⑧【OLD BAR】
一回戦の後、セイラとパティの周りには人垣ができるようになっていた。
そもそもがモデルの様なルックスだ。普段でも“黙っていれば”相当人気は出るだろう。しかし、今回はファン層が違った。
セイラの周りは女性だらけだ。どうやら男勝りの性格が宝塚の男役みたいな人気になっているのかもしれない。『セイラ様~Σ(゚∀゚ノ)ノキャー』ってな具合だ。これはこれで困っているセイラを見ているのが楽しいので放置!
こちらは“清楚なお嬢様が肉弾戦をやった!”というギャップ萌えからなのだろうか、パティの周りには男どもが群がっていた。ただ、常に沖田さんが睨みを効かせている。これは半径三メートル以内に近づく事は難しいだろう。
少しでもその境界線を超えた者はことごとく、彼が放つ気合に吹き飛ばされていた。
……そう、心底不本意ながらもチーム:ディバイン・ベールは、注目株になってしまっていた。
そのせいで俺の周りにも……眼鏡・あぶらギッシュ・紙袋・ネルシャツに黒いリュックと、およそオタクに対する偏見の塊を具現化した様な人達が集まってきていた。マジで男ばかり。一人くらい女性ファンいたっていいじゃないか。
つか、なんか俺の周りだけ蒸し暑い気がしない事もない……
「サベッジ・ペガサスかっけーっす!」
「プラモデル化の予定はあるんすか?」
「パティは俺の嫁!」
「セイラ姐さんのフィギアは?」
「サベッジ・ペガサスの武装って他に何があるんですか?」
「パティは俺の嫁!」
こんなのばかりが……ってオイ誰だ、嫁言ったやつは!?
肝心の調査はというと、まったく進展していない。この状況では“進められない”という方が正しいけど。
イギリス政府が盗難防止の為に”魔力をそこそこ遮断する箱”を作っていたのだが、ご丁寧にその箱も一緒に盗まれた為、ほぼほぼ魔力による感知が出来ない状態だ。
更には、カレルトーナメント開催でこの街はいま人口密度が高いから、探すのに滅茶苦茶骨が折れる。もっとも、そういう場所に紛れる為に犯人はここに来たのだろうけど。
だが、もしそれ以外に目的があるとしたら……
「キョウちゃん、タクマそこにいる?」
「ああ、なんか寝ているけど」
「タっ君、おきて~タっ君!」
また変な呼び名を付けたな……
「ん…なんや?」
「タっ君ファンの可愛い女の子がいっぱいいるよー」
「なに? マジか!? どこや? そこか? ここか! おお、ぎょうさんおるやないか!」
――なんと! 今までになく覚醒時間が早い。この手があったのか。今度使わせてもらおう。
「どれや、どの子や? ワイに抱かれたいのはどの娘なんや~~~~! 今夜は離さへんで~~~! 朝までコースや! サタデーナイトフィーバーや!! Stayin' Aliveやー!!!」
……静寂が包むとはこのことだろうか。辺り一面、水を打ったように静かになる。
「キャーーーーーーーー! あの人変態!!」
「助けてー!」
「声がきもちわるいーーーーー!」
阿鼻叫喚とともに逃げ惑うセイラのファン。あれ? というかこの状況は……
「変態って俺の事か!」
「声が気持ち悪いとはなんや!」
…………かんべんしてくれ。
「あ~、やっと静かになったよ。タっ君、さんきゅ! なにより、困っているキョウちゃん観るのは楽しいわ~!」
「……楽しんでいただけてなによりでございますですことよ!」
確かに人はいなくなったけど、同時に俺の尊厳もなくなったよ。
「ところでセイラ……昨日、とどめ刺そうとした時止めたのは何があったんだ?」
「あ~、あれね。何もないよ。」
「はい?」
「だってあそこでゴーレム倒しちゃったらその時点で勝ちじゃない」
それが大会ルールだろう? さっさと終わらせれば目立たなくて済んだのにさ……
「そしたら、あのチャラ男どもをすりつぶせないでしょ!」
「その為に止めた……と?」
「当然! 他に理由なんてある訳ないじゃん」
そうだ、こういう女だった……“手段”の為に“目的”を選ばない人類代表の様な性格だったのを忘れていた。またもや膝から崩れ落ちる俺……
「お兄さま、お姉さま、次の相手が決まりましたわ! って、どうなさいましたの?」
「気にしないでいいと思うよ。思春期なんでしょ、きっと」
「……んなわけあるか」
「ところで、どんな相手なの?」
「それが、かなりやりにくい相手でござる」
チーム:OLD BAR
メンバー全員がとうに還暦を超え、古稀を迎えようという、いわば老兵チームだ。年寄りいじめになってしまうのは避けたいし、だからと言って負けるのも“調査の観点で見ると”リスクが高すぎる。ちなみに年寄りだけど筋骨隆々で~と言った事もなく、蹴飛ばしたら倒れそうなくらいヒョロヒョロだ。……あれでよく一回戦を勝てたな。
一応試合見ていたけど、何がどうなって勝ちにつながったのかよくわからんかった。相手チームも相当やりづらかったと見え、手を抜きすぎたとかそんな感じか。その時の編成は、召喚士一名、重鎧二名、術士三名の六人編成だった。近接アタッカーを入れていないのは作戦上の事だろうけど、むしろこちらとしてはありがたい。
セイラは『年寄りだからって甘くみると怪我するよ』と言っていたが、それでも還暦と殴り合うのは流石に気が引ける。歩兵には直接攻撃を当てない様にして、ゴーレムだけを一気に破壊する作戦でいくのが無難だろう。下手に怪我させたりしたら、そのまま寝たきりになったりするかもだし、そうなったらこちらも目覚めが悪い。まあ、とにかく……
「年寄りは労わるもんだろ?」
「ですがお兄さま、負けたら元も子もありませんわ」
「だけどさ、周りの目もあるじゃん。全力で潰しに行ったりなんてしたら、どこで何を言われるかわからんぞ?」
「ならキョウちゃんはどうするつもり?」
どうするも何も、今度こそ目立たずに勝つんだよ。
「初手から全開でゴーレム秒殺。歩兵はとにかく足止めで」
「それだと重鎧兵二人をオッキーにまかせて、私とパティで後ろの三人を押さえるって感じね」
「うん、それで頼む」
……そうだ、悲しいお知らせが一つ。先ほど大会運営委員会から言われました。
『一度登録した“チーム名及びゴーレム名”の変更はできません』
「かんべんしてくれ……」
次回! 第三章【Existence Vessel】-魂の器- ⑨shout to SUN
是非ご覧ください!
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