⑦【凶女と強女-その2】

「あなた、昨日わたくしの肩に触れましたわね?」


 汚いものを見るような目で、赤を見据えながらパティが言う。


「まあまあ、そう言わずに~。付き合ってよ~。俺みたいなアイドルと付き合えるなんて幸せだよ~?」


 スケベ心丸出しの赤。味方がやられてもまったく気にしていない様子だ。……ある意味、自分に素直という事なのだろう。


「ねえ、いいでしょう? 俺、言う事聞いてくれないと何するか解らないよ~?」


 左手に持った剣をヒラヒラさせて、ニヤニヤしながらイライラする話し方をする。赤を見ていると、何故コイツがモテるのかまったくわからん。


「わたくし、あなたごときと退屈な会話をする為にここにいるのではございませんの。時間の無駄ですのでさっさと埋めて差し上げますわ。生ごみは土に埋めるのが一番ですの。あ、でも下種を埋めても栄養にはなりませんわね!」


「このっ……」

 パティにつかみかかろうとする赤。その腕を交わしたかと思うと次の瞬間、赤の体は宙に浮いていた!


 ――赤の伸ばした右腕をかわしながら、その手首をつかむと同時に斜め下に引く。そしてパトリシア自身が梃子の支点になる事で、前のめりになっている赤の力方向を上に変える。つかんだ手首は離さない。それによって、手首を中心とした円運動で全身を地面に叩きつける。背負い投げのお手本みたいな動きだ。

 

「お~、これは見事な一本背負い!」

 柔道の試合は畳の上で行うが、それでも有段者の背負い投げを食らうと、一瞬呼吸が出来なくなる程の衝撃がある。


 ――しかし、パトリシアの背負い投げは 更に 一味違った。


 容赦なく地面に叩きつけられ、嗚咽を漏らす赤。直後、パティは土の魔法“落とし穴ランド・フォール”を使い、目の前にタタミ一畳分程の穴をあけた。

 ……落ちてゆく赤。「ぶおっ」とか「ぐはっ」とか、そんな感じの声が辺りに響いたが、その時にはもう赤は土の中に“埋められていた”


「そのような汚らわしい手でこのわたくしに触れるなど、三億年早いですわ!」

 と言いながらパティは髪をかき上げる。その涼し気な仕草は、凛とした表情と相まって観る者を魅了していた。


 精霊魔法の方もかなりの練度だった。瞬時に穴をあけて瞬時に戻す。これはロードランナーも平安京エイリアンも真っ青だ。そのままだと赤は窒息するのでは? とは思ったが、まあ、空気穴くらいあけてあるだろう。


「あ~、キョウちゃん、それ倒しちゃっていいよ」

「あ、はい……」


 とりあえず、振り上げてた我がゴーレムの右手を振り下ろす。相手はすでに戦意喪失していた。無抵抗のまま倒れるギャラクシーエンペラーレクイエム。


『勝利チーム! ディバイン・ベール!』


 一斉に歓声が沸きあがった。最初は冷めた目で見ていた観客もこの戦いを通してチームに“興味を持ってしまった”みたいだ。……主にセイラとパティに対してだが。



 おいおい、目立っちゃだめだろ……




次回! 第三章【Existence Vessel】-魂の器- ⑧OLD BAR

俺の周りには何でこういうのが集まるの?(キョウジ談) 是非ご覧ください!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る