⑤【荒ぶる……】

 フィールドに両チームが入り、カウントが開始された。カウントは五分前、つまり三百秒から始まる。


 それまでの間にゴーレムの召喚を終えておく必要があり、どんな理由であろうと開始時にゴーレムが不在だとその時点で負けになってしまう。また、他のパーティーメンバー は相手の装備や編成を見て、作戦を考える時間に使う場合が多い。 



 ――二分前。

 観客席の盛り上がりは最高潮を見せる。そして、それをさらに煽ろうと、MCが両チームを紹介する。魔力拡声器……言わば大型スピーカーから爆音が響く!



〔黄色い声援が青空に響く! イケメンだらけだチーム、ギャラクシィ~~~~……プリ~~~ンス!!〕


 Σ(゚∀゚ノ)ノキャーΣ(゚∀゚ノ)ノキャーΣ(゚∀゚ノ)ノキャー

 Σ(゚∀゚ノ)ノキャーΣ(゚∀゚ノ)ノキャーΣ(゚∀゚ノ)ノキャー

 黄色い歓声が響き渡る!


〔そして操るは、ギャラクシーエンペラーレクイエム!!!!〕


 Σ(゚∀゚ノ)ノキャーΣ(゚∀゚ノ)ノキャーΣ(゚∀゚ノ)ノキャー

 Σ(゚∀゚ノ)ノキャーΣ(゚∀゚ノ)ノキャーΣ(゚∀゚ノ)ノキャー

 黄色い歓声が(以下略



「うわ……なんかもう、見てるこっちの方が恥ずかしくなるわ」

「キョウジ、観客席見てみい。失神してる女がおるで~」

「マジか~。これ、勝ったら夜道で刺されそうだな」


「お兄さま、あの人達ですわ、昨日のアレは」

 約束通り、俺のすぐ後ろに控えているパティが呆れ口調で言う。

 

 ……やはりそういう事なのか。多分セイラはナンパしてきた奴らがトーナメント参加者だとわかっていて逃がした。そして大衆の面前で完膚なきまで叩き潰して恥をかかせようって魂胆だろう。

「それにして一回戦で当たるとか、クジ運強え~な」

「むしろ呪いに近いと思うで~」



〔そして対するは、あ~……チーム、ディ……ディバ、インンベール!!〕


 パチパチパチ……


 え~~、なんすかこの差。つか噛みすぎだろアイツ。


〔そして操るは……サベッジ・ペガサス!〕


 おい……なんだよそれ。訳すと「荒ぶる翔馬」ってか? セイラ、マジでネーミングセンスねぇな。いや、それよりも……


「待て、ちょっと待て、名前変えさせろ。やり直しを要求する~~~~~!」

「お兄様、始まりますわよ!」

「く……あとで絶対名前変更してやる!」


 そして、MCのカウントダウンが始まった。一秒ごとに緊張感が増していく……


〔3〕

 魔法陣から赤い炎が立ち上り


〔2〕

 渦巻き、高く上がる


〔1〕

 そして俺をまたぐようにして、魔法陣の上に七メートル強のゴーレムの影が形成されていく


「魔装!!!」

 


〔――BATTLE START!!!〕


 召喚と同時に双方のゴーレムは前に踏み出し、中央でぶつかり合う。組合い、お互いの動きを止め、牽制する。 


 足元ではセイラたち歩兵が、それぞれ相手の召喚士を狙ってつばぜり合いを始めた。こちらは数で劣っているが、こういう場面ではセイラの精霊ナイフが最大限の力を発揮する。もちろん相手がガチガチの金属鎧集団だったとしたらかなり不利ではあるが、関節部分がむき出しの装備ならいくらでもやり様がある。

 ……ましてや今の相手はアイドル衣装みたいな揃いの服を着ているだけだ。ただし、死に至らしめるようなダメージは即失格となる為、細心の注意を払う必要があった。


 ここで相手のゴーレム、ギャラクシーエンペラーレクイエムが右足を引く。同時に右手を後ろに回し、腰につけている剣を抜いた! 



「いけ! ギャラクシーエンペラーレクイエム!!!」


 紫の術者のかけ声に合わせて剣を振るう紺色のゴーレム。しかしながら、彼らの見た目と同様、腰の据わっていない攻撃だった。


「マジかアイツ。よくもまあ、あんな恥ずかしい名前を叫べるもんやな」


 いや、サベッジ・ペガサスも相当恥ずかしいが。……俺的には。転生前も今も格闘技経験などないが、それでも多少はピンチを潜り抜けてきた。それらの経験からか相手の振り下ろす剣に対して何ひとつ脅威を感じなかった。あっさりとかわす、赤と真珠色の我がゴーレム。


「キョウちゃん、左に警戒して!」


 左に少しだけ視線を流す。青と金の二人が回り込んできていた。このくらいならセイラのナイフで~って……あれ、こいつらには攻撃してないのか?


「セイラ殿、拙者がふぉろ~いたしまする!」


 頼むぞ、沖田さん! 実はこの人、とんでもない剣士だった。刀や木刀だと『当たりどころ次第で死に至らしめてしまうかもしれないでござる』と“竹刀”に持ち替えて参戦しているのだが、何しろ踏み込みが尋常ではない速さと力強さ。 


 エントリー時に魔力量等を簡単に確認させてもらったが、正直、使えるものではなかった。あまりに微弱すぎる。多分、リンゴひとつ浮かす事も難しいだろう。 

 しかし、彼はそんな微弱な魔力を最大限に、それでいて多分無意識に活用している。踏み込み時、足の親指にほんの一点、ほんの一瞬だけ魔力が発生。地面とのグリップを強め、前方に重心を移す為の補助をする。 

 元々の身体能力が高い上、膝や腰、各関節、つま先、剣先に至るまで微量な魔力が体の動きに合わせて同時にサポートしている為、その効果は十倍にも二十倍にもなっているだろう。これは見事。むしろ恐ろしくもある。やはり剣士として一流の域にいる人だ。

 

 なんて考えている間に、回り込んだ青・金それぞれのみぞおちを突き、泡を吹かせて倒している。お侍、すばらしい! VIVA! Japanese SAMURAI!!


「お兄様、集中してくださいませ!」

 ……パティの声で意識が引き戻された。VIVA!とか言っている場合じゃなかったわ。


 体勢を立て直し、もう一度剣を振ろうとするギャラクシーエンペラーレクイエム。その振りに合わせ、がら空きになっている左側に渾身のボディブローを叩きこむ。相手の態勢が崩れた……その隙を見逃さずに、左手で相手の頭を抑え込む!

 

 そして! 我がゴーレムの右手の炎が強く燃え上がり、劫火を纏う! 魔力を集中させている証だ。

「これで、終わりだ!」


 相手の急所を寸分たがわず狙って、最後の一撃を繰り出そうとしたその時……



「――キョウちゃん、STOP!!!」


 領主の館でバズーカ砲を撃ち込まれた時と同じ、緊迫したセイラの声だった。あわてて右腕の動きを止める。左手は頭を抑えたままだ。


「動かないで! そのまま、押さえておいて!」


 何があったのだろう? 俺から見えていない何かがあるのか? とりあえず状況が見えない以上従っておこう。敵はあと四人。一人はゴーレムと一緒に抑え込んでいるから実質三人だ。ござるさんも警戒を強めている。 

 

 パティは……軽くジャンプしてウォーミングアップをしていた。


 ……あれ? なんだこの状況。



「お姉さま、悪いクセですわよ」




次回! 第三章【Existence Vessel】-魂の器- ⑥凶女と強女-その1

怒りのセイラ、魔法炸裂!! 是非ご覧ください!







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