③【キラッキラの!】

 それにしてもこの“ござるの人”はかなり腕が立つ。素人の俺でも殺気みたいなものを肌で感じてしまっている。転生前は剣術の先生か何かだろうか? なんにしても強力な助っ人はありがたい。 


 無策だと思わせておきながらしっかり手配しているところはセイラらしいと言えばらしい……というか、らしくなくていいから最初から言ってくれ。

 なんて考えながらセイラをみたらニコッと笑いかけてきた。……これは見透かされているな。


「とりあえずこれで三人ね」

 ござるの人、セイラ、そしてやはり俺も頭数に入れられている。


「勘弁してくれ……」

「何をおっしゃいますの? お兄さま。最初から弱気でどうするのですか!」

 弱気になっている訳ではないのだが、それにしても未成年に発破かけられるとか情けねぇ……


「そうよ。それでも男ですか、軟弱者!!」

 いや、だから、おまえがそのセリフ言ったらヤバイって。


「お姉さまもですわ。三人とは何ですか、三人とは。わたくしも出ましてよ?」

「ちょっとまて、パトリシアはダメだ。危ないって。女の子が出るもんじゃないって!」

「あら、お兄さま、パティと呼んで下さらないのですか?」

「そういう問題じゃなくてだな、いいか、パトリ……パティ。こんな野蛮な競技に女の子が出るもんじゃない。怪我したらどうする。人生終わるぞ? 人間おわるぞ?」


「……あらキョウちゃん。私なら良いという事なのか・し・ら?」

 

 ヤバイ、セイラの発する負のオーラを背中に感じる。この寒気は流れる冷や汗のせいなのか? それとも……


(キョウジ、ここは大人しく従った方がええで~)

(タクマ、お前までなにを……)

(すりつぶされるで~)


「……パティ、ひとつ約束してくれ」

「なんですの?」

「絶対に前に出るな、絶対だ。後衛に徹しろ。いいな? 約束できなければ許可しない。すりつぶされてもだ!」


「判りましたわ。お兄さまがそうおっしゃるのなら従いますわよ」

 素直な良い子だ。この子は絶対に危険にさらしてはいけない。後方での支援に徹してもらおう。


「ところで、何がすりつぶされますの?」 

 ……そこには触れないでくれ。仕方なく四人の名前をエントリーシートに書き始めるが、ここでまた“タクマのいらない話”が始まっていた。


(ええか、『押すなよ?押すなよ?』ってのはな『空気読んで押せ』って意味やで)

(それなら日本の本で読んだことありますわ。なんでも熱湯が欠かせないとか)

(その年でよう知っとるな、これは将来有望やで~)

(わたくしもお二人に近づけますでしょうか?)

(行けるで~。よし、コンビ結成や! コンビ名は……)


「何をこそこそ話しているかと思えば……セイラ、やっぱりタクマの口に瞬接詰めといてくれ」

 またもや無造作にセイラに投げ渡す。


「ところで執事さんの名前は?」

「拙者、沖田総司と申す」

「…………」


 この人もネタに走る奴だったか……俺の反応見て笑っているのかと思ったのだが、目つきがめちゃくちゃ真剣だった。詳しく聞くと、転生した時に唯一覚えていた名前だとか。よほど新選組が好きだったとか、そんな感じだろう。 

 それに、歴史上の人物像ってのは結構事細かに伝えられているから、目の前のガッシリした体型の人間が 病弱細身の沖田総司 本人という事はない。そもそも同じ時間軸で転生するのだから、仮に本物の沖田総司なら一五〇年前に転生しているはずだ。   

 

「では、沖田総司さん。と、セイラの名字ファミリーネームは?」


 ――間髪いれずに、続けて言う

「マスとか言ったら蹴飛ばすぞ!」

 よし、久々に先手を取った。コイツが絶対に言うであろう答えを封じた!


「ムーンでよろしく~」


 これは予想外の返答。ネタに走ると思ったのに……本名なのかな? セイラ・ムーン……あれ? セイラ・ムーンって……


「おいセイラ……」

「あら、どうしたの?」

「お前、殴るぞ」

「あら、キョウちゃん。か弱い女性を殴るだなんて……」


 ……おい、誰がか弱いだって!?


「月の代理でお仕置きよ!」

「だからそういうセリフは……」

「はいはい、わかったらちゃっちゃと書いて」


「……なんだろう、この敗北感は」

 セイラ・ムーン……涙目で書き込む俺。


「パティは?」

「わたくしは、パトリシア・ハーストですわ」

「パティは転生二世なのか?」

「ええ、母様が転生者ですの」


 流石に八〇年も前から途切れることなく転生者が現れていれば、二世や三世がいて当たり前の話だ。 こうやって、文化も技術も歴史も人もひとつの世界を作っていくのだ。 


「なんかこう、感慨深いよなぁ」

「ゆうて、ワイらまだ半年しか経ってないで~」


「……」


「で、あとは俺の名前……と」

 自分の名前まで書き、エントリーシートをバックパックにしまおうとしたその瞬間……


「ちょっと待ってキョウちゃん」

 セイラの目が鋭く光った……様に見えた。


「それ、見せて!」

「提出までちゃんと管理しておくから~」

 という間もなく、エントリーシートはセイラの手元に収まっていた。素早い……というか俺の手からシートが勝手にフワッと浮いて……


「こんな事に精霊使うなよ!」

「キョウちゃんって……名前じゃなかったんだねぇ」


 そう、キョウジは“京地”と書く。俺のだ。こちらの世界では特に今迄姓名が必要にならなかったので気にせずにいたのだが。


「それにしてもさ……」

 セイラの口元が緩むのが見えた。


「ちょ、やめ……」

「キョウちゃんの名前って、京地 翔馬って言うんだね~」

「やめてくれ……」

「なんで? いい名前じゃない」

 

 ……セイラが誤解している


「そうですわ! 翔ける馬でショウマなんてカッコいいじゃありませんか」

 

 ……パティも更に誤解している


「うむ、勢いのある素晴らしい名前でござる」


 ……沖田さん迄



「三人とも、それ読み方ちゃうで~」

 セイラに投げ渡していたタクマがここぞとばかり口を開く!


「ちょ、やめ……」

「それな、ショウマと読まんのや」

「おい、タクマやめろ!」

「キラキラネーム言うやっちゃ」

「やめてくれ~~~」

「キョウジのとこは、翔馬かいて読むんや」


 ああ、俺の、俺の…… 

「封印したはずの黒歴史が……」

 膝から崩れ落ちる俺。というか、なんで俺は馬鹿正直に書いたのだろう……適当な名前書いておけば……いや、それでもタクマはバラしただろうな。 


 ……なんだ、最初から積んでるじゃねえか。



「そや、知っとるか? 黒歴史ってガン〇ム用語なんやで~」

「流石にこれは…ちょっと悪かったわね……プッ……」

「これは奇怪な。キョウジ殿が白くなっているでござる」


「あ……判りましたわ!!」




「これが『押すなよ!押すなよ!』という空気なのですね!!」







次回! 第三章【Existence Vessel】-魂の器- ④Divine Veil

いよいよ第一回戦開始! 是非ご覧ください!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る