㉒【言い訳】

「多分だけど……犯人あいつ魔道具アーティファクトを盗んでこの街に逃げ込んだのではなく、最初から“この街でデーモンを呼び出す”事が目的だったんじゃないかな?」


 人口が密集しているこの場所でデーモンを呼び出し人々を虐殺させる。それ以外の理由は考えつかないが、多分合っているだろう。わざわざメンバー集めて大会にエントリーしている位だからな。まあ、それによってアイツ自身にどんな利益があるかは解らないが。

 今一番危惧するべき問題は、この広がっている赤黒いドームの壁。そしてその内部に渦巻く大気成分だ。魔界の空気に普通の生き物が触れたら、吸ったら、どうなる事か。



 ……その答えはすぐに“観られる”事になった。


 術師の胸の穴からデーモンの腕が出てくる。一本、二本、三本……我先にと何体ものデーモンが穴に殺到し、一体が通るだけで精いっぱいの大きさの穴を、三体のデーモンが無理矢理こじ開けて通ろうとしている様だった。 

 頭と肩まで出ている者。首だけ出している者。穴を広げようとする者。術師の胸に開いた魔界との門が物理的なモノはどうかは解らない。しかし無理矢理に通ろうとしたデーモン達に耐えきれず、穴の淵が裂け始めた。その場にいた者には、むしろ裂いて出て来ようとしている様にも見えただろう。


 自分の体が魔界とつながる門となっているにも関わらず、術師は笑っていた。恐怖などと言った感情とか無縁の様にも見えた。もしかしたらすでに、その精神は死んでいるのかもしれないが……

 そして次の瞬間、術師は。血が噴き出し、赤黒いドームの内側に血が飛び散り、張り付き、流れる。


 そこには血まみれのデーモンが二体。そして、無理矢理穴を裂いた為だろうか、門は閉じ、首だけ出していたデーモンの頭が転がっていた。


「何をやっているんだこのバカどもが!!!」


 敵リーダーが怒鳴り散らす。多分彼の計画では何体、何十体と呼び出すつもりだったのだろう。しかし当のデーモン達に門を壊されたのだ。怒りが収まらないのか、聞くに堪えない罵詈雑言を浴びせていた。



 未だに生態が解らないデーモン。そもそも生き物かどうかも解らないので生態というべきかどうかは疑問が残る。人語を理解し話す事は確認されている……つまり知性はあるという事だ。そして力や魔力は人間の比ではない。

 ゴミ程度の人間にバカ呼ばわりされて怒ったのかどうかは解らないが、一番最初に出てきていたデーモンは敵リーダーの右腕をつかむと、そのまま……握りつぶした。

 折ったでも斬ったでもなく、手首をつかんでそのまま握りつぶした。魔法具アーティファクトは手から離れその場に落ちる。痛みに悶え転げまわる敵リーダー。 

 デーモンを見る目が恐怖に代わり、その場から逃げようと試みるが……次の瞬間悲鳴を上げる事もなく、肉体が灰になって崩れ落ち、骨だけが残った。多分これは、魔法具アーティファクトを手放した為なのだろう。 


 目の前で人間が灰になって骨だけ残った。それを目の当たりにし、やっと状況が飲み込めた観客達。先ほどまでの狂気がパニックに変わる。


 その場にいる転生者達は協力して観客の避難誘導を行っていた。転生者は皆、各国のギルドで“緊急時の対処”を叩きこまれる。少なくとも魔力を持つ者は、魔力によるローカルズへの被害に対して責任を持つ義務があった。

 しかし、それでも遅々としてなかなか進んでいない。今度は混乱に陥った感情がデーモンに増幅されているからだ。



「こいつら……さすがに放置するわけにはいかないよな」

「そうですわね。これはどこまでも被害広がりそうですわ」 


 この街のみならず、世界そのものも飲み込まれる可能性も否定出来ないだろう。出現したデーモンは、先に出ていた個体と合わせて三体。そして広がり続ける赤黒いドームの壁。この二つに同時に対処しなければならない。 

 

 確認の為か、もしくは意思統一の為か、あえてセイラが聞いてきた。


「多分……なんだけどさ。あの魔道具アーティファクトがこのドームの発生源だよね?」

「ワイもそう思うで~」

「ですが、あれを奪いに入るのは無理な話ですわ!」

「だよな。これは……破壊する方法を考えなければ、か。セイラ、諜報部への言い訳考えておけよ!」

 調査任務なのに壊したとあってはどんな顔されるか……


「キョウジ君が壊しました~! 以上、報告終わり」

 


 ……大怪我している割には元気じゃねぇか。





次回! 第三章【Existence Vessel】-魂の器- ㉓二重魔法陣

ゴーレムの新たな可能性! 是非ご覧ください!

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