⑱【二刀流】


 二回戦の反省を踏まえ、サベッジ・ペガサスには剣を二本持たせている。俗にいう二刀流の為だ。ゴーレムのデザインバランスにおいて、盾を持たせるのはかなり難しい。最初から盾ありきなら良いのだが、サベッジ・ペガサスみたいな細身のデザインに武装追加するには“左右に持つモノのバランス”が重要だと思い知った。 

 まあ、短期間でバランス取れる追加装備なんて二刀流くらいなんだよな。ちなみに、飛び道具はルール上禁止だ。観客席に飛んだらジェノサイド間違い無し。


 先に相手ゴーレム“チャリオット”が動く。低めの重心で安定性を重視し、盾とショートランスを持っている。攻撃を盾でガードした後、直線で攻撃をして来る。剣みたいに振りかぶる必要がないので、ガードしてから攻撃までの間隔が短く、剣よりも遠くに届く。


「結構厄介だな……」

「しっかし短足やな~。アレは人気出ぇへんで!」

「今は短足でも強ければ正義だぞ」


 じりじりと寄ってくるチャリオット。サベッジ・ペガサスも同じように距離を少しずつ詰め、両腰に差した剣を抜く。太陽の光を反射し、赤みを帯びた銀色に輝く二本の剣。


 突然、ランスを正面に構え突っ込んでくるチャリオット。左の剣で受け流し、右の剣で攻撃を試みるが、盾に弾かれる。硬直するかと思われたが、チャリオットはその体制のまま押し始める。


「くっ、やはり押し負けるか……」


 少しずつ押し込まれるサベッジ・ペガサス。チャリオットは多分、靴底にスパイクを仕込んでいるのだろう。


「こっちもそこまで描いておけば……」

 デザインを手抜きしたわけではない。しっかりと靴底のデザインも描いてある。 だが、これまたゴーレム戦は想定していないデザインだ。オマケにトーナメント参加の話はほんの数日前にされるし、こんなんどないせ~っちゅ~んじゃ。タクマじゃないがエセ関西弁がでてまうわ!


「もうちょい時間があればな」

 もっとも、『こんな感じで十分じゃね?』と甘く見てしまったのも確かだ。猛省。それにしてもこのまま押し込まれるのはまずい。

 

 右手に持った剣を、相手シールドに対し斜めに突き立てて動きを止める。俗にいう“心張り棒”ってやつだ。止まった瞬間を狙い、左足でチャリオットのみぞおち辺りを狙って蹴り上げた。重心の低い相手に対して低い位置を狙っても効果はない。かといって、高い位置だとしても、チャリオットよりも大分軽量のサベッジ・ペガサスが蹴ったくらいでは大したダメージはないのだが。


「だがしかし、その蹴りは次の一手への布石!」


「蹴ったのに一手ってなんや?」

 タクマとりあえず今は黙っとけ~



 ――突進を止められ、胸にケリを食らったチャリオット。軽量ゴーレムの蹴りとはいってもそれなりに質量はある為、軽くではあるがのけ反ってしまった。


「――ここだ!」


 のけ反ったチャリオットが再び前方に力を注ぎ込む瞬間、サベッジ・ペガサスは“心張り棒”を外した。勢いづいて前のめりになるチャリオット。この時サベッジ・ペガサスは左手の剣も捨て、チャリオットの右腕をつかみ引き込むと同時に足を引っ掛ける。勢いよくヘッドスライディングするチャリオット!


「お兄さま、柔道出来たのですか?」

 レオンを見据えたまま、ゴーレムの戦いを視線の端に捉え、感心したように言う。


「高校の時授業でやらされてね~」

「ワイは体育サボっていたけどな」


 それにしても、実剣に設定しておいたのは正解だった。厨二心で『柄だけの剣で、刀身は炎がでて~』なんてやらなくて良かった。ほんっとに。


「……おっと! そこまでにしてもらおう!」


 ってなんだよこの悪役なセリフは? 声の方を見ると、チャリオッツのリーダーがセイラの首を後から絞め上げ、血だらけの胸元にナイフを突きつけていた。




「――そのままさがってくれないか?」




次回!第三章【Existence Vessel】-魂の器- ⑲喝破と奇行

あの凶女が人質に取られた? 是非ご覧ください!






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る