②【時間軸】
五日前、地鶏の美味い村を出てアメリカ領に向かっている時の事だ。
「おい、セイラ」
「なぁに? キョウちゃん」
「なんでオマエがここにいるんだよ?」
「なんででしょ~?」
「それを聞いているんだって。待ち伏せでもしてたのか? そもそもタクマの事も最初から知っていたよな? オマエ、いったい何者な……」
「ところでさ、キョウちゃんに質問なんだけど」
「って、俺の質問には答えないのになんでオマエが質問して……」
「質問というか考察して貰いたいんだけど~」
……平然と、ことごとく言葉をかぶせてきやがる。う~~~む、すでにセイラのペースに飲まれているな。
「キョウちゃんは転生者だよね?」
「そして私も転生者だよね?」
「……あたりまえだろう?」
「転生前の世界でさ、ドザえもんやってたでしょ?」
「うん」
「パステルしんちゃんとか、でかまる子ちゃんとか」
……何をいいたのだろう? 確かにそれらの漫画やアニメはジャストミート世代だ。
「なんなら“プリンは飲み物”という名言がある時代だが?」
「何故、同じ時代から転生してるんだろうね?」
……そうか、質問の意味が分かった。つまり、元の世界とこの世界が同じ時間軸、もしくは非常に近い時間軸にあるという考察を求められているのか。
「元の世界で今日死んで転生した奴は、今日この世界に現れる。明日死んだら明日この世界に転生される。と仮定して……」
言われてみれば、この世界での文化技術の進化の仕方がおかしい部分がある。MCレコーダーにしてもそうだ。たまたま現代の技術・知識を持ったものがここ数年の間に転生して来たから作られたものであって、もしその転生者が八〇年前に転生していたら、MCレコーダーは過去の産物になっていたはず。
技術発展の流れの面からみても、カセットテープやレコードが存在せずに、突然発生したデジタルレコーダーが初の記録媒体というのも不自然だ。過去にレコ―ド盤やカセットテープに関する技術者が転生してこなかったというだけの話かもしれないが、それは同時に“時間軸を超えて”転生している者もいない。という可能性も高い。
「元居た世界とこの世界は同じ速さで時間が流れていて、その時間軸上で転生が発生している。と考えるのが妥当という事か」
「さすがキョウちゃん、いい線行ってるぅ~。まあ、例外はあるだろうけどね!」
だからなのか、この世界の技術と文化がチグハグしているのは。技術者としての知識はあっても工具・機械類がない。その為ロケットの設計は出来ても作れない。といった具合で、技術と文化のかみ合いが非常に悪い。機械を作るための機械が必要であり、更にまたその機械を作る為の機械が必要になってくる。
『チャーハン作るなら、まずは鍋を作る職人と米農家が不可欠って事やな』
と、以前タクマが言っていたが、結構的を射ている気がする。
文化や技術が発展して物が生み出される。という流れではなく、唐突に新しいものがそこに出現する感じと言えばよいだろうか?
発展の一番の障害となっているのが発電能力。テレビや電車を作る知識はあるが、それを稼働させるための電力を生み出すことが出来ない。その為、実際は作れないというのが現状。
モールス信号や無線みたいなものも同様の理由で実用化に至っていない。よって、国同士のやり取りも手紙などが主流である。
簡素な車はあるが、ガソリンの精製技術が未熟で長距離の走行は不可能、また汽車に関しては街の外に線路を敷いてもモンスターの襲撃の危険がある為都市内でのみで可動している。
つまりは各国それぞれほぼ閉じられた空間の中で発展をしなければならず、その為国同士の交流や技術交流等は冒険者の存在に頼る所が大きい。
エネルギー関連、特に発電能力と石油精製能力。この二つがクリア出来ればこの世界の技術・文化は飛躍的に発展すると思われる。
って、なんで今こんな質問をしてきたのだろうか……?
「ところで、交換条件なんだけどさ」
ピンッと人差し指を立てて“条件が一つある”とジェスチャーで見せる。こういうところ、セイラは人を誘導するのが上手い。
「……マジか、悪い予感しかしねぇぞ」
「次の仕事手伝ってよ。報酬はカドミ情報でどう?」
こいつ、ここで情報を駆け引きに使うのか。……いや、セイラの事だ、最初からそのつもりだったのだろうな。
「……って、なんでセイラがカドミの事知っているんだよ!?」
次回! 第三章【Existence Vessel】-魂の器- ③キラッキラの!
黒歴史です。 読むなよ? 読むんじゃねぇぞ?(キョウジ談) 是非ご覧ください!
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