㉓【二重魔法陣】


 魔法武器でドームの壁にヒビが入るという事は、サベッジ・ペガサスで破壊可能かもしれない。……しかし、破壊したらどうなる? あの中の大気は人間を灰と骨だけにしてしまう。それに破壊することでこの精神被害が広がる可能性もある。


 壊さない方向で戦術を考えなきゃ、だな。とりあえずサベッジ・ペガサスで広がりを抑えられるか……やってみるしかない。 

 物理的な接触が可能だったのは不幸中の幸いだった。広がってくるドームの側面に手を当て、足を踏ん張る。ずるずると押されるサベッジ・ペガサス。ドーム拡大の進行は僅かに抑え込めているが、しかしこれでは時間稼ぎにもならない。


 その時、視界の中で、そして外で、光りの柱が見える、感じる。トーナメントに参加していた各チームの召喚士が各々のゴーレムを呼び出している魔法陣の光だった。 


「いくぞよ、ヤブ」

「ぬかるなよ、ラッキョ」


「うお……じじいども、いたのか!」


「当たり前じゃ。ワシの美尻が出ておるのじゃぞ。観戦は義務じゃ、義務!」

「それに、ワシらの孫が会場にいるんじゃよ。逃げる訳にはいかないじゃろ」


「……孫の話は本当だったのか」

 

「たのむぜ、じじぃ!」

「まかせとけ、こわっぱ!」


 それにしても世の中捨てたもんじゃない。これだけの協力があればまだまだあがける! 

 

 ……諦めるのは三億年はやい!



「パティ!」

「わかりましたわ!」

 俺の一言でパティは察し、詠唱を開始した。土属性の魔法陣が出現する。しかし、それはパティの周りではなく


 ――俺の炎の魔法陣を囲むように土の魔法陣を描いていた!



【二重魔法陣】


 一つ目の魔法陣で呼び出した精霊を宿したゴーレムをベースにして、二つ目の精霊の力をオーバーコート。属性同士の相乗効果で基礎ステータスが爆上げされる。『理論上は出来そうだ』という程度で、試す機会は皆無だったが、ぶっつけ本番で大実験だ。もっとも、失敗したら全滅必至だけど……


 炎属性のサベッジ・ペガサスに、パティの土属性が加わり姿が変わっていく。フレームはダークグレーから漆黒に。装甲は厚みを増し、赤と真珠色からダークレッドと薄いオレンジに。 形状も複雑な線と面で構成されている。軽量機体から、重量級アーマード・ペガサスに変形! ……とでもいった感じか。

 更には、この場において有効なのが炎と土の二属性合わせた最大の特徴である“溶岩”だ。サベッジ・ペガサスは溢れ出る魔力が炎となって、常に手首や足首から噴出していた。そこに土属性が加わる事により、今のサベッジ・ペガサスからは溶岩が流れ出ている。


「凄いな。想定より何倍もパワーゲージが上がっている感じがするけど……」

「けど、なんや?」

「……なんかスゲー焦げ臭い。硫黄の臭いもきついわ。おまけに熱いし」

「これ終わったら水撒せな。温泉になるで~、硫黄温泉や! 混浴や!!」

 

 ……こら、一瞬想像してしまったじゃないか。


 ドームを抑えている両手から流れる溶岩。そして足首から流れ溜まる溶岩。それを見たセイラとエクエスが個々の判断で、風と水の魔法を使い一気に冷やす。ドロドロの溶岩に霧雨が降りそそぎ、蒸気を発しながら黒く固まっていく。


 溶岩石というものは含まれる成分によって、堅かったり脆かったりするらしいが……

「なんとか、なりそうだな……」

 溶岩石はかなり固く、特にサベッジ・ペガサスの足もろとも固められた足元の溶岩石の効果は大きかった。辺り一面に強力な接着剤を撒いて固めたような感じだ。


 パワーの上がったサベッジ・ペガサスと溶岩石、そして仲間達のゴーレム。多くの力で、とりあえずドームの拡大進行を抑える事が出来ている。


 あとは中のデーモン三匹だが、もし奴らが出てくることがあっても、これは周りの冒険者に任せるつもりだ。例え……荷が重くても、だ。



 ――俺達は俺達にしか出来ない事をやる。




「皆、協力してくれ。この事態を終わらせるぞ!」




次回! 第三章【Existence Vessel】-魂の器- ㉔作戦開始

是非ご覧ください!

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