⑤【魔法使い】
「おいキョウジ……」
陽も沈みかけ、もうすぐ作戦決行というタイミングでタクマが起きた。すでに領主の館は目の前だ。
「ワシ、なんか変やねん」
「どうした?」
「なんかな、おケツがすーすーするんや」
タクマをひっくり返すと、丁度顔の裏側にうっすらとヒビが入っていた。まず間違いなく、セイラの一投によるものだろう。
「マジか、ケツ割れとるんか! やってくれたなあのアマ。ワシ許さへんで! 次に会うたら奥歯ガタガタ言わしたるわ!!」
「お前は後頭部が尻なのか……。初めて知ったわ」
さて、ひと騒動といきますか。と、衛兵のところに歩き出そうとしたとき……館の裏手で爆発音の様なデカい音がした。
「……またキレたのか、セイラは!」
知り合ってまだ半日程度なのに、こんなセリフが出てくる事はかなり稀な経験だろう。衛兵が慌てて動き出している。門脇の控室からわらわらと出てきては館の裏手に走る。
「作戦はどこにいったんだよ。せっかくアフリカゾウの子供の生態とワシントン条約について演説しようと思っていたのに……」
「キョウジ……お前ってホンマ、行き当たりハッタリなやっちゃな~」
「なんだよそのタクマ用語は……」
「オマエの二つ名を考えといたんや。『行き当たりハッタリのキョウジ』 略してイッタリのキョウジやで!」
「わけわからんって」
……勘弁してくれ。
すでに騒ぎが始まってしまったのなら仕方ない。門番で残っている衛兵を無力化して強行突破だ。今の裏手の爆発に衛兵が集中しているのなら、そちらを陽動として俺が忍び込むのがよさそうだ。ならばこの状況でも門番に騒がれるのは好ましくない。結論。寝かして通ろう。
この世界の魔法使いは大枠で三つに分類できる。
一つ目は精霊使い。一番派手なクラスだ。火の玉を飛ばしたり爆発や竜巻を起こしたりという魔法を、契約した精霊の力を使って行う。威力の小さな魔法であれば無詠唱で使う事も可能。
契約自体は地水火風すべての元素精霊と可能だが、一度に発動出来るのはどれか一系統のみだ。
二つ目は魔術師。地味だが汎用性が高く最も強力。解りやすく言うと念動力を基本としたクラス。魔力そのものを“物を動かす事”と“精神に直接作用する事につかう。今使った睡眠魔法も精神に働きかけて効果を発揮している。
魔術師同士の戦いはとことん地味で、例えば扉を閉めようとする者と開こうとする者がお互いに扉を動かし、少しでも魔力が勝っているものが少しずつ扉を動かすことが出来る。
魔術使用中の集中力は尋常ではなく、気をそらせば即負けてしまう。どこかからか矢の1本も飛んで来るだけで負けが濃厚になる。魔法に集中している時は守ってもらわなければならないのだ。いわばチームプレイに特化したのが魔術師といえる。
三つ目は召喚士。精霊を使役して戦うクラス。精霊使いと違ってこちらは精霊を呼び出して命令を出す。精霊使いが精霊の“力を借りる”のに対し、召喚士は精霊を“使役する”のである。よって、より高度な契約が必要となるが、それに見合うだけの力を精霊自体が発揮できるかというとそうでもない。
しかしながら、他のクラスにはない強力な用途がある。こちらもまた、同時に二系統を使える者はいない。
魔法の種別として分類されてはいるがどれか一つしか使えないわけではなく、転生者は基本的にすべてのクラスを使える。ただ、どのクラスが得意なのか? どのクラスと相性が良いのか? それにより、いずれかに特化させているのが一般的だ。
そいつらの目的は判らないが、俺を敵とみなした様だ。まあ、どう考えても味方ではないが。
……二十人くらいか。取り囲まれてしまった。
正直これはかなりヤバイ。魔法詠唱なんかしていたら即袋叩きだろう。漫画やアニメなら俺が無双して一瞬で全員倒す所だが、そんな便利な能力は持っていない。仕方なく剣を構えながら、無詠唱で発動出来る
「さて、どうするか……」
ちまちまと一人ずつ倒して、少しでも詠唱の時間を稼がないとだが……。
次回! 第一章【laughing Stone】-笑う石- ⑥そして裏門では……
ヒロイン(?)のバトルシーン開始! 転生者と非転生者の地力の差を書きます(ちょっとだけ無双気味になってしまいますが……) 是非ご覧ください!
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