんだよ」
「最初から、“創造主”が偽物を渡してきたのじゃよ。まあ、偽物と言うよりも、そもそも起爆スイッチなんてものはなかったんじゃ」
横を見ると、パティもレオンも眠たそうな眼をしている。さすがにここまで複雑かつ面倒な話な上、ネットも戦艦もまったく知らない以上、お経でも聞かされている様なものだろう。
それにしても、最初からスイッチが無意味な物で、そんなものを仰々しく『地球が滅ぶスイッチだ』と渡してくる目的は一つしかない。
「“創造主”が言った『地球が存続できるかどうかのチャンス』ってのは、機械生命体に勝つ事ではなくて、スイッチを手に入れた地球人がどういう選択をするか? って事だったのか」
――“創造主”は最初からずっと観ていたんだ。
「結局全部、奴らの匙加減ひとつで、それまでの俺らの苦労って意味がねえじゃん」
「そうじゃな。結果から見れば全てが意味がない物に思えるじゃろう」
「なんだよその哲学みたいな言い回しは」
……そして地球に遅効性の毒が充満し、人々は長い間苦しみながら朽ちていく事になる。
「でもそれって、俺らが六十億なんて罰受ける必要ないよな?」
「それがまた面倒な話でな……。魂には“殺された者の恨み”みたいなものが蓄積されるって事らしいのじゃ。つまり冤罪だったとしても、殺された者が恨みを抱いていれば罪としてカウントするのじゃよ」
「え~と、つまり……。山南が誰かを殺したとして、その殺された人がカドミに殺されたと思い込んでいたら、罰はカドミに行くって事?」
「そういう事じゃ。例えば戦争では、名の通っている指揮官や国主に恨みがたまるって事じゃな」
酷え話だな。つか、システム的にガバガバじゃねぇか。相手の顔が判らないとか、狙撃やミサイルで死んだ時は“わかりやすい相手”が戦犯として恨みがたまる。
「って事は……」
「そうや。“創造主”はワイらにだけスイッチが偽物だという事実を伝えて来たんや。つまり、実際地球を滅ぼした犯人が奴らだとしても……」
「SNSに『俺達に手を出したらスイッチを押す』とアップしたワシらが戦犯として認識されたのじゃよ」
……以前セイラが病室で言っていた『魂に刻まれた罪』ってのはそういう意味だったのか。
「でもその事実を拡散すれば……。全人類は無理でも半分くらいは信じてくれるんじゃね?」
「その時点でな、ワシらの全てのSNSアカウントが凍結されていて、弁明どころか危険を知らせる事も出来なかったのじゃよ」
『スイッチを押す』発言でテロリストみたいな扱いにでもなっていたのだろう。俺らって……いや、俺が、か。悪手を打ちまくっていたんだな。理不尽過ぎて怒りが収まらないわ。
「人はどんなことにも理由を求める。悲惨な現実であればあるほど、じゃ。その理由は真実である必要はない。解りやすく納得できるものであれば真実か否かはどうでも良い。そういった意味で我らはわかりやすい存在であったし、その矛先が向くのも想像に容易い。その矛先が怨みとして我らに向き、我らの魂に"罪" を刻んだ、というわけじゃよ」
「そしてワイら三人は、二〇五〇年の地球から、約百十年前のこの世界に転生させられたんや」
「でも何で百十年前なんだ? ハンパな数字だな」
「その頃、地球で何があったかわかるか? 社会科苦手なキョウジ君!」
一九四〇年頃って事か。その頃は……
「あ……第二次世界大戦?」
「そう。“創造主”は少女の言葉を愚直に実行するために、人殺しが大量に発生する時代をスタート地点にしたのじゃ。ワシ達をこの世界に転生させ、それを皮切りに次々と世界中から転生させ始めたんだ」
「ひでぇ話だな……」
確かに“人殺し”という括りでみれば、戦争はそれに該当するだろう。しかし全ての人が好んで参戦したのではなく、国の為・家族の為・愛する人の為、様々な理由で戦地に身を投じたのだ。もちろん“それ”自体を賛美するつもりはない。だが、全部一括りにしてよいものでもないハズだ。
「だがなキョウジ、お前はこの話を知っていたんだ。もちろんタクマもな」
「うむ、ワイは覚えとるで」
「タクマ? ……どういう意味だ?」
「そうやな。今から数えて八十年前や。あの時、この趣味の悪い殺戮世界と業を断ち切るため、ワイらはこの世界から地球へ逆転移を試みたんや」
次回! 第五章【Destiny of the Evil】 -悪の運命- ㉗円環
三人の回想シーンです。
是非ご覧ください!
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