③【おかみさん、またですか……】
とりあえず作戦としては“他の冒険者と連携して散開し魔力感知をする”つまりはレーダー網を広げて感知する。依頼を受けたのは俺を含め七人。これだけいればかなりのエリアをカバーできるだろう。単純だがこういった調査には人海戦術が一番効果が高い。
報酬は山分け。俺としては謎に興味が沸いただけなので無償でも良いが、まあ貰えるものは貰っておく主義だ。病気と過分な恩以外は。
早速今夜から担当エリアをしっかりと張り込む。ひたすら退屈な時間が続くが今は興味の方が勝っている。 刑事ドラマなら後輩があんパンと牛乳を買ってくる場面だ。
――東の方からだんだんと空が白んでくるのが見える。とりあえず今日の所はもう何も起こらないだろう。
何も起こらないだろう……
――起こった。
一瞬にして背筋に悪寒が走る! 突如として魔力溜りが発生した。それも俺の十メートル程後で。もちろん魔法が使われた形跡はない。その場には肉眼でわかるほどの魔力の薄黒い靄が、何も出来なかった俺をあざ笑う様に浮いていた。
張り込んでいた他の冒険者も気が付いたらしく、一人二人と集まってきた。普通なら『何が起きた?』くらい聞かれる状況なのだろうが、全員が突如として現れた魔力溜りを感知している為、聞いても無駄だと悟っているらしい。
とりあえず今は目の前のうっすらと浮いている黒い影に動物が近づかないようにするしかない。警察の話によると、発生から三十分程度で消滅しているらしい。
それにしても一体何が起きたのか? 魔力放出の過程を一切すっ飛ばして魔力留りだけ発生する。この現象を解明出来ないと何も解決しなさそうだ。
「それは、作ってもいないし食うてもないのに、食べ終わったラーメン丼が突然目の前に出現したような感じなんか?」
……うん、なんとなく当たっているぞ、タクマ
それにしても今回は消滅するのが遅い。完全に消えるまで一時間ほどかかっていた。今迄のものとは何か違うのか?
魔力溜り消失後に、影があった所を念入りに調べてみたが……なるほど、そういう事か。他の冒険者と情報を共有しておいた方が良さそうだ。全員を呼び集めようとしたその時、刺すような視線を感じた。
振り返ると警察官の一人がこちらをじっと見ている。見ているというより睨んでいる? 二十代後半といったところだろうか、それにしては眼光が鋭い。何か言いたそうではあったが、とりあえず怪しいヤツとして記憶しておこう。
そして、宿に戻るとまたもや……事件が起きていた!
「マジかこれ……」
店主は変わらず同じ顔をしている。しかし!またもやおかみさんが別人になっていた。スレンダー、力士ときて今度は……
――幼女になっていた。
いや、正確には幼女くらい幼く見える女性だが。店主も息子のジョンも何も違和感を感じていないみたいだが“毎日母親が変わるというこのあまりにおかしな現象”には、同じ宿に泊まっている冒険者も皆、訝しい顔をしていた。
「まあ、そうなるやろな~」
部屋に戻るとタクマがぼそっと呟いた。そういえば魔力溜りが発生してからずっと黙ったままだったが、何かを考えていたのか……?
「何かわかっている様な口調だな」
「あいつ、しっかり魔法使っていたで~。キョウジも見ていたはずや。言うても覚えてないやろな。ま、今夜にはわかるやろ。楽しみにしとき~」
こいつ、俺以上に楽しんでいやがる。というか俺が悩んでいるのを見て楽しんでいるのだろう。断片的なヒントだけを出して状況を楽しむのが、タクマの悪い癖でもある。
“魔力留りを確認した直後、この村の人物配置がおかしくなっている”この事実からするとこの二つは関連があると考えて差支えはない。
タクマの口調は“転生者に認識できない魔法行使がある事”を示唆している。
そして何故その魔法行使をタクマだけが認識出来たのか? これらの点をつなげていくと何となくは解ってきた。犯人の魔法を俺が見ていて、それでも記憶にない。その場にいた全員が記憶喪失にでもならない限り、この状況に至るには一つの可能性しか考えられない。
多分今夜、同じ場所で張り込みをしていれば解決する可能性はあるだろう。“タクマ次第”って所がムカつくが。
次回! 第二章【truth of Fault】-過ちの真実- ④衝突
魔法を使っていないのに痕跡が残る理由とは? 是非ご覧ください!
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