⑬【JOKER】



  ゴンッ……


「痛いっス……今のは自分じゃないっスよ!」

「あら、そうでしたわね。ごめんあそばせ!」

 パティ……レオン殴るのクセになってないか?


「今思い出したよ。あいつは……俺を殺した野郎だ!」

「というと、丸一日死んでた時のがアレなの?」

「ああ、そうだ」


「お兄さま、アレに殺されてきたのですの!」

「マジっスか。 Gにられて……」


 ゴンッ……


「痛いっス……」

 “アレ”って言っとけよ、レオン……



 とりあえず、鉈の……Gデーモン以外にこちらに危害を加えようとする者は皆無とみてよさそうだ。首謀者は勝手に死んだし、精神支配受けていない敵兵は皆逃げたみたいだからな。……まあ、流石に十メートルのデーモンなんて出てきたら転生者もローカルズも皆逃げるわ。


「う~ん……俺も逃げてぇ~」


「キョウちゃん!」

「お兄さま!」


 二人してジト目で見てくるなよ……


「と、ところで、シルベスタの様子はどう?」


「誤魔化したわね!」

曖昧模糊あいまいもこですわ!」


 そんな難しい四字熟語どこで覚えたんだよ。辞書引かなきゃわからんぞ。


「で、どうなんだ、カドミ」

「うむ、大丈夫じゃ。ちょいと不便にはなるじゃろうけど、強靭な肉体に救われたな」


 タクマの魔力をシルベスタの体に絶え間なく流す。山南の身体に流れる魔力を断ち切った“魔力の洪水”だ。それによって、精神汚染の元である魔道具から脳への浸食を、一時的にとは言え止める事が出来た。 

 その間にカドミは、セイとイラにも組み込んである“地脈から魔力を補充する装置”――言わばを両手両足の魔道具に取り付け、魔道具の発する魔力を吸収させていた。


 精神に害を及ぼす魔力を、脳への到達経路を断つと同時に発生源からの放出を制限するという二段構えの策だ。


「このあと落ち着いたら手足を切り落として、自動人形オートマトンの義手義足を付ければ命は助かるのじゃが……」

「それ……滅茶苦茶辛いじゃないっスか……。自分だったら耐えられないかもっス」

「つまり、デーモンになるか、不自由な身体になるかの二択ってことよね……」


「いや……カドミ、セイラ、もう一つ手がある」

「それは何ですの?」


「シルベスタに魔力を持たせて自分で魔道具アーティファクトをコントロール出来るようにすればいい」


「あ……確かにそれならいけそうっスね!」

「いや、言うのは簡単じゃが……」


「と、いう訳で。人体に魔力を付与する方法はカドミ考えとけ。そろそろこちらも切り札出していくぞ!」



 ――俺達が最後の切り札として残しておいた一手。それはゴーレムトーナメントで見せた二重魔法陣を更に凌駕する戦術だ。戦況が不利になった時の為にとっておいた手だが、Gデーモンみたいなのが出て来た以上は出し惜しみをしている場合ではない。


 セイラのレークヴェイムをベースにレオンが二重魔法陣を描く。風属性のゴーレムに水属性を重ねて基本能力を爆上げする。敵が雷を使う以上、常に“霧を周囲に纏わせる”事が出来る風と水の組み合わせは防御面でも効果が高い。


「レオン、パティの前だからって飛ばすなよ。肩の傷はふさがってないんだから!」

「ういっス! だけど今無理しなかったらいつするんスか!?」

「……熱血主人公みたいなセリフ言いやがって!」


 まあ、無理出来るうちは好きな様にやらせておこう。フォローは皆ですればいい。


 ――今の俺達なら出来るはずだ。



 風に水をオーバーコートしたレークヴェイムは、細身のフォルムはそのままに銀色のフレームに白い装甲、肩や脚部にコバルトブルーとエメラルドグリーンのラインが美しく交差していた。……凶悪な目つきは変わらないが。

 基礎能力が上がった二重魔法陣のゴーレムに、更に重ねていくのは土属性だ。しかし、単純に三重魔法陣、四重魔法陣と重ねはしない。属性同士が干渉してしまいバランスが崩れてしまうという結論に至ったからだ。 


 パティは自分の足元に召喚魔法陣を開く。土煙を纏った光の柱が立ち上がり、その中に呼び出した土精霊を二枚の屈強な盾にし、レークヴェイムの左右に浮かべた。

 本体の操作はセイラが、敵の電撃対策はレオンが、物理的な防御はパトリシアがそれぞれ受け持つ。


 そして俺は炎の精霊を呼び出し、二本の炎剣を形成。レークヴェイムの武器とした。もちろんパティの盾にも俺の剣にもそれぞれ術者の意思が込められている。敵の攻撃に合わせてパティは盾を操作して防御。俺はセイラの攻撃に合わせて必要な武器を形成する。それぞれ役割を受け持つ事で、それぞれが全力で戦える。


 ――これが、俺達の切り札JOKERだ!



「そう、名付けて!!」

「……」

「……」


「名付けて……どうなったんスか?」


 考えてなかった……命名は苦手なんだよ、マジで。だからサベッジ・ペガサスなんて恥ずかしい名前になってんだろ。


「……セイラ、何かいい名前ねぇか?」


「全くもう、締まらないわね……」

「お兄さま、肝心なところで……」

「考えてなかったんスね……」


 図星なだけに何も言えねぇ……。


「なんや、相変わらずアホやな……」

「うむ、行きあたりバッタリな所は何度死んでも変わらんのう……」

「……しかし、それがキョウジさんの良い所ですぜ!」


 シルベスタ、ありがとう! 君だけだ、そう言ってくれるのは。でも……


 それ、フォローになってねぇよ……



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