④【Divine Veil】


 パティに追い打ちをかけられてから三日後、テンションだだ下がりままトーナメント当日を迎えた。 


「やる気でねぇ……」

 

 ダラダラと競技場まで歩く。エントリーシートはセイラが残りを記入して提出している。まあ、名前とか考えるのは面倒だから丸投げ出来ただけ良しとしよう。それにしても四人で戦うのは結構きついよな……。

 ちなみにエントリーシートは試合ごとに再提出が可能だ。怪我とかでメンバーの入れ替えがあったり等、何か変更があったら、試合当日朝までに提出すれば受理される。


 セイラの仕事手伝いという事でトーナメントに出るのだが、その目的はちょっと胡散臭い事件の調査だった。


『イギリスの冒険者が魔道具アーティファクトを発見し、国からローカルズの王室に報告。輸送隊が来るまで一旦イギリス預かりになるが、そこでアッサリ盗まれてしまう。情報ルートは不明だが、どうやらこの街に持ち込まれたらしい。つまりこれは、犯人の目的を探る為の潜入任務である』


「でもこれって、イギリス政府の尻ぬぐいって事だよな」

「それとトーナメント出場に何の関係があるんや?」

「転生者同士は、相手が魔力を持っているかどうかでローカルズか転生者か判断できるだろ?」

「うむ」

「もし犯人が転生者だったら。と仮定した場合、選手としてトーナメントに出ていた方が、その場にいる事が自然に見える訳だ」


 犯人としても、当然追手がかかっている事はわかっているだろう。その為魔力を持った人間がいたらそれだけで警戒してしまう。ちょっとしたしぐさですら犯人には不自然に映るかもしれない。出場選手は基本的に全員魔力持ちなので、疑いの目も向きにくいだろうという考察から出た答えだ。


「まあ、確かに濃い連中やからな。観客席にいたら目立ってまうな」

 ……意味は違うがそれはそれで大当たりだ。もちろんタクマおまえも含めてだけどな。


「疑いの目を向けられるリスクを軽減しつつ調査を進める為に、出来るだけ勝ち進む必要があるって事だ」





「キョウ、遅い!!」

 会場に着くなりセイラからクレームが飛んでくる。


「まだ集合時間になってねぇぞ」

「女性を待たせている時点で遅刻!!」

「ちょ、理不尽だろ~」


 勘弁してくれ……というか、何か不機嫌だな。俺の名前呼び捨てだったし。


「お兄様、師匠、今日はよろしくお願いしますわ!」

「ああ、よろ……師匠?」

「おう! 頼むで、弟子一号」

 ……って、タクマお前いったい何をした!?


「よろしくお願い申す。お師匠殿!」

「期待しとるで、二号!」

「沖田さんまで……何このカオスな状況は」


 ……しかし、今最も危惧すべきはタクマの師弟関係ではない。


(パティ、セイラどうしたんだ?)

(実は昨日の事ですの――)

 

 パティが語る事の起こり。なんともアホらしいとしか言いようがない内容だった。昨日天気が良かったのでセイラとパティでお茶をしていたら、四人組の男がナンパをしてきた。セイラが軽くあしらったら『あんたみたいな年増に用はない』『ひっこんでろ。そちらのお嬢さんに話しているから邪魔するな』と言われて……

 

 その後は大体想像がつくのだが、どうやら逃げられたらしい。


(それにしてもよくセイラから逃げられたな)

(そうなんですの。まったく追いかけようともしなくて)


 何か企んでいるな~。とりあえずこの件には触れないでおこう。……というか、こんな少女をナンパしようとか許せん奴らだ。 

 ちなみに「少女に見えて実は百歳なんです~」とかの漫画ロリババア的な展開もありうるので、一応年齢は聞いておいた。間違いなく、正真正銘の十五歳だそうだ。セイラには「女性に年聞くな」と怒られたが。


 観客席入口から会場内を覗いてみると、すでに満席で熱気が凄い。これだけの人が、昨日までこの街のどこにいたのか? って位だ。しかし、よくよく考えてみればテレビもラジオもない世界だ、男女問わずこういった娯楽に飛びつく人が多いのも頷ける。

 

 フィールドはサッカー場位の広さで、観客席との間には多分何らかの結界が張られている……はず。そうでなかったら危なくて観ていられないだろう。


 俺達が会場に入ると丁度トーナメント表が張り出された。



 チーム:Divine Veil

ディバイン・ベール。神秘の衣とでも訳しておこう。これが俺たちのチーム名なのか。セイラ、意外とネーミングセンスいいじゃないか。いきなり、一回戦の第一試合に名前があった。



 対戦相手はチーム:ギャラクシープリンス

チームメンバーが出てきた直後から黄色い声援が飛びまくる、アイドル系のイケメン六人組だった。髪色もそれぞれ違い、赤・橙・青・空・紫・金とやたらと派手だ。声援をもらう事に馴れているのだろう。余裕をかまして観客席に手を振っている。 



「なんか、チャラ男ばかりだな」

「黄色と緑がおらんのは、カレー好きとか立ち位置が微妙とか思われるのが嫌なんやろな」

 タクマもそう思うか~。勝負とかどうでもよかったが、あれに負けるのは何か気分悪い。いや、モテているからとかじゃなくてな……


「キョウちゃん……」

「はい……」

 なんかドス黒いオーラが見えます……




「あれ、つぶすよ」




次回! 第三章【Existence Vessel】-魂の器- ⑤荒ぶる……

マジか!? マジなのか!?  是非ご覧ください!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る