②【欺瞞】
「オマエはあの時の!」
「平成のケツ姉ちゃんや!!」
おい、タクマ黙ってろって。……否定はしないけどな。
「ちょっと君達、初対面の見目麗しい女性に向かってオマエだのケツだの口悪すぎでしょぉ!」
と、言葉に微笑みをまとわせる。自分に自信があるのか、はたまた俺らが相手にされてないのか、いずれにしても嫌味の無い態度には、こちらも悪い気分にはまったくならない。
つーか自分で見目麗しいとか言うか? 普通。……まあ、否定はしないけど。
「ところで、ここから出たくない?」
言葉は疑問形だが、その笑みには「YES」しか許さないという迫力があった。だが、むしろこれは渡りに船。断る理由はない。
「それで? 俺に何をさせる気なんだ?」
牢番がタイミングよく寝たのは、彼女が薬を盛った可能性がある。とすると、最初から俺らを牢から出そうとして近づいたのだろうと、軽く鎌をかけてみた。
「話が早くて助かるわぁ~」
感心した様なそぶりだが、ここまでは織り込み済みなのだろう。
――彼女は【セイラ】と名乗った。
彼女曰く
「グランマがイギリスなのよ。パパが日本人で私はクォーターね」
「でもイギリスには三歳くらいまでしかいなかったから英語はカタコト。ほとんど話せないんだ」
と、舌を出してウィンクする。漫画なら「てへっ」とか文字が入る所だ。
軽く波打った栗色の髪はギリギリ肩に届くくらいで、真っ白のブラウスにシルバークロスのネックレスと左腕のバングル。所々切れたローライズデニムには赤のパンプスを合わせている。小さな石のピアスは、全体のシンプルなコーディネートに嫌味の無い鮮やかさをを演出する補色の緑。身長は俺より少し高いくらいか。ヒールの分を引いても。
……というか牢番ずっと踏まれているが大丈夫か? むしろ嬉しそうな顔をしている気がしない事もないが。
「ここから君達を出す代わりに、ちょっと手伝って欲しい事があるんだ」
セミロングの髪をかき上げながらニコッと笑う。
「なんや姉ちゃん、高跳びか? 何悪さしたんか。あれか、あれやろ。ケツに寄ってきた金持ち騙して貢がせたとか、ついでにどこぞやの家庭を崩壊させたとか、拾い食いしたとか、子供から小遣いまきあげたとか」
言いたい放題だなタクマ。やめといたほうが良いと思うぞ~。このタイプの女性は怖いぞ~。
「その金で胸にシリコンでもいれてるんちゃうか? ホンマ。世の男どもは騙されたらあかんで~。はなほじ~」
「…………」
「ねえ、キョウちゃん?」
キョウ……ちゃん? ……あ、俺か。
「……はい」
「ちょっとその石ころ貸してくれる?」
これ以上ない笑顔だが、むしろそれが怖い……
「あ、どうぞどうぞ」
ここは大人しくタクマを差し出す。後は知らんぞ、自己責任だ。
「お? 姉ちゃん、ワイに惚れでもしたか? あかんで、ワイに惚れたら火傷するっちゅ~ねん。ワイはナイフやで。触るもの皆傷つけるんやで! まあ、解っちゃくれとは言わないが」
おー、これはヤバそうだ。牢屋の隅に避難しておこう。
しっかり体重を乗せた右足の踵を軸に、豪快に左足を振り上げてからの前方に向けてのスムーズな体重移動、軸がブレないのは体幹がしっかりしている証拠だろう。
「せからしか!!!」
叫びとともに振り切られた右手からは、球が……ではなく石がリリースされる。剛速球が牢屋の外壁に向けて一直線に飛ぶ。
「アカンて! ワイはデリケートなんやで~!?」
地下牢中に響く『ドゴンッ』という大きな音とともに岩盤にめり込むタクマ。
――力を込めたセイラの声が続く。
「子供から小遣い巻き上げるわけないだろ!!!」
……そこ以外は否定しないのデスカ。
この姉さんも結構アレだな、キレると我を見失うタイプだ。先ほどの好印象で出来る女イメージと今は真逆になっている。しかし丁度いい、タクマが目を回しておとなしくなっている間に話を進めよう。
キャライラスト:セイラ
→https://kakuyomu.jp/users/BulletCats/news/16817330650984332554
次回! 第一章【laughing Stone】-笑う石- ③フェイク
是非ご覧ください!
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