⑥【凶女と強女-その1】



「パティ、やるわよ!」

「仕方ありませんわね。総司、交代ですわ」

「まてパティ、危ないって」

「キョウジ殿、大丈夫でござる。 お嬢はしっかりと強いでござるよ」

「オッキー、キョウちゃんをなだめといて!」

「御意!」


 オッキーって、沖田さんの事か……返事してるし。いや、そんな事よりもパティ大丈夫なんか? 相手は武器持ってるのに素手って……お父ちゃんめちゃくちゃ心配だぞ。セイラのやつも何を考えてんだよ、まったく。


「パティ、赤はあげる」

「わかっておりますわ。あの赤いのは私も許しませんの」

「なになに? 昨日のお嬢ちゃんが俺達と闘ってくれるの? ラッキー」


 赤はすでに勝ったつもりなのだろう。完全に甘く見ている。


「俺が勝ったらデートしてくれるのかな?」

 何言ってんだコイツは。するわけな……


「あら、よろしいですわ」

 ってパティ、何をいうんだ~~~~~~~!


「勝てるのなら。ですけど」



 セイラは正面にとらえている橙・空を見据える。それにしても……あいつら怖いもの知らずだな。


「なんだよ、こっちは年増かよ~」

「俺もピンクの娘がいい~」


「短い……人生だったわねぇ……」

 その、口から洩れた一言とともに、セイラの手からナイフが乱れ飛ぶ! 放たれたナイフはそれぞれが好き勝手に飛び、橙・空それぞれの足を切り裂いた。まずは動きを封じてからジワジワと追い詰めるつもりだろう。 


 ……というか、俺はいつまでこうしていれば?


 ナイフは橙・空二人の周りで弧を描き、その輪が段々と縮まっていく。


「ほらほら、しっかりくっ付かないと刺さるぞ~」

「てめ、この年増。こんなことしてタダで済むと……」

 

 お決まりのセリフが終わるよりも速く、ナイフは空の衣服を全て切り裂いていた。身に着けているのは靴のみ。


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「あら、いいわね。ファンが喜んでいるじゃない。それじゃ、もう一つオレンジの皮むきしましょうか!」


 流石にここまでやると少しだけ同情するわ……ここからじゃ“見えない”けど、セイラの生き生きとした表情が“よく見える”。それにしても身体には傷一つつけずに衣服だけを切り裂くとか、流石、精霊を宿したナイフだけの事はあるな。



「しっかし、なんやな~。あいつら、よくこんな程度でトーナメントなんて出てきたな」

「記念参加でござりますかな。まったくもって、小昼こびるの足しにもなり申さぬ」


 小昼、か。日本の東北~中部辺りで使われる表現だと記憶しているが……ござるの人はその辺りの出身なのかもしれないな。なんて考えていたら、ひときわ大きな黄色い声援が!


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 橙・空が素っ裸で抱き合っている。物凄い速さで回るセイラのナイフの輪が、ギリギリの大きさになっている為だ。



「おい、当たってる。はなれろ」

「お前こそはなれろよ。大してでかくもないくせに!」


 裸で抱き合いながら下ネタ喧嘩するアイドル。


「なあ、キョウジ。こういうのを『尊い』言うんか?」

 ……知るか。


 腕組みしながら指の間に挟んだナイフをもてあそび、わざと横目でにらみつけるセイラ。

「アンタ達、ちょっと聞きたいんだけどさ」

 橙・空は戦々恐々としてセイラを見る。戦意はすでに喪失しているようだ。だからと言って許す性格ではない事を、あいつらもたった今理解しただろう。


「年増っていったい誰の事なのかな?」

「あ…いや、それは……あ、あの……」


 とりあえずその場を取り繕おうと必死の橙・空。目の前を、体の周りを、縦横無尽に飛びまわるナイフ。

 ――刺されそうで刺されない。

 ――斬られそうで斬られない。 


 次の一瞬、ナイフの動きが静止した。


 一呼吸おいて、一斉にナイフが襲い掛かる! 耳を、肩を、股間を、ナイフがかすめていく。そして、あと数センチで目に刺さるという所でナイフが止まる。

 ……余りの恐怖に失禁し、気絶してしまう二人。


「情けないなあ。でも、これで許されると思わないことね」


 言うが早いか、セイラのナイフは彼ら二人の髪の毛を刈り取っていた。……裸で抱き合って下ネタ喧嘩しながら失禁気絶する丸坊主アイドル。


「こういうのを『尊い』というのでござるか?」

 

 ……知らん。 知らんが違うと思う。




次回! 第三章【Existence Vessel】-魂の器- ⑦凶女と強女-その2

俺の周りには何でこういうのが集まるの?(キョウジ談) 是非ご覧ください!



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