⑭【新生Divine Veil】


 俺は最初、Gデーモンの動きが鈍いのは、急成長による“細胞の発達部分と未発達部分の嚙み合わせが悪い”のが原因だと思っていたが、どうやらそうではなさそうだった。


「実際、巨大怪獣が存在したらこうなるよな……」

「そうじゃな。当然の結果じゃよ」


 地球もこの星もである以上、いきなり十メートルもの大きさに成長したらどうなるか。

 多分Gデーモンあいつは、その重すぎる体重を支えきれずに下半身の骨はぐっちゃぐちゃに砕けているのではないか? 動きが鈍いのはその為だろう。


「機動力を生かした戦い方で行こう。多分ヤツはほとんど動けないと思うけど、例の黒爪があるかもしれない。甘くはみるなよ!」

「もちろんですわ!」

「この中に『逃げてぇ~』とか言う人いないだろうからね」


 皆の視線が俺に向く。セイラ……毒ありすぎだろ。


「……と、とりあえず戦闘開始で!」

「なんか締まらないっスね」

「もうちょっと威勢よく行きたいものですわ!」


 ふわっとした戦闘開始でもいいじゃないか。……なんてことを言ったらまた怒られそうだな。


「ったく……いくぞ! これが俺達、新生Divine Veilの切り札。名付けてユナイト俺達のジョーカー切り札だ!」


「……ふう、ひねりもなんもあらへんな」

「なんか……そのまんまじゃのう」

「キョウちゃん……考えるの放棄したわね」


 もう……。言えば言ったでこれかよ。


「まあ、そこがキョウジさんの……」

 シルベスタ、悲しくなるからやめて……



 Gデーモンは脚を引きずる様な状態でずるずるとこちらに向かって来る。しかしそれは“歩く”と形容するにはかなり無理があった。痛みを感じているのかはわからないが、脚を動かすたびに悲鳴のような呻き声が響く。

 さらにその脚からは、取り込んだデーモンの手や足が数えきれないほど出ており、歩行しようとしているかのようにうごめく。しかし当然のことながらその自重の重さ故、手足は次々に潰れ、赤黒い血をまき散らすだけだった。

 

 ……そこには意思と呼べるものは無く、むしろ生命そのものが生存本能に従って足掻いているだけに見える。



 ――相手が動けないうちに先手を取る。

 敵の機動力はほぼ無いと判断していい。突発的に出てくる黒い爪はパトリシアの盾が、左手の電撃はレオンの水壁が、それぞれ守りを固めている。信頼できる仲間に守りを任せている事で、俺とセイラは攻撃に集中出来る。


 戦術が決まれば行動は早い。ユナイト・ジョーカーは機動力を活かし、Gデーモンの右側に回り込む。現状左手の放電能力が未知数の為、まずは右手の鉈、物理的な攻撃力を削るのが目的だった。


 こちらの動きに反応したGデーモンは、鉈を横に薙いでくる。巨大な体躯に巨大な鉈。破壊力だけならこの世界に並ぶ者はいないだろう。だがしかし、自重で脚が潰れてしまう位だ。当然上半身の動きも鈍い。 


「巨大化は失敗だろうな。ギャラプリのゴーレムよりも動きが悪いわ」


「え~、キョウジさんそれ酷いです~」

「そうっすよ。あんなのと比較しないでくださいって!」

「って、ギャラプリおまえらいつの間にそこに!?」


 横薙ぎの攻撃をかわし、その手首を狙って炎の剣を振り下ろすユナイト・ジョーカー。身体構造が脆いせいもあるのだろうか、全く手ごたえがないまま手首を切り落とした。


「キサマらがちんたらしているから戻って来てやったのじゃ!」

「感謝いたせ! 有象無象ども!」

「ミニセイラズまで……」


 腐りかけた果物を床に落とした時の様に『ぐちゃっ』と潰れるGデーモンの右手。

その手の中にあった巨大な鉈は、鈍い金属音を立てて辺りの瓦礫を圧し潰しながら倒れる。しかし、Gデーモンは右手を切り落とされた事を意に介していない様だった。それもそのはず……脚と同じく、斬られた手首からが無数に生え出していた。


「なんスかあれは! ズルくないっスか?」

「レオンも喰えば生えるかもしれんぞ!」

「いや、全身全霊で遠慮しまス。この右手ですら……アレですから」


 無数の手足は絡み合い融合し、更にその先からまた手足が生え融合。これを数回繰り替えすと、Gデーモンの右腕は禍々しい刃物と化していた。先ほどまで持っていた鉈の様な形状でありながら、所々に鋭い棘状の突起が生えていて、斬るというよりも“えぐり裂く”といった感じの武器であった。



「こっちも切り替えていくぞ。結構ヤバそうだ」

「OK、今のうちに削れるとこは削らないとだね」


 ――相手の獲物に合わせて、炎の剣の形状を変化させる。二本あった剣を一本に融合させ、長い柄と巨大な鎌首を持つ炎の戦鎌へと変化させた。これだけ巨大な炎を自在に形作れるのは、常に地脈から魔力の補充が出来ている事と、戦闘を完全に仲間達に任せている為だ。武器そのものに集中して操作が出来るのはかなり大きい。 


 ユナイト・ジョーカーの鎌がGデーモンの脚を狙い薙ぎ払う。しかしGデーモンはここで初めて想定外の動きをした。いや、のだ。足元を攻撃されているにも関わらず、まったく気に留める様子もなく微動だにしなかった。


「もうちょっといけると思ったんだけどな」



「ええ、思ったより大分早かったわね……」



次回! 第六章【be Still Alive】 -生きるための未来- ⑮Arms race

進化的軍拡競争……? なんスかそれ?

是非ご覧ください

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