④【スパイ天国】

 ――ここは、80年ほど前から転生者が現れ始め、今や世界人口の4割が転生者という世界。

 

 転生者が持ち込む知識や技術の影響は大きく、インフラの”イの字”も知らないような世界だったのが、部分的には発展途上国レベルになっている。

 その為”異世界”という言葉でイメージするようなファンタジー世界とはかけ離れ、粗末な草ぶき屋根の家が並ぶ中に、いきなり鉄筋のビルが”ぽつん”と建っていたりする村もある。技術や文化のバランスが非常に悪いのだ。



 貿易の街と言われるこの街は特にその傾向が強く、更に多種多様。欧風にまとめられた通りもあれば、日本家屋やインド風の独特な家、中国風の艶やかな家等が雑多に立ち並ぶエリアもある。


 この街から北東には、獣ですら迷う事から“迷妄の森”と呼ばれる大きな森が広がっていた。だがそれは命名された頃の話であって、現在、細くはあるが通行可能な道が通ってはいる。しかし厄介な事に最近は、モンスターよりも頻出する盗賊の存在が警備兵の頭を悩ませていた。


「盗賊らしき人影を見た」


 幾度となくそういった通報があり、その都度人員を割いて捜索をするが、今迄に猫の子一匹見つかってはいない。とは言え報告がある以上、厳戒態勢は変わらず継続されたままだ。にもかかわらず盗賊に襲われる旅人がまったく減らないのは、事情を知らない他の街や村からの旅人がカモにされているからだろう。その為よほどのことが無ければ商人や旅人も街の外に出ようとしない。 


 本来ここは旅人との交流には積極的な街で、転生者の街よりも多種多様の文化と品々が流通していた。5年程前、今の領主になってからは貿易品に対する関税が上がったりもしたが、事の大小にかかわらず犯罪者を厳しく取り締まる施策で治安や生活は安定。概ね良い評判を得ていた。

 しかし、街の評判が良ければ良いほど、ちょっとした悪い噂ほど悪目立ちしてしまう。


前領主は現領主に暗殺された

犯罪組織と繋がっている

女にだらしなく、さらってきては手を付けている


 火のある所にも火のない所にも煙が立つのはどこの世界も同じだろう。この噂に対して、ローカルズの王家も近隣の転生者の国々も、表向きは”頻出する盗賊団の調査補助”という名目で調査員を送り込んでいる。


 噂が、特に“前領主殺し”が真実であった場合、確実に重犯罪なのは明白。そして王族や各国が“他国領主の犯罪に対して敏感な理由”は“”になり、ほとんどの場合はそのまま併合されることになる為だ。 

 これは自国にとって、経済面でも労力面でもプラスになる。特に貿易で栄えているこの街はどの国も欲しがるだろう。


 弱みをみせたらつけこまれる。それはどこの世界でも共通の不文律であった。




次回! 第一章【laughing Stone】-笑う石- ⑤魔法使い

是非ご覧ください! 


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