①【カレル】

 この街は海が近いだけあって潮風を感じる。まあ、ぶっちゃけちょっと生臭いって話だが。それでも“ロサンゼルスの海岸の様な風景”は見ていて気持よく、少し手を入れて整備していけば立派なリゾート地になる可能性のある街だ。

 こんなロケーションの良い所にまで来て、何故トーナメントに参加する事になったのか? まあ、言ってしまえば成り行きってやつなんだけど……。

 それよりも、この地ではもっと重要な出来事があった。……そう、この先苦楽を共にする大切な旅の仲間との出会いだ。



「では、こちらのエントリーシートにパーティー名・メンバー名、それと“ゴーレムの名称”をご記入していただき、三日後の締め切りまでにご提出ください」


 ……はい? 名前ですと? 

「“名無し”じゃ、駄目ですよね……?」


 うん、わかってた。係員の冷たい目がNoと言っている。


「お、名前つけるんか? よっしゃ、ワイに任せろ。そうやな、やはりあれや。高校の時に書いた漫画の……闘魔ハリケーン!」


「……セイラ、タクマの口にも瞬着詰めといてくれ」

 と無造作に投げる。


「おい、こら、まてキョウジ、闘魔というのはだなあぁぁぁ」

「あ、腹話術ですよ、腹話術」


 どこの誰に向けての言葉か解らないが、三六〇度からの刺すような視線に弁解をしている様な気分だ。それにしても、パーティ名とゴーレム名か。苦手なんだよな、こういうの。なんか無駄に力入っている様な名前つけるのも嫌だし、ここはセイラに丸投げして……


「キョウちゃん、がんばってねぇ」


 視線が合った瞬間釘を刺された。コイツ、心が読めるのか? 仕方ない、とりあえず期限は三日あるしその間に考えるとして……


「パーティメンバーはどうするんだ? 実質、俺とセイラの二人で闘うのは無謀だと思うが?」

「問題はそこよねぇ。どうしたらいいと思う?」

「って無策かよ!」


 このゴーレムトーナメント、競技名称【カレル】は最大六人でパーティーを組み闘う団体戦だ。

 

 条件は“メンバーのうち一名はゴーレムを召喚出来る者を入れる”

 

 ゴーレムを戦わせるのだから当然な気はするが、それにしても一行で完結してしまう文言が、この世界共通のオフィシャルルールだった。という事が驚きである。今は“相手を死に至らしめた場合は即失格”といった追加文がいくつか加えられて、より安全なスポーツ大会の様相を呈している。


 もちろんこの大会そのものは転生者が企画立案したもので、競技名の【カレル】はオペラか何かでゴーレムが出てくる話の作者の名前からとったらしい。 

 それにしても、今迄まったく存在しなかった競技を全国展開させている所を見ると、企画当時かなりやり手のプロモーターが転生してきたのだろう。



 ゴーレムを呼び出し操縦する召喚士、そしてそれを護衛するメンバー五人。というのが基本構成だ。もちろん召喚できる者が二人でも三人でも良い。その時にはゴーレムが一対二や一対三で闘う事になるが、その分護衛に回れるメンバーが少なくなる為、召喚士の守りが薄くなってしまう。

 メンバーは召喚士を守り、その召喚士はゴーレムを駆って、相手ゴーレムと闘いながらメンバーを守りもする。その為パーティ構成のバランスが重要になってくる。

 


「理想はオフェンス二人、ディフェンス三人、召喚一人なんだけどねぇ」

 ……だから、その人員が今いないのでしょうよ、セイラさん。


「諜報部の方で三人は手配するって話だけど、全然連絡ないのよ」

 期待出来ないかも。と付け加えてはいたが、そもそも最初からまったくあてにしていない様だった。



「あら、これはこれはセイラお姉さまではありませんか」

 

 声の方を見ると、いかにも良家のお嬢様と言った感じの可憐な少女が従者を引き連れ立っていた。


 ブロンドの髪はふわりとしていて腰の辺りまで届いている。顔つきは柔らかく、少女そのものであった。フランス人形が着ているようなふわふわの薄いピンクのドレスに赤い靴。そして細かなレースで装飾されている、これまた「おフランスざます」といった感じの白い日傘。左手中指には白地に赤で装飾された指輪が光る。よくは見えないが、模様からして家紋といった感じだ。

 涼し気な表情の中に幼さが垣間見え、この娘はかなりモテるだろうな。


 後にいる男はそれほど背は高くないが恐ろしく眼光が鋭い。上下黒のタキシードに、腰には……日本刀か? あれは。従者というよりはボディーガードなのだろうか。二人からは魔力が感じられ、これは転生者かもしくはその血筋と思われる。



「遅いわよ、パティ!」

 わざと呆れ口調で答えるセイラ。旧知の仲らしいが、ここで落ち合う手はずだったのだろう。


「あら、お姉さまが早すぎるのですわ」

 しかし少女はそんなセイラの前を素通りし、俺の前で立ち止まった。両手でスカートをちょこんと摘み上げ会釈すると、まっすぐに俺の目をみて口を開く。


「初めまして、お兄さま。わたくしパトリシアと申しますの。 以後、お見知りおきを」


 ……お兄様って俺? やだ、何このかわいい子は。どこかのセイラとは大違い。純朴で丁寧で……パトリシアちゃんか~。これはもう、娘にしたいわ~。 


「ああ、どうも……」

「おいキョウジ。オマエ気の利いた挨拶も出来ないんか? ほんま昔から変わらんヤツやな」


「あら、なんですの? 今の声は」

「あ、すみません。気にせずに……」

「何ゆうとんねん、気にしろや。紹介せぇっちゅーねん」


 お前は気にしないでいいから気を使ってくれ……


「あ、これ、腹話術で使っている石です」

「石! 何やその紹介は。お前それでもワイの友人か? 竹馬の友か? 苦楽を共にした仲か? 怒るでしかし!」

「……苦楽の“苦”の部分は主にお前のせいなのだが?」


「実は、お兄さまとタクマさんのお話はうかがっておりましたの」


 ああ、そうなのか。眩しい笑顔でタクマにまで挨拶をしてくれた。まあ、セイラの知り合いなら知っていてもおかしくないよな。多分あることない事適当に伝わっていそうだ。……後で修正しなきゃな。


「ところでパティ、後の人が?」

「そうですわ、お姉さまに依頼されていた助っ人ですの。この借りはお高くつきましてよ!」


 従者は黙ったまま会釈をする。しかしその挨拶の姿には見覚えというか、馴染みがあった。


「もしかして日本人ですか?」


「お判りでござるか!」

 同郷と判り気を許した為か、鋭かった眼光が少し和らいだ。その彼のお辞儀は紛れもなく、日本に古くからある小笠原流のお辞儀であった。



 というか『ござる』って今時珍しすぎるだろ……



キャライラスト:パトリシア→

https://kakuyomu.jp/users/BulletCats/news/16817330651844205935


第三章MAP

https://kakuyomu.jp/users/BulletCats/news/16817139555335380588



次回! 第三章【Existence Vessel】-魂の器- ②時間軸

セイラ、おまえずるいぞ(キョウジ談) 是非ご覧ください!

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