③【フェイク】
なんでも、セイラ姐さんはイギリスから派遣された調査員だということだ。まあ、本人は『ぶっちゃけスパイなんだけどね~』と笑っているが。
タクマを壁に投げつけてスッキリしたせいか、好印象のサバサバお姉さんに戻っている。ON/OFFがハッキリしていて、俺個人としては付き合いやすいタイプだ。 もちろん1000%友人として。
聞いた話をまとめると、イギリスの調査員という名目で領主の悪行をスパイしていた姐さん。結構真面目に聞き込み調査をしていた。そんな折、領主の目にとまり館に招かれる事となった。『これは証拠をつかむチャンス!』と話に乗ったふりをしていたが大誤算。流石に真昼間、部下のいる前で手を付けようとしてくるとは思わなかった。夜までに証拠をつかんで逃げるつもりだったがスイッチが入って大暴れ。そのため今は逃走中。……というわけだ。
「思いっきり、すり潰してやったわよ」
「どこをですか!?」
……無意識に自分の股間を両手で隠していた。
現在、盗賊被害が拡大している為、街は厳戒態勢になってる。もちろん外から盗賊が入ってこないようにする為ではあるが、それは同時に“中からも”出られないという事でもある。
「か弱い女性一人で抜け出すのは大変でしょ~。だから手伝ってほしいんだ」
……か弱いという部分は引っかかるが、俺達も目的は同じなので協力しない理由はない。
「それで姐さん、どうやって壁を超えるつもり?」
「うら若き、美しくか弱い女性に姐さんはやめてね」
ツッコミ入れたらすり潰されそうなのでやめておこう。
「セイラでいいよ、キョウちゃん」
最初のうち姐さ……セイラは、俺が盗賊団の一員と思い接触してきたらしい。長い間街の外に陣取りながら、まだ街そのものには大した被害がないことから地下道を掘っていると推測。そこを使って街の外に抜けようと算段していた。
「だけどまあ、君の目を見たら盗賊じゃないってすぐわかってね。ハズレ引いたと思ったよ。私は男を見る目だけはあるから喜んでおきなさい。と、言うわけで……」
こちらを見据えてにやりと笑う。
「領主の館に忍び込んで悪行の証拠をつかみます!」
なんでそうなる……。
――いや、そうか!
現状すぐに脱出は不可能、ならば証拠をつかんでそれを盾に身の安全を図るのが得策。と言った所だろう。領主側が俺達を殺して証拠隠滅しようとする可能性は否定出来ないが、現状で一番可能性のある策だと思う。ついでにセイラの仕事も達成できるという事だな……。どっちが本当の“ついで”なのかわからないけど。
「まず、キョウちゃんたちが領主の館の前でトラブルを起こすでしょ」
まあ、定番だな。その隙にセイラが忍び込んで前領主殺害の証拠をつかむ。ってやつだろう。
「そしたら私が裏から……」
ですよね~
「逃げる」
「オイッ!!」
「やあねぇ、冗談よ~」
目が笑っていないのですが……
こういう適度な距離感の軽いやりとりは好感が持てる。人としての心地よさは格別のものだ。だが残念な事に俺はセイラを完全には信用していない。
――その言葉に嘘ないが、フェイクと秘密が存在する――
必要最低限の情報のみしか言わない。これがセイラの生き方なのだろう。
セイラは初対面の“俺一人”に向かって“君達”と言っていた。
それは……タクマの存在を最初から知っていた事になる。
次回! 第一章【laughing Stone】-笑う石- ④スパイ天国
この世界の解説とこの街の現状を綴ります。 是非ご覧ください!
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